ホタルの住処 御影小次郎

f:id:nicoko1018:20211116210325j:plain

 

 

恋愛

授業を独り占め

「こりゃキレイだ。」

「そうですね!」

「ほんと生き物って面白いよな。集合意識があるようにしか見えない―― ちょっと授業っぽかったな、今の。」

「御影先生の授業をひとり占めしているみたいで、うれしいです。」

「おまえがそう言ってくれるうちは、続けられるかな?」

「え?」

「求められれば応える。それが俺のモットーだ。我ながら卑怯だな?」

「えっ?」

「おまえがいいならいいとか、情けねぇの。はぁーいやだ、いやだ。」

(今日の御影先生どうしたのかな……)

 

どんなふたりでもいい感じに

「すごい景色だよな~。ここにいたら、どんな関係の二人だって、いい感じになっちゃうだろ?」

「苦手な人でもですか?」

「うん、俺だったら……氷室教頭?いい雰囲気になって、査定上げてくれたりな?」

「たしかここには、相手の心の声が聞こえてくるっていう噂がありますけど……」

「氷室教頭の心の声か……『御影先生!あなたは教師として――』って、それじゃ、いつも通りだしなぁ。」

「ふふっ。もっと優しい声が聞こえてくるかも?」

「教頭の優しい声……? ううっ、やめろよ。ていうかさ、俺がここに来るのはおまえとだけだろ。 ああ、今のは、まぁ勢いだ。忘れてくれよ。おかしいな……何言ってるんだ、俺は。」

(わたしとだけ?今の 御影先生の心の声だったらうれしいな……)

 

ホタルはどんな色に見える?

「ここのホタルってさ、不思議と色んな色に見えるよな。自分の気持ちが反映されてんのかな。」

「ふふっ、そうかもしれませんね。御影先生は何色が多いと思いますか?」

「ピンクだ……俺の頭ん中ヤベぇな。ほんと男子高生レベル。そうだ、夜ノ介とイノリでも実験してみるか。」

「あ、面白そう!」

「そうだな……夜ノ介は見えたままを言いそうだけど、イノリはどうかな?何色が見えても『普通の色ですよ』とか言ってきそうだな。」

「ふふっ、御影先生は柊くんと氷室くんのこと、よくわかってるんですね。」

「おまえのことだって、わかってるつもりだよ?」

(わたしのこと? 御影先生、何か言いかけてた……)

 

今日だけはふたりきりで

「ここに立つと心の声、聞こえるんだろ?」

「はい。そういう噂です。」

「…………
 うぉっ!? お、脅かすなよっ。」

「はぁ、びっくりした。」

「2匹の魚が同時にジャンプ?
 ……もしかしてあいつら、二人がスネてんのかもな?」

「あいつら?」

「夜ノ介とイノリだよ。こないだみたいに、一緒に楽しみたいって怒ってるんじゃねぇか? はぁ、今日くらい遠慮してくれよ。あ、今の心の声な?」

(それって……わたしと二人でいたいってことかな?そうだったらうれしいな)

 

ホタルの明滅はリズムよく

「不思議だよな~。光るタイミングが合ってる。」

「本当ですね。」

「このホタルの明滅の周期の一致って、数学的なアプローチで研究されてるんだ。」

「え……数学ですか?」

「あからさまにいやな顔すんなよ。まあ、みんなが様子見ながら、リズムそろえてるって方が楽しそうだよな?」

「ホタルの合唱みたいですね。」

「指揮棒もった氷室教頭みたいなのがいるのかも?」

「ふふっ。吹奏楽部みたいで、かわいいですね。」

「かわいいか~? 教頭ボタル……? ヤバ……そ、そろそろ帰ろうぜ。ほら、送ってく。」

「あ、はい。」

(御影先生、急いでどうしたんだろう?)

