勉強
柊夜ノ介
1
(あっ、そうだ。図書室に本を返しに行かないと)
女子生徒A「さっきからずっとだよ……」
女子生徒B「どうしたのかな、夜ノ介君……具合でも悪いのかな?」
(え……柊くん?)
「はぁ…… あ、あなたでしたか。」
「柊くん、どうかしたの?」
「いえ、僕の問題です。また貴重な時間を無為に過ごしてしまいました。勉強をしようと思い、ノートと教科書を開くのですが、そこからただただ、ぼうっとしてしまいました……」
「あ、行っちゃった……」
(劇団の仕事と学校の勉強、どっちもなんて、大変だよね……何かお手伝いできればいいけど)
2
(そういえば……この間柊くん、図書室で一人で勉強するの困ってたよね……)
(柊くん、閲覧席にはいないみたい……)
「◯◯さん、誰かを探していますか?」
「あ! うん、柊くんを探してたの。」
「僕に用事? なんでしょう?」
「ううん。ただ、一緒に勉強できればって。」
「そうですか。ありがとう、是非お願いします。」
「うん。わたしもひとりだとなかなかやる気出ないから。 あれ、それは……?」
「ええ、先ほど見つけました。……中学生の参考書。僕にはちょうど良さそうです。」
「え?」
「お恥ずかしいですが、特に中学三年の時は、あまり学校に通えませんでしたので……」
「劇団がはばたき市に来る前だもんね。」
「理事長のご厚意で入学させていただきました。皆さんのようにはいきませんが、少しでも近づければと思います。早速、やりましょう?」
(柊くんは凄いな。忙しいはずなのに……わたしにできることは協力してあげたいな)
3
(柊くん、図書室で勉強がんばってるかな……? 行ってみよう)
「◯◯さん、来てくれたんですね。」
「うん、がんばってるね?」
「ええ。中学生の参考書を見つけてからは、呆然とする時間は無くなりました。」
「よかった。このまま進めていけば大丈夫だよ。」
「あなたがそう言ってくれると、心強い。そうだ。わからないところがあるんです。こちら、いいですか?」
「うん!」
︙
「そうか……午前中の英語の授業でやっていた “過去進行形” の意味がやっとわかりました。」
「ふふっ、良かったね。きっとどんどんわかることが増えてくよ。」
「ありがとう。あなたは僕の先生です。」
「ううん。わたしも勉強になってるから。ありがとう。」
「あなたって人は……泣かせないでください。」
「ふふっ。これくらいで泣いちゃダメだよ?まだまだ学ぶことはいっぱいだから。」
「ですね。 “過去進行形” の意味がわかっただけ。先は長いですね。先生、これからもよろしくお願いします。」
(わたしも柊くんと一緒に勉強できて楽しいな……!)
風真家の蔵
柊夜ノ介・風真玲太
1
「ぜひお願いしたいです。頼めますか?」
「かまわないよ。でもさ、そんな面白いものは無いと思うけどな。」
「あ、柊くんと風真くん。何してるの?」
「ああ、何って柊がさ、おじいちゃんの店の蔵が見たいらしい。」
「はい。風真家の蔵には、博物館級の品もあるとお聞きしました。」
「そっか、風真くんのお家は由緒正しい家柄だもんね。」
「まあな。おまえたちが言うと、嫌味に聞こえないのが不思議だ。」
「ええ?」
「なぜ嫌味に?」
「よく言えば純粋。……おまえたちに似たところがあるって、初めて知ったよ。」
「え?」
「あなたと僕が?」
「まあ、わかったよ。おじいちゃんに頼んでみる。じゃあな。」
「ありがとうございます。」
「あ、でも、見映えするものは、だいたい寄贈しちゃってるぜ。」
「いいんです。何かインスピレーションをいただけるだけで。では、僕も行きますね。」
(インスピレーション……?柊くんは新しい演劇のヒントを探しているのかも?)
