喫茶店会話 氷室一紀

 

好きなテレビ番組について

「テレビは、どんなの観てるの?」

「ニュース。」

「ふーん、大人だね。」

「普通でしょ。世の中に無頓着なほうがゾッとする。」

「そっか……海に関する番組とかは見ないの?」

「バラエティだったら見ない。ドキュメンタリーはたまになら。」

「海の生態系を追うやつとか?」

「そう。ありのままの自然、映すし。」

「そっか。氷室くんらしいね?」

「僕らしいって、君に僕の何がわかるわけ?」

「ふふっ、そうだね。じゃあ、これからもいろいろ教えて?」

「……気が向いたら。」

(なんだかんだ言っても氷室くん、自分のこと教えてくれるよね)

 

好きな食べ物について

「好きな食べ物ってなに?」

「聞いてどうするわけ?」

「どうする……って、氷室くんのこと知りたいなって思っただけだよ。」

「別に何が好きでもよくない?作ってくれるわけでもないんだし。」

「がんばれば作れるかもよ?」

「そう?なら、サーターアンダーギー作れる?」

「難易度高いとこきたね。」

「ま、期待してないからいいよ。」

「えぇと、好きな食べ物は教えてくれないの?」

「もう言ったけど。」

サーターアンダーギーが好きなんだ?」

「悪い?」

「悪くないけど……意外かも。甘いもの好きか。」

「好みの問題。意外とか言われる筋合いない。」

「そっか。覚えておくね。」

「好きにしたら?」

サーターアンダーギー、作れるよう練習してみようかな?)

 

好きなスポーツについて

「サーフィン以外のスポーツって、何かやってる?」

「今のところ、興味ない。」

「興味出たらやる?」

「まあ、出たら。運動、苦手じゃないし。」

「うん、知ってるよ?」

「なら、いいけど。勝手な先入観って嫌いだから。」

「勝手な先入観?」

「この苗字のせいで、勉強ばかりの堅物って思われがちなんで。」

(氷室家の家柄のこと、気にしてるんだろうな……)

 

よく聴く音楽について

「氷室くんは音楽とか聴く?何か好きなのある?」

「なんでも聴く。一番好きなのはロックだけど。」

「へぇ、ちょっと意外かも。」

「君の中の僕って、どんなイメージなわけ?」

「クラシックとか聴きそうな感じ?」

「それって、レーイチさんのイメージでしょ。」

「そ、そうかも。」

「ま、クラシックも聴くけど。ロックはテンション上がる。別のベクトルで好き。ポップスとかも悪くないけど、無難なとこがちょっと物足りない。」

(すごく語ってくれる。本当に音楽が好きなんだな)

 

趣味について

「ねぇ、氷室くんの趣味ってなに?」

「特にない。」

「本当に?サーフィンは?」

「趣味とはちょっと違う。好きだけど。」

「だったら、他に好きでやってることってある?」

「パソコンでチェスとか囲碁とかの対戦。」

「へえ!」

「戦略練るのは楽しいし、相手の考えを読み解くのも面白い。」

「じゃ、その対戦ゲームが趣味なんだね?」

「面白いってだけで、これも趣味ってほどじゃない。」

(十分趣味みたいに聞こえるけどな……)

 

学校について

「ねぇ、氷室くんって中学生の頃、どんな風だったの?」

「今と変わらないけど。」

「そうなんだ。」

「言っておくけど、成長してないって意味じゃないから。」

「ふふ、うん。」

「なに、その笑い。」

「どんな中学生だったのかな?って想像して……」

「どうせ可愛くないよ。」

「それが氷室くんだしね?」

「……それ、どういう意味?」

(変わってほしいような、ほしくないような?)