 

心の声が聞こえたら怖い

「なあ、ここの噂知ってるだろ?」

「はい。一緒に来た相手の心の声が聞こえるとか……」

「そう。そんな怖い場所に行く、物好きいるか~?
 ……って思ってたんだけどさ、来ちまった。」

「怖いんですか?」

「勝手に何言ってるかわからないんだろ?ムチャクチャ怖ぇよ。自分にも聞こえたら、対処しようもあるけどさ。」

「……じゃあ、どうして今日はここに誘ってくれたんですか?」

「そりゃ、『虎穴に入らずんば虎子を得ず』ってやつだ。」

(御影先生、わたしの心の声が聞きたいってこと……?)

 

本音は心の声で

「こちら、心の声心の声、聞こえますか?」

「ふふっ、はい。しっかり聞こえてます。」

「OK。心の声には答えなくていいからな。なんせ、当人は無意識だから。 ……あ、この前さ、帰り道で、ほら……素っ頓狂なこと言って悪かった。自分でも頭ン中がガキ過ぎて、引いてる。」

「え?」

「心の声だから答えなくてもいいって。 思い出すと耳が赤くなる―― 忘れたフリしてくれると助かる。」

「えぇと、そんな、謝ることじゃないです。」

「そっか、ありがとうな。以上、心の声でした。」

(御影先生、そんなに気にしてたんだ。いつもわたしのこと、真剣に考えててくれてうれしいな……)

 

思い出す桜吹雪

「キレイだな……」

「そうですね。」

「あの日の桜吹雪、思い出した。おまえ、覚えてるか?」

「御影先生がイチゴのフルーツサンド作ってくれました。」

「良くできました。」

「ふふっ、あの日の桜もきれいでしたね。」

「ここのホタルたち見てふっと思い出したよ。こうやってさ、知らないうちに俺たちの思い出がどんどん増えんだな……」

「はい。」

「けどさ。しまっとく場所、無くなりそうで怖いよ。」

「え……」

「何でもねぇ。バンバン思い出、作ろうぜ。」

(御影先生……少し寂しそうに見えたような……)

 

ペアルックの上位版

「ホタルも、色や明滅タイミングが同じだとテンション上がるのかな?」

「ふふっ。今日のわたしたちみたいにですか?」

「そんな感じだ。示し合わせたわけじゃないってのが、重要だぜ。」

「ふふっ。ペアルックより、被ったって感じですね?」

「ん?そうか、ペアルックってのは意図的にやるもんなんだな。勉強になったぜ。……となるとペアルックより、被りの方が上位にある気がするな。」

「何となくわかります。運命的な感じというか……」

「それだ、それ。意図的なペアルックじゃ、つまんねぇよな。またいつか『被りルック』やろうぜ?」

(ふふっ、御影先生と会うときはこの服増えちゃいそうだな)

 

俺ならもっとスマートに

「今日みたいに妙なヤツに声かけられること、あるのか?」

「たまにですけど……」

「まあ、だろうな。きれいに光るホタルがいたら、フラフラーと近寄りたくなるのは、雄ボタルの性だ。でもさ センスがないよな、今日のは。俺だったら、もうちょっとスマートにやるよ。」

「え……ええ!! 御影先生もああいうことしてるんですか!?」

「あんな、無茶はしねぇよ。なんか作法っていうか、俺、海外生活が長いからさ――

「別に言い訳しなくてもいいですよ。」

「あ、すみません。」

「あ…… わたしこそ、助けてもらったのにごめんなさい。」

「俺が遅れたのがそもそも悪いんだ。それにしてもなんか、今のおまえ、新鮮だったな?」

(この場所のせいかな……御影先生に対して、あんな言い方するなんて……)

 

ほしいプレゼントは?

「ホタルはちょっと違うけど、昆虫も動物も、オスがメスに贈り物をする。……ってことで、プレゼントなら何が欲しい?」

「御影先生が選んでくれるなら、何でもうれしいです。」

「そんな答えじゃさ、わざわざここで聞いてる意味ないぜ?物欲に正直な心の声でよろしく。はい、もう1回!」

「そんなこと言われても……困ります……」

「心の声は聞こえてこないけど、困らせてることだけはわかったよ……しょうがねぇ、これからも俺が適当に選ばせてもらうよ。」

「ふふっ、それが一番うれしいです。」

「それがおまえの心の声なんだな?わかった。」

(御影先生のプレゼントもらえるの、楽しみになっちゃう!)