2
(次の授業は……)
「すみません。風真君、いますか?」
「あ、柊くん?」
「おじゃまします。」
「柊、なんだよ?」
「こないだのお礼に来ました。御祖父様にも、よろしくお伝えください。」
「柊くん、風真家の蔵を見学できたんだ?」
「はい。本当に、興味深い体験でした。」
「ふふっ。柊くん、うれしそう。」
「ええ。舞台づくりのヒントにしたいと相談させてもらったら、色々見せてくださいました。」
「そうだったんだ!」
「ああ、おじいちゃんも喜んでさ、早速次の約束してた。」
「次は、掛け軸や屏風なども準備しておいていただけるそうです。」
「俺も見たことないものもあるから楽しみだ。」
「ええ、待ち遠しいです。」
(風真くんと柊くんと風真くんのおじいさんって、なんだかすごくいい関係だなあ)
3
「うん、いいですね。」
「いや、面白いけどさ。」
(あ、柊くんと風真くんだ)
「◯◯さん、いいところに。」
「どうかしたの?」
「柊が、蔵にあった古文書に興味持ったらしい。」
「はい、御祖父様のお話も含めて、とても興味深かった。」
「古文書って昔の人の手紙……あ、ラブレターとか?」
「ふふん、確かに舞台にはしやすいかも知れませんね。」
「そんなんじゃないよ。『譲状』、昔の財産譲渡の証明書。面白いか?」
「えーと……」
「そう言ってしまえばそうですけど、兄弟姉妹に丁寧に配分されていて、きっとそこには物語がありますよ。」
「なるほどな、さすが座長。掘り下げるところが面白いな。」
「風真君にそう言ってもらえると嬉しいですね。ゆっくり考えてみます。」
「新しい演目ができるといいね。」
「どうだろうな?そんな簡単じゃないだろな。でも、何かのきっかけになったら、俺もおじいちゃんも嬉しいよ。」
(うん、どんな演目ができるのか、楽しみだな……!)
あいさつ
1
女子生徒A「おはようございまーす!」
女子生徒B「おはよー。」
「おはようございます。」
「柊くん、おはよう。ご苦労様です。」
「はい、生徒会の大事な仕事。今日は当番ですから。でも、挨拶強化運動は好きなんです。」
「ボンジュ~ル。」
「ボンジュール。」
「あははっ! ひかるさんおはよう。」
「マリィ、せっかく夜ノ介さんが乗ってくれたんだから、ほら?」
「え?」
「さあ、どうぞ?」
「えーと……ぼ、ぼんじゅーる?」
「うんうん。マリィ、最高!」
「もう、二人とも……」
「おはよう。」
「はい、おはようございます。」
「あれ? みちるさんには言わせないの?」
「お姉ちゃんはムリ。」
「ええ、難攻不落でした。」
「なんの話?」
「『ボンジュール』のことだよ。」
「あはは。マリィは言わされちゃったんだ。仕方のない二人。」
「あ、待ってお姉ちゃん。マリィ、行こう!」
「う、うん。じゃあ柊くん、がんばってね?」
「はい。本当に挨拶強化運動は楽しいです。」
(うーん、柊くんとひかるさんには、要注意かも……?)
2
女子生徒「さようならー。」
「さようなら。お気をつけて。」
「柊くん、お疲れ様。」
「◯◯さん。生徒会の大事な仕事、挨拶強化運動です。」
「好きなんだよね?」
「ええ。皆さん色々楽しい挨拶をしてくれますから。」
「サリュ~!」
「サリュー!」
「え?」
「マリィ、ほら?」
「挨拶強化運動期間ですよ。」
「こらっ。 ヒカルも夜ノ介さんも、悪ノリが過ぎるよ?」
「あ、みちるさん。」
「もう、お姉ちゃん。挨拶運動楽しんでるのに邪魔しないでよ?」
「マリィは楽しんでないし、きっと困ってる。」
「え!? あなたは困っているのですか?」
「えっ、ううん。困ってはいないけど……」
「ほら、お姉ちゃんの勘違い。」
「そうなの?じゃあマリィ、どうぞ。」
「えぇと……さ、さりゅー?」
「うんうん、行こう!サリュー、夜ノ介さん。」
「はい、サリュー。」
「夜ノ介さん、さようなら。じゃあ、帰りましょう。」
「う、うん。」
(うーん……やっぱりわたし、言わされてるのかな……?)