 

将来の夢について

「氷室くんの将来の夢って、どんなの?」

「夢……」

「もしかして、ない?」

「ないって言うか……まだわからない。」

「プロのサーファーになったりはしないの?」

「サーフィンはやってて気持ちいいだけ。将来の夢としては考えてない。もっと他にやりたいことがあるはずだし。……何かはわからないけど。」

「そうなんだ。」

「夢とか語る人を見ると 先、行かれてる感じがして焦る。」

「まだまだ時間はあるし、のんびりでいいと思うよ?」

「光陰矢のごとし。気づけばあっという間でしょ。ま、卒業までには見つけるけど。」

「うん、楽しみにしてるね。」

「どうも。」

(氷室くんのやりたいこと、見つかるといいな)

 

異性の好みについて

「あのね?好きな女の子のタイプって、なんかある?」

「……知ってどうするの?」

「どうするって……単なる興味かな?」

「興味本位な人に話す筋合い、ないし。」

「う……」

「……あえて言うなら、うるさくない人。」

「そうなんだ?」

「やかましいのは嫌い。でもさ。恋って気づいたら落ちてるものらしいけど?タイプとか気にする暇あるわけ?」

(なるほど……一理あるかも)

 

恋愛について

「ねぇ、真面目に聞くんだけど、いい?」

「改まって、なに?」

「あのね、氷室くんは恋愛ってどういう風に考えてる?」

「は……?」

「氷室くんの恋愛観が知りたいなと思って。」

「そんなの、わからないよ。興味ないし。」

「そうなんだ?」

「……君はどうなの?」

「えっ?」

「人に聞くんなら、まず自分から語ってみたら?」

「わたしの恋愛観?ええっと……」

「………………」

(なんか……視線が熱いような?)

 

告白未遂

「ねえ。」

「何?」

「……前に恋愛について、聞いたでしょ?あれは、なんだったの?」

「え?」

「あの時、どう答えるのが正解だった?急な質問に、頭が真っ白になって とっさにあんな風に答えたけど……あれからずっと、何度もあのやりとりを思い出しては反省を繰り返してる。」

「ええっ、そうなの?」

「そうなのって……君はそんな他人事なんだ……? は……ずっと悩んでた僕が馬鹿みたいだ。」

「そ、そんなつもりじゃ――

「うるさい。もうこれ以上、かき乱さないで。」

「氷室くん……」

「送ってくれて、ありがとう。」

「うん。」

「氷室くん、わたし――

「いい。大丈夫だから。少し頭を冷やす必要があるだけ。じゃ、また。」

(氷室くん……)

 

風真・颯砂・氷室グループ

風真くんについて

「ねえ。この頃、風真くんに絡みに行ってない?」

「何その表現。絡んでるつもりはないけど?」

「そっか。でも最近、仲良いよね?」

「仲が良い、っていう表現が妥当なのかは別として……リョータ先輩は、あの容姿でなんでもできるし、人気もあって人当たりもいいし……純粋にすごいな、って思ってた。」

「……過去形?」

「最近よく話すようになってから、イメージ変わった。この人も、いろいろ気苦労絶えないんだな、って同情することが増えたし。」

「そうなんだ?」

「君がそんな感じだし。」

「え、わたし?」

「ま、見てて面白いしこの関係が続くのもいいかな。」

(……面白がってる?でもやっぱり、なんだかんだ仲良いよね。氷室くんと風真くん)

 

颯砂くんについて

「最近、颯砂くんとよく話しているね?」

「話すっていうか、あっちが絡んでくるだけ。兄貴風吹かせてきて、迷惑。1つしか違わないのに。」

「頼れるお兄さんって感じでは?」

「それはない。 けど、きっと頭の良い人なんだろうね。」

「氷室くんが言うなら、間違いないね。」

「あれだけいつも陸上のこと考えてるのに、周りとの関係も上手く築けてる。何かに真剣に打ち込むと、周りと距離や溝ができがちなものなのにさ。」

「氷室くん……」

「その上、結果も残してるんだから認めざるをえないよね。でも、この僕にデカスロンを勧めてくるあたりはやっぱりナンセンス。」

(氷室くんなりに颯砂くんのこと、認めているんだよね)

 

氷室くんについて

「最近、氷室くんの周り、にぎやかだよね。」

「ホント、迷惑。リョータ先輩もノゾム先輩もうるさすぎ。……特に君が絡むと余計。」

「えっ?」

「まあ、悪いのは君じゃなくて、あの二人。なんだかんだで、僕もリョータ先輩とノゾム先輩のペースに巻き込まれるし……僕も僕で、以前みたいにキッパリと断れなくなってきたとこもあるけど…… はあ……らしくない……」

(氷室くんなりに、今の状況に満足してるってことかな?)

 

男友だちだけで話す話題って?