 

近寄ってみればわかること

「静寂の中の光。キレイだよな。」

「はい。こんなにたくさん飛んでるのに音がしないんですね。」

「聞こえないよな?でもちゃんと羽音を立てて頑張って飛んでるんだぜ?」

「そうなんですか?」

「ああ、暗闇だからな 遠近感も曖昧になる。結構遠くで飛んでるから聞こえないってことだ。淡々とやってるみたいで、近寄れば頑張ってるのがわかる。おまえみたいだな?」

「え?」

「ほら、まえに放課後ひとりでテスト勉強してただろ。」

「あ、御影先生に教えてもらって、少し勉強の仕方がわかりました!」

「普段の授業は淡々と真面目ちゃんしてるから、おまえがひとりで足掻いてるって、わからなかった。 いいか?優しく穏やかなのは、おまえのいいところだけどさ、困った時はすぐに言えよ。」

「はい。でも、いつも御影先生が近くにいてくれるから……」

「そうだな。任せとけ。」

「ふふっ、お願いします。」

 

先生の行きたいところに

「◯◯、ありがとうな。」

「え……急にどうしたんですか?」

「こうやって、俺の行きたいところに付き合ってくれるだろ。」

「いいえ、わたしも行きたいところばかりですから。」

「そう言ってくれると、気が楽になるよ。ボウリングから始まって、今はホタル見てる。」

「遊園地もです。」

「そうだったな。はばたきランドタウン、あのコースターは迫力ありすぎだ。」

「御影先生、すごくはしゃいでましたね。」

「今も十分はしゃいでんだぜ?おまえと一緒の時はたいがいな。」

「え?」

「ふふん。ありがとうな。」

(御影先生……いつもとちょっと違うかも?)

 

恋愛のバイブルは少女マンガ

「なあ、おまえも少女マンガって好きなのか?」

「人気の作品はマンガを読んだり、ドラマも観たりしますね。」

「そっか、俺も読んでみるかな……」

「え?御影先生、興味あるんですか?」

「学生の恋愛のバイブルなんだろ?なんか、勉強になりそうじゃん。それに、クラスの女子にさ 俺に似た少女マンガの登場人物がいるって言われたんだよ。」

「ええ?」

「髪型や縦巻きがどうの、って言ってたな?」

「御影先生の縦巻き…… ふふっ、もしかしたら――

「なんだ?なんで笑ってんだよ。」

「女の子のキャラクターかもしれないですよ?」

「なに?だからあいつらも笑ってたのか。」

(御影先生に似ている少女マンガのキャラクター、か…… ゴージャスなお嬢様系かな?)

 

異世界とつながる特異点

「ここさ、心の声とか妙な話で有名だけどさ、純粋にいい場所だよな。」

「人がいなくて静かですよね。」

「だよな。こんないい場所なのに、俺たち二人? 花見会場くらい、混雑したっておかしくない。」

「たしかに……」

「もしかしたら……異世界とつながっている特異点なのかもしれない。」

「ふふ、SF小説みたいですね。」

「それで、毎晩一組のカップルがここから異世界に転移する。とうとう、俺たちの番が来た。」

「……カップル?」

「……そこ、ひっかかっちゃうか? はぁ……一気に現実のはばたき市に引き戻された。 ……ったく、早いんだよ。もうちょっと乗っかってくれてもいいじゃん。」

「えぇと、じゃあ、はい。カップルでいいです。」

「ああ、そうですか。ありがとうございます。ただ、本当のカップルじゃないと転移できないシステムです。」

(ふふっ。御影先生、こうしていつも楽しませてくれてありがとうございます!)