3
(あ、柊くんだ。今日も挨拶強化運動の当番みたい)
「おはようございます。」
男子生徒A「うぃーす。」
「あ、それも楽しい挨拶ですね。」
男子生徒B「うぃー!」
「うぃー。」
「ふふっ!柊くん、また新しい挨拶を覚えたみたいだね?」
「はい。みんな自然と笑顔になる。楽しい挨拶っていいです。」
男子生徒A「そっか、柊もどんどん使えよ。」
「うぃー。」
「ウィ? 夜ノ介さん、ダメダメやり直し。い~い? ボンジュール!」
「ボンジュール!」
「ボンジュール!」
「……ボンジュール。」
「アハハ、お姉ちゃんもできるじゃない♪」
「できるに決まってるでしょ。まあ、今日はそんな気分だっただけ。」
「ふふっ!」
「ふふん。やっぱり挨拶強化運動は好きです。」
(柊くんの気持ち、わかったかも? 面白い挨拶で自然に笑っちゃうっていいな!)
冷やし中華
柊夜ノ介・御影小次郎
1
「それなら、絶対おすすめだ。好きになるぞ?」
「はい、今度試してみます。」
(あれ、今の声は……)
「◯◯さん、こんにちは。御影先生に冷やし中華について、お聞きしていました。」
「おう。おまえも冷やし中華に興味ありか?」
「こんにちは。二人とも、冷やし中華好きなんですか?」
「いいえ。実は未体験なんです。」
「あんな旨いものなぜ?」
「ふふっ。御影先生は大好きなんですね?」
「おう。一年中食べたいけど、夏しかお目にかかれない。秋になるとふっといなくなる。」
「出はけのタイミングが素晴らしいんですね。」
「さすが、わかってるな。それにおまえ、ところてんが好きなんだろ?」
「はい。酢醤油でいただきます。」
「冷やし中華も同じ。胡麻だれもいいけど、圧倒的に酢醤油とカラシ。」
「ところてんもカラシは必須です。」
「なるほど。冷やし中華とところてんは、共通点が多いんだ……」
「そういうことだ。今度、試してみろよ?じゃな。」
「◯◯さん、学食に冷やし中華ってありましたか?」
(えーと……どうだったかな?)
2
「まあ、無理言って学食のおねーさんたちを困らせんのも本意じゃねぇしな。」
「はい、残念ですが……」
「柊くん、御影先生。これからランチですか?」
「◯◯さん。ええ、冷やし中華はないみたいです。」
「そっか。この前、盛り上がってたもんね?」
「ああ。でもさ、季節もんだからな。この先登場する可能性はある。」
「ええ、じゃあ今日は別のものをいただきましょう。あなたも一緒にいかがですか?」
「うん、ぜひ。」
「じゃ、行こうぜ。」
「あ、御影先生。リクエストBOXという手がありますよ?」
「おお、まずは正攻法だな。」
(ふふっ、二人とも学食で冷やし中華、食べられるといいね)
3
「ええ、ぜひお願いします。」
「じゃ、今日の放課後な。」
「あ、柊くんと御影先生? 二人がそろってるってことは……」
「冷やし中華です。」
「おまえも、一緒に行くか?放課後。」
「御影先生のおすすめのお店で冷やし中華をご馳走になります。」
「そうなんだ!わたしは遠慮しとこうかな。夜ごはん食べられなくなっちゃうから。」
「それがさ、あっさり醤油だから何杯でもいけるんだ。」
「僕も夜は会食があるので、あっさり醤油にします。」
「ええ? 会食があるのに……大丈夫なの?」
「ああ、一杯じゃ逆にお腹空くくらいあっさり醤油だ。安心しろ。」
「逆に空くってすごいですね……2杯食べたら、どうなるんでしょう?」
「試してみればいい。◯◯、だから安心しろ。いつもより夕ご飯が美味しくなる。」
「えーと……?」
「じゃあ決まりだ。二人とも、後でな。」
「食べたらお腹空くってすごいですね。楽しみです。じゃあ。」
(柊くん、そんなわけないよ……!)