喫茶店会話 御影小次郎

 

好きなテレビ番組について

「御影先生はテレビとか観ますか?」

「あんまり観ないかな。どういうの見ればいいんだ?」

「御影先生におすすめですか?例えば……自然番組とか。」

「わかった、今度観てみよう。でも、あのテレビ映るかな……」

「電源も入れてないんですか?テレビ、あんまり好きじゃないんですね?」

「いや、家のテレビは気に入ってるぜ。観葉植物の蔓(つる)が結構いい感じで絡みついててさ。ま、ちょっと観にくいかもしれないけどな。」

(えーと、御影先生のテレビはインテリアと……)

 

好きな食べ物について

「好きな食べ物ってなんですか?」

「新鮮な野菜や肉はほんと美味いよな~。」

「じゃあ、好きな食べ物は御影先生が育てた野菜――

冷やし中華!」

「えっ?ちょっと意外かも……?」

「そうかな?採れたて野菜をのっけてさ。オールシーズン食べてーなー!」

「なるほど。野菜を美味しく食べる方法ですね。」

「そうだな。でもさ、野菜無しの『素の冷やし中華』もいけるぜ?醤油だれと紅ショウガの酸味のダブルパンチ。そこにカラシだ~。」

「野菜関係なしで、冷やし中華が大好きなんですね。」

「ああ。それなのに、学食メニューに入ってないんだよ。はば学に文句があるとすれば、その一点だ……」

(たしかに……なんでないんだろう?)

 

好きなスポーツについて

「御影先生はどういうスポーツが好きですか?」

「あのな、俺は一応陸上部顧問っていう顔も持ってるんだけどな~。ま、忘れられて当然だけど。」

「ふふっ、園芸部だけでも大変ですし。」

「フォローしてくれるのか。良い子だ。うーん、陸上競技は置いといて、ポロは昔やったな。」

「ポロ?」

「むかーし、留学中にやってた。サッカーの何倍もある競技場で、馬を走らせるんだ。人馬一体の感覚に加えて、チームプレーで球をゴールに運ぶ。楽しかったよ。 競技場、馬、とても贅沢なスポーツだ……うちの理事長なら何とかしてくれっかな?」

(はば学ポロ部ができたら、また顧問かけ持ちかな……?)

 

よく聴く音楽について

「御影先生はどういう音楽が好きですか?」

「昔さ、植物にクラシックを聴かせると、良く育つみたいな話があっただろ?その時はついでに聴いてたかな?」

「クラシックが好きなんですね。御影先生らしいかも。」

「そうか?好きって言えるほどじゃないけどさ、体育祭っぽくていいよな?」

「体育祭?」

「天国と地獄とかさ、ギャロップの道化師。テンションを無理やり上げられる。朝から聴くと、身支度が早く終わる。」

(ふふっ。御影先生は、テンポのいい曲が好きみたい)

 

趣味について

「御影先生の趣味ってなんですか?」

「それそれ、最近助かってる。DIYって言えばウケがいいの知ってんだ。」

「ウケがいいんですか?」

「家でテーブルや椅子、植物プランターとかせっせと作ってるけどさ、それ説明すんの面倒くせぇんだよ。一生懸命説明し終わってもさ、『へー』みたいな感想しか言われない。で、DIYに出会った。こいつのおかげで、『へー』のタイミングが早くなって助かってんだ。で、おまえの感想は?」

「えぇと、何でも自分で作るなんてすごいですね。いつからやってるんですか?」

「うん、中学の時に犬小屋を作った時からかな?」

「手作りの犬小屋って、可愛いですね。」

「可愛いかはわからねぇけど、外装のペイントもしたし、10頭はいたから基礎からしっかり作ったよ。」

「趣味の域を超えてるかも……」

「だから、文化祭の準備期間はテンションが上がるんだ。」

(DIYっていうよりも大工さんみたい……)

 

学校について

「御影先生って中学生の頃、どんな感じだったんですか?」

「いきなり中学時代か……そうだな、女の子大好きで、友だちと動物と遊んでばっかいた。」

「今とかわりませんね。」

「こらっ。言ったな~?」

「ふふっ、すみません。」

「確かに、まったく成長してねーな。俺にとっては高校時代だけ異質だったのかもな?」

「高校の時?」

「ああ、ずっと海外だったからさ。ま、その分、今、目いっぱい高校生活をやらせてもらってる。おまえらのおかげでな。」

「わたしたちも御影先生のおかげですごく楽しいです。」

「よーし、この互いに利益を得る共生関係のことを相利共生という。覚えとけ~、テスト出すぞ~。」

「ふふっ、生物の授業みたいですね。」

(御影先生のおかげで、はば学はすごく楽しくなってる気がする!)

 

将来の夢について

「御影先生の将来の夢ってありますか?」

「打倒、氷室教頭だ。」

「え?」

「今、絶対聞こえてたよな。口にするのも怖ぇんだから、何回も言わすなよ。『さすが御影先生です。負けました』と言わせるのが夢だ。」

「えーと、『負けました』とは言わないと思いますけど?」

「それがあるんだな~。将棋だ。これで、氷室教頭に頭を下げさせることができる。」

「御影先生、将棋得意なんですか?」

「いや、それが全然。だから将来の夢の話だろ?」

(氷室先生は将棋も得意そうだな……)

 

異性の好みについて

「御影先生、好きな女性のタイプってありますか?」

「あるよ。逆にさ、嫌いな女子ってのが難しいかもな。俺の方が嫌われてる可能性は否定しないけどさ?」

「そんなことは……みちるさんもひかるさんも、御影先生が担任でいいなって言ってます。」

「あいつら、嬉しいこと言ってくれるな~。それで、肝心のおまえはどうなんだ?」

「わたしも、御影先生のクラスでよかったです。」

「うん、俺もだ。おまえみたいな、前向きな真面目ちゃんが俺のタイプだからな。」

「わたしが?真面目ですか?」

「もう、その反応が真面目ちゃんの特徴だ。頑張れ、そのまんま大きくなれよっ!」

(えぇと……わたし、なにを応援されてるんだろ?)

 

恋愛について

「真面目に聞いてもいいですか?」

「いいよ。」

「御影先生は、恋愛ってどういう風に考えていますか?」

「おおっ、来たな。じゃ俺も真面目に。俺がここにいておまえと話しているのは、今まで俺に関わってくれた生き物全てのおかげって思ってる。」

「生き物すべて……ですか?」

「動物や植物からだってメチャクチャ影響受けたよ。恋愛って相手は人間で、更にひとりだけだろ?そんなに厳選しても意味はないって思う。常に近くにいられる人が最適だし、お互いに効率的だ。共生相手としてはさ。」

「えぇと、生物の授業みたいですけど……」

「俺にとっては近いかもな?」

(御影先生の意外な一面を見られた気がする……)

 

告白未遂

「なぁ、おまえさ――

「はい、なんですか?」

「いやさ、おまえはなんでも真面目に考えるだろ。いいんだ。それが魅力だもんな。」

「えぇと……?」

「ただな?こないだ『恋愛について』どう考えてるかって、聞いてきたよな。」

「あ、はい。」

「真面目に考えて答えを出すだけが、解決方法じゃない―― ……って、こともあるんだ。恋愛なんて特にな。」

「御影先生……?」

「恋愛ってのはさ、急に大きくなったり、重くなったり、熱くなったり?一瞬で変化すんだよ。」

「……どういうことですか?」

「だから、今この瞬間の気持ちをあんまり真面目に受け止めんな。な? 俺だって、今この状況で恋愛について考えろって言われたら、おまえが対象になっちゃうぜ?」

「え!?」

「な、危ねぇだろ。」

「…………」

「だから、真面目に考えすぎんなよ?」

「はい……」

(御影先生、この前わたしが恋愛について聞いたこと、気にしてくれてたんだ……)

 

柊・氷室・御影グループ

御影先生について

「御影先生の周りって、いつもすごくにぎやかですよね?」

「元気いい男子が多いからな、うちの学校は。それに最近は、おまえ、夜ノ介、イノリ、にぎやかって感じじゃない、面白いメンツも集まってる。」

「え、わたしもですか?」

「ん?自分は違いますみたいな顔して、どうした?面白いヤツ筆頭だぞ。」

「えぇ……」

「いいか、これからの人生において、面白いって最高の褒め言葉だぞ。可愛かろうが、綺麗だろうが、つまらなかったら……つまんないだろ?」

「えぇと……はい。」

「面白い奴め。夜ノ介とイノリも同じだ。あいつらも自分の正義を持ってて、不器用に貫いている。みんなやってることバラバラだけど、その姿勢が俺には可愛く、かっこよく、綺麗に見えてんだ。」

「すごくうれしいですけど……わたしは、そんなことは――

「いいか、一見違ってみえるけど、深いとこで共感できる友だちは大事にしろよ?」

(御影先生と柊くんと氷室くん、全然違って見えるけど、実は似てるところがあるのかも?)

 

柊くんについて

「御影先生、最近、柊くんとよく話してますよね?」

「ああ、やっと俺のこと認めてくれた感じがするな。」

「え?」

「あいつにとって、学校はどうしても劇団の次だからな。問題なく過ごすためだけに通ってる。でもな、あいつは俺の好きな真面目ちゃんで、そういう自分が許せないって、俺に話してくれた。」

「そうだったんですね。」

「俺は嬉しかったよ。あいつもクソが付くほどの真面目ちゃんだ。おまえといい勝負。きっと、理解しあえるところもあるよ。」

「御影先生……」

「もし、あいつがそんな話をしてきたら、おまえの考えを伝えてやってくれ。」

「はい。」

「やべ。今日は俺の中の真面目ちゃんが出すぎたな。」

(御影先生はいつも、わたしたちのことを真剣に考えてくれてるんだな……)

 

氷室くんについて

「御影先生、最近、氷室くんとよく話してますよね?」

「そうかもな。あいつ1コ下なのにさ、なんかこっちの学年の教室うろついてるよな。ほんと、面白いやつ。」

「御影先生のこと、探しているんじゃないですか?」

「表面的にはそうだけど、実際は俺をだしにして、おまえを探してんだよ。」

「え?」

「俺に用なら、理科準備室、園芸部、もっと確実にいる場所あんだろ?」

「そういえば……」

「な?おまえも1コお姉さんなんだから、察してやれよ。」

「えぇと、どうすれば……」

「あいつが、俺を探してるような素振りで現れたら、話しかけてやってくれ。それだけでいいよ。」

「はい。でも、御影先生はどうして氷室くんと仲がいいんですか?」

「そりゃ、大いなる野望のためだよ。」

「野望?」

「打倒氷室教頭だっ。」

(打倒って……御影先生、氷室くんと一緒に何をするつもりなんだろう?)

 

男友だちだけで話す話題って?

「御影先生、最近、柊くんと氷室くんとよく一緒にいますけど、どんなお話してるんですか?」

「意外とイノリが話を回してたりするんだぜ?」

「そうなんですか?」

「ああ、夜ノ介と話しながら、生徒会の動きを探ってみたり。それとなく、俺から学校行事のこと聞きだそうとしたり。」

「ふふっ、賢い。氷室くんらしいかも。」

「ああ。でもな、夜ノ介もわかってるから、『ちょっと違った情報、混ぜてみました』みたいなこと、俺にこっそり言ってくる。」

「へぇ……柊くん、面白いですね。氷室くんは騙されちゃうんですか?」

「どうかな、あいつはそんなことも含めて、楽しんでるのかもな。そして、あいつらが最も探り入れてくるのが、おまえのこと。」

「えっ!?」

「おまえの情報を俺だけが握ってるのが、許せねぇんだと。俺は担任だって言っても、全然聞き入れない。夜ノ介は『フェアとは言えませんね』とか普通に言うし、イノリは『大人げない』とか意味わかんないこと言いやがる。」