 

恋愛の悩み

相談しやすい先生

「最近、男子が続けて何人か相談しにきたよ。」

「御影先生は相談しやすい先生ですから。」

「まあな。レベルが一緒って――ほっとけ。」

「ふふっ。」

「でも、あいつら心配してたぞ?おまえのこと。」

「えっ、わたしですか?」

「そう。なんか急接近してる相手がいるんだろう?真実を知りたいってさ。ま、何で俺のとこ来んのかは知らねぇけど?」

「急接近……」

「思い当たるやつがいるって顔だな。いいんじゃないか。高校生活といったら恋愛も重要なファクターだろ。で、誰だ?」

「えっ!? 仲のいいお友だちはいますけど……」

「『仲のいいお友だち』と。はい、心の声、いただきました~!よしよし、あいつらに朗報だ。喜ぶぞ~?」

(御影先生もなんだかうれしそうに見えるけど……)

 

知らずのうちに決まる優劣

「これだけの仲間がいればさ、毎日楽しいだろうな。」

「ここのホタルのことですか?」

「そう、みんなで競って飛んで、光ってさ?必死なんだろうけど、そういうのって学校と一緒で楽しいだろ。ま、知らず知らずのうちに優劣が決まってんだけどな。」

「優劣ですか?」

「そう、パートナーが見つけられるやつ見つからないやつ、色々。でもさ、この場にいて参加さえできれば、どんな結果だっていいよ。将来の糧になる。何もないより、ずーっといい。」

「御影先生……」

「いいか、おまえはちゃんと一生懸命飛び回ってさ、自分が納得できるように頑張れよ?」

「……はい。」

「もし万が一、上手くいかなかったら、そん時はゆっくり周りを見てみろ。きっと残りボタルがいる。」

(残りボタルって……まさか御影先生のこと……?)

 

平和主義なはずなのに

「あー、平和だな~。」

「ふふっ。ホタルたちもフワフワ飛んでます。」

「そうだな~。ちょっと前の特殊な状況が嘘みたいだ。」

「え?」

「まあ、今は俺に代わって誰かが、その特殊な状況下に置かれてるだろうな?」

「えぇと……御影先生?」

「深い意味はないよ。昔から平和主義なのにさ。特殊な状況が恋しいって、らしくねぇなって思う。はぁ……今のはみーんな心の声だから、答えなくていいからな。」

(御影先生……)

 

心の声を確認

「なんだぁ?今、青いホタルが見えたぞ。」

「わたしも青い光が見えました。」

「大丈夫か、俺たち。……ここの不思議な力、本物かもな?」

「そうだったらすごいですね。」

「ちょっと確認してみるか?」

「え、どうやって――

「しーっ、おまえの心の声聞こえるか?」

「ええ?」

「そうか……それで…… ……わかったよ。」

「聞こえたんですか、わたしの心の声。」

「おお。また戻ってくるから、ちょっと待ってろだってさ。」

「どういう意味ですか?」

「さあな?俺にはそんな風に聞こえたってだけだ。」

(わたしが戻る……御影先生のところに、ってこと?)

 

すごいヒーリング効果

「おまえのおかげかな?最近、夜ノ介、変わったよな。」

「柊くん?」

「ああ、なんかいっつも思いつめた顔してただろあいつ。表情が全然違うよ。単純に楽しそうだ。」

「わたしは何も……」

「なんだ知らないのか?おまえのヒーリング効果はすごいんだぞ。俺のブレンドハーブティーといい勝負だ。」

「ふふっ、ありがとうございます。」

「……お、おう。夜ノ介を頼むぞ……」

(御影先生にそんな風に思ってもらえてたなんてうれしいな)

 

特別なパワーがバチバチ

「最近、イノリのやつムチャクチャ楽しそうだよな?不機嫌そうな顔を頑張って作ってる感じだよ。」

「たしかに氷室くんってそういうところありますよね。」

「あいつが一番驚いてるんじゃないか。」

「ふふっ、そうかも。」

「ぜーんぶ、おまえのおかげだよ。」

「え?」

「おまえには、ここのホタルと一緒で特別なパワーがあんだ。今もバッチバチに感じる。だから、イノリも油断すると笑っちゃうし、俺もおまえらに便乗して、楽しくなