ときめき会話 森林公園 氷室一紀

 

森林公園

並木道(花見)

「僕が花見なんて……な。」

「らしくないね。」

「じゃあ聞くけど、僕らしいって何?」

「えっ。」

「花見してる僕が、僕らしくないって思うんだろ?じゃあ何してる時の僕が僕らしいの?教えて。」

「うーん……サーフィンとか?」

「あ……そっち。」

「え、そっちって?」

「あ、いや、どうせ 勉強とか、優等生っぽいこと言われると思ったから。氷室の名字にとらわれてるのは、僕自身なのかもな……」

(氷室くんも、色々悩んでるんだな……)

 

ホタルの住処(春)

「ふぁあ……」

「退屈だった?」

「ちょっと油断しただけ。忘れて。本当に退屈なんてことないから。安心して。……君の隣だと、つい気が緩む。」

「え、そうなの?」

「うん。もっと気を引き締めないとな。」

「そんな必要ないのに。」

「いや、みっともないところ、見せたくないし。特に……君には。」

(むしろ見てみたい……)

 

ホタルの住処(夏)

「ここのところ、酷暑が続いてない?」

「暑くても平気!」

「…………」

「? どうかした?」

「顔が火照ってる。」

「え、そう?でも大丈夫――わ!?」

「……汗も結構かいてる。日陰に移動しよう。きちんと水分補給した方が良い。そうだ、首元。少し服ゆるめて。」

「うん……えっ?」

「うろたえないでくれない?熱中症対策だから。早く風通し良くして。」

「わ、わかった……」

「……こっちまで熱くなってきた。」

 

ホタルの住処(秋)

「穏やか。気も緩むな。」

「刺激が足りないけどね。」

「刺激、欲しかったんだ。初耳。だったら、刺激的なことしてみる?」

「えっ!?」

「そこで焦られると、反応に困るんだけど。」

「う、ごめん。」

「じゃあ、目閉じて。」

「え……うん。」

(何するんだろう……?)

「……フーーッ!」

「 !?  氷室くん!? 耳!」

「ハハ!ご希望通りの刺激だよ、外的刺激!」

(くやしい……)

 

ホタルの住処(冬)

「鼻の頭、赤くなってる。」

「指摘しなくても……」

「無視しろっていうなら、無理。君のことはどうしたって気になる。ていうか、大丈夫なわけ?風邪ひいたりしない?」

「平気だよ。」

「あんまり自分を過信しないで。君が体調崩すと、周りが心配する。忘れないで。」

「うん。」

「……もちろん、僕だって心配する。」

「ありがとう。」

「……は?そのお礼、意味わかんない。」

「ええっ!?」

「心配してありがとうって言われるより、元気でいてくれたほうが嬉しいし。」

「うん…… えぇと やっぱり、ありがとう。」

「……うん。」

 

植物園

「植物って案外奥が深い……」

「やっと気づいたね。」

「植物に興味がないの、バレてたんだ?でもわかってきたよ。実際に触れたら、興味が出ることってあるだろ。まさにそれ。ま、将来を左右するほどじゃないけど。」

「それじゃ、サボテンとか育ててみれば?」

「サボテン?なんで?」

「氷室くんっぽいかなって。」

「どこが?」

「たくさん水を蓄えて、きれいな花を咲かせるって書いてあったよ?」

「それが僕の印象か……いいんじゃない。」

「あと、トゲもね?」

「……ぷっ、いい度胸だね。いいよ、そこまで言うなら、サボテン、考えてみても。」

(本当にちょっとトゲのあるサボテンに見えてきた……!)

 

博物館:常設展

メガネ着用追加コメント

「博物館にメガネの男女……なんか、お堅いカップルに見られてそう……」

「はっきり言って、何度も足を運ぶ意味がわからない。」

「お子さまだなあ。」

「……それ、言わないでくれない?」

「え?」

「努力でカバーできるものじゃないだろ、年齢って。僕だって、好きで君の後に生まれてきたわけじゃない。」

「そうだよね……ごめんね。」

「……いや、こっちこそ。日頃気にしてたことだから、つい。」

「そうなの?」

「どうがんばったって、同じ授業を受けたり、ましてや同じクラスになることなんてあり得ない。それに……いつかは君が先に卒業してしまうし。どうしたって、この一年という壁は超えられない。」

「氷室くん……」

「なんで君が寂しそうな顔してんの?僕を置いていくのは、君の方なのに。」

「ええっ!? 置いていくって、そんな……」

「はは、いい慌てっぷり。うん……せめて、君からも寂しがってもらえるようにならないとね。」

 

温水プール

「ウォータースライダーって、何が楽しいんだろ。」

「一緒に確認しよう!」

「アレに?一緒に?」

「うん。だめかな?」

「でも、あれって―― ………………ま、どうしてもっていうなら、考えなくもないけど。」

「やった!」

「はあ、楽しかった!氷室くんは、どうだった?」

「……思ってた以上の密着。」

「え?」

「な、なんでもない!少し泳いでくる。……煩悩、邪魔だし。 ハァ……最低だ。」

(???)

 

スケート場

ミニスカート追加コメント

「服装、TPOをわきまえた方がいい。寒そうだし、周りが見てる。僕も……気になる。」

「うん。コツ、掴めてきたかな。」

「氷室なのに?」

「頭で考えすぎるからな、うちの家系は。これもそうだし、サーフィンだってまずは体で感じて、感覚をつかめばいいだけ。」

「そうなんだ。」

「うん、そう。………………」

「どうしたの?」

「あ……いや。あんまり、ムカッとしなかったなと思って。『氷室』のこと言われたのに。」

「あ……そうだよね。」

「適当に受け流せるほど、僕に余裕ができたのか……?それとも、相手が君だから……」

「ん?

「……そうだな、そっちだな。」

「え? 何が?」

「なんでもない。とにかく、もう少し滑ろう。掴んだ感覚、ものにしたいし。」

「うん!」

 

フリーマーケット

「そのマグカップ、気になるの?」

「氷室くんとお揃いでほしいな。」

「……じゃあ、買ってあげる。」

「え? いいよ!わたしが買う。」

「僕からプレゼントされたくないわけ?」

「そういうことじゃないけど……」

「だったら、大人しくもらってくれない?」

「じゃあ、わたしが氷室くんの分を買わせて?お互いプレゼントし合おう。」

「え…… ……君がそうしたいのなら。」

「ありがとう、氷室くん。大切にするね。」

「うん、そうして。せっかくプレゼントし合ったんだし。それに、今日の思い出だから……僕も大切にする。」

「うん……!」

 

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