「ね、氷室くん。風真くんや颯砂くんと普段、どんな話してるの?」

「別に。普通の話。」

「普通の話って?」

「掘り下げないでくれない?」

「……言いにくい話だった?」

「べつに?ノゾム先輩が他愛ない話を振って、リョータ先輩がそれを軽くいなしてる感じ。で、僕がそんなリョータ先輩をつつく、と。」

「えっ、なんで?」

「飄々としてる顔がムカつくから。」

「…………」

――ま、他にも話してることはあるけど、そっちは言えない。」

「えっ?」

「男同士の話だから。以上。」

(男同士の話……ちょっと……いや、かなり気になるな)

 

わたしの存在について

「わたしって、氷室くんたちの中で浮いてるかな?」

「なんで?」

「だって……ひとりだけ女の子だし。」

「性別で区別するのってナンセンス。もちろん、男同士だからできる話もあるけど。そんなの、男女関係なく個人間でもあるだろ。僕と君の間でしかしない話だってあるんだし。」

「そうかな……?」

「そう。現状、仲良くやれてるなら、それでいいし。何か問題ある?」

「ううん、ないよ。」

「なら、余計なことは考えないで。」

「うん、ありがとう。」

「べつに。事実、言っただけだし。」

(氷室くんのこういうとこに、救われるかも……)

 

グループの絆について

「氷室くんと風真くんと颯砂くん、それから、わたしって……これからもずっと仲良くやっていけるよね?」

「急にどうしたの?」

「なんとなく考えちゃって。」

「ふうん……さあね。そんなのわかるわけないだろ。」

「そっか……」

「けど、ずっとこの関係が続くとは思えないな。」

「そんな……」

リョータ先輩って、多分僕たちよりも大事なもの持ってるし。ノゾム先輩にも陸上があるわけで。」

「氷室くんは?」

「別に、努力して友情を続けたいとは思わない。」

「……………………」

「だいたい、変わらないものなんてないだろ。それに、今が最高ってわけでもない。変わった後の関係のほうが、案外居心地よかったりするかもしれないし。」

(なるほど……)

 

ちょっとドキドキしてる……

(あれ?どうしたんだろう、わたし。すごくドキドキして……)

「なに? 顔、赤いけど。」

「……なんか、ドキドキする。」

「……なんで?」

「わからないけど……氷室くんと一緒にいるから?」

「え…… で?どうしたら治るわけ?」

「ええっと、しばらくこのままでいてくれたら落ち着くと思う……」

「わかった。
 ……………………」

「……あの、氷室くん。」

「今、話しかけないで。君のが、うつったっぽいから。」

(氷室くんも顔が赤い……わたしたち、どうしちゃったんだろう?)

 

氷室くんを見つめる

「………………」

「……なに。」

「あ、ごめん。なんとなく見つめちゃった。」

「なんとなく、ね。君がよくやるやつだ。」

「え、よくやってる?」

「なんとなく見つめたり、なんとなく触れたり、なんとなく一緒に遊んだり……今ここでこうしてるのだって、なんとなくなんだろ?」

「そんなことないよ!」

「……あ、そ。」

「氷室くんは?何気なくやっちゃうこととかない?」

「ない。君を見つめたり、君に触れたり、君と一緒に遊ぶのにも全部理由がある。君とこうして今いることにだって……」

「……どんな理由?」

「……教えない。」

「う……なんで?」

「なんとなく。」

(使ってるじゃん……!)

 

柊・氷室・御影グループ

御影先生について

「最近、御影先生とよく話しているね。」

「仕方なく、ね。何かしら声かけてくるし、無視するのも感じ悪いし。ていうか無視できないだろ、あの存在。先生のくせに子どもっぽくて、むしろこっちが叱らなきゃならないこともたくさんあって。そのくせ、人懐っこいなんて本当タチ悪い……」

「ふふっ。御影先生が好きなんだね?」

「なんでそうなるの?……でも、嫌いじゃないよ。もっとも、もう少し先生らしいとこ見せてほしいけど。こっちばかり面倒見てる気がする。レーイチさんも苦労するだろ、アレ。」

(口ではなんだかんだ言うけど、氷室くん、御影先生のこと信頼してるんだろうな)

 

柊くんについて

「最近、柊くんとよく話してるね。」

「そうかも。僕とは違う世界を持ってるから、話していて新鮮。劇団のこととなると、一気に座長の顔つきになってカッコいいしね。尊敬する。……ま、その分、普段の夜ノ介先輩って、放っておけない感じだけど。」

「ふふっ。」

「笑い事じゃないよ。あの人の世間知らずなところは、年下ながら心配になってくる。世間知らずとは違うか……でも、とにかく少しズレてる。」

「うん、わかる気がする。」

「でも少し抜けてたって、しっかりしてて未来もちゃんと見据えてる。いろんな意味で気になる存在かな。」

(柊くんの存在が氷室くんの世界を広げていくのかな)

 

氷室くんについて

「最近、氷室くんの周りにぎやかだよね。」

「夜ノ介先輩や小次郎先生がワイワイしてるからだろ?でも、自分でもちょっと驚いてる。今までこんな風に他人とつるむことあまりなかったから。」

「そうなんだ?」

「というか、普通は近寄ってこなくない?……この僕に。」

「う、うん……そうかも?」

「なのに、あの二人ときたらそんなのお構いなしにやってきた。土足で踏み込んでくるような野蛮さはなかったけど……知らぬ間に、僕の部屋でくつろがれてたって感じ。」

「ふふっ!想像したらおかしいね?」

「笑えないから。……でも、悪いことじゃないと思う。僕も今更追い出す気はないよ。」

(氷室くんにとっても、柊くんや御影先生にとっても いい関係になってる気がするな)

 

男友だちだけで話す話題って?

「柊くんや御影先生といつもどんな話をしてるの?」

「話っていうか……常に注意してる気がする。」

「注意?」

「夜ノ介先輩は独特のペースを持ってるから、それを急かしたり……小次郎先生にいたっては、レーイチさんに代わりに謝っておいて なんて言うから、こっちが説教したり。僕が一番年下なんだけど?」

「ふふ、大変だね?」

「笑いごとじゃないよ。でも、あの映画が面白かったとか、園芸部の花が咲いたとか、とりとめのないことも話す。そんな時、なんとなくいいなって思う。この時間が長く続けばいいのにって。」

「そっか、そうだね。」

「ちょっと不思議な感じ。」

(いいな……三人の絆の深さを見た感じ)

 

わたしの存在について

「わたしって、氷室くんや柊くん、御影先生にとってどんな存在?」

「なんて答えてほしいわけ?」

「え?」

「かけがえのない存在? それとも、特別な存在?」

「ええっと……」

「今さらなこと、わざわざ口に出すつもりないから。言わなくたってわかるだろ。一緒にいて楽しい。それ以外に何か言葉が必要?」

「ううん、そうだよね。」

「ひとりだけ女子だってことを気にしてるなら、ナンセンス。以上。」

「うん、ありがとう。」

(氷室くんなりのフォローなんだよね。うれしいな)

 

グループの絆について

「わたしと氷室くん、柊くんと御影先生でいるのが、当たり前になってきたね。」

「本当。へんな取り合わせ。でもまあ、楽しければいいんじゃない?」

「そうだね?」

「そ。つき合うのに年齢も性別も関係ない。その良い見本だと思う。……多分、はば学を卒業してそれぞれの道へと歩んでも なにかしら顔、合わせるんじゃない?」

「そうなったらいいな。」

「なるよ。……ただ――

「ただ……?」

「……いや、なんでもない。今、言っても仕方ないことだし。」

(氷室くん……?)

 

ちょっとドキドキしてる……

(あれ?どうしたんだろう、わたし。すごくドキドキして……)

「どうかした?」

「……うん。なんか、ドキドキする……」

「なに? 具合悪いの?」

「違うと思うけど……」

「念のため、このままもう少し身体、休めなよ。」

「うん。ありがとう。」

「………………」

「氷室くん?」

「君の様子の変化 見逃したら大変だし。」

「そ、そう……」

「………………」

(そんな風に見つめられると、もっとドキドキしてくる……)

 

氷室くんを見つめる

「………………」

「なに?」

「なんとなく、氷室くんを見ていたいな、って。」

「見てて楽しい?」

「え、うん。」

「あ、そ。 こっちは緊張する。」

「あ、そうだよね。ごめん――

「逸らさないでよ。」

「えっ……?」

「あ……いや、別に嫌だとは言ってないから。ほら、普段は夜ノ介先輩や小次郎先生がいるから、こんな静かな時間も、珍しいし。」

「う、うん。そうだね。」

「うん…………」

(ドキドキしてきた……なんだろう、この時間……)