「わたしの情報って、何を?」

「主に成績かな~。ま、守秘義務は守ってる。安心して、勉強を頑張りなさい。」

(ええ……三人でいったい、わたしの何の話をしてるんだろう)

 

わたしの存在について

「男子は男子だけで話した方が楽しいんですよね?」

「どうした?急にヘンなこと言いだして。」

「御影先生、柊くん、氷室くんと一緒にいると、そんな気がしてきて……」

「あいつらは知らないが、俺はおまえがいた方が断然面白いぞ?それも、おまえがいることで、あいつらが更にいい味出してくる。」

「いい味ってなんですか?」

「すぐにさ『おまえのこと、俺が一番わかってる選手権』が始まるじゃん?ま、俺も参加しちゃうんだけどさ。」

「ええ?」

「おまえが好きな科目とか学食メニューとか、さも知ってて当然みたいに、イノリが話す。すると夜ノ介が『そういえばこないだ、メニューがかぶりましたね』みたいなことで、マウント取ろうとする。」

「はあ……」

「二人に言わせると、俺は職業上おまえの情報を持ってるから卑怯なんだと。」

「ええっ!?」

「ほら、あいつらの面白さは、おまえがいると更にアップする。だから、もうヘンなこと考えんな。」

(うれしいけど……ちょっと質問の答えと違うような)

 

グループの絆について

「さいきん、柊くん、氷室くんと4人でいるのが普通になってきましたね。」

「そうだな。このメンツの結束は強そうだって思ってる。」

「そうなんですか?」

「ああ、同じ目標や趣味で集まったメンバーとは違うだろ?年齢、性別、までバラバラ。何で集まったんだ?」

「……なんででしょう?」

「俺もわかんねぇ?でもな、そういう仲間って強いぜ?部活ができなくなった……違う趣味ができた……何があっても変化無し。」

「なるほど……」

「あいつらもわかってると思うよ。夜ノ介は演劇の話一切しないだろ?イノリも同じだ。二人ともどこかでわかってるんだろうな。」

「じゃあ、わたしたちの絆はずっと続くのかな……」

「ふっふん。そう思うだろ?ところがだ、1つ、全員共通の最大関心事がここにいる。」

「?」

「おまえだよ。だから、おまえ次第でどうにでもなっちゃうかもな?」

(えぇ?そんなこと言われても……)

 

ちょっとドキドキしてる……

(あれ?どうしたんだろう、わたし。すごくドキドキして……)

「◯◯、大丈夫か?」

「急にドキドキしてきて……」

「お、おい。体調が悪いのか?」

「あ……」

「なんだ?」

「体調じゃなくて……たぶん、御影先生と一緒にいるから……」

「お、おおい。 …………そんなスキル、いつ身に着けたんだぁ?手ごわくなってきたな。」

「……ふぅ。少し落ち着きました。」

「はぁ、こっちはまだだ。」

「え? 大丈夫ですか?」

「さてはわざとやってんな?お嬢ちゃん、あまり調子に乗ると……」

「え?」

「ウー、ガウッ!!」

「きゃっ!?」

「噛みつくぞぉ!ははは!」

(さっきの御影先生……ちょっといつもと違ったかも。またドキドキしちゃった)

 

御影先生を見つめる

「…………」

「ん? なんだぁ?」

「あっ、ごめんなさい。じっと見ちゃいました。」

「別にかまわねぇよ。」

 

「ほら、倍率最大だぞ?しっかり観察しろ。」

「……ち、近いです。でも、御影先生の目、キレイですね?」

「おまえの目も――

 

「やばいな……倍率上げすぎた。いいか、倍率あがると視野は狭くなる。周りが見えなくなったら危険だろ。」

「え? 危険ですか?」

「そうだよ。 ふぅ……あっぶね。」

(御影先生の目、キレイで少しドキドキしちゃったな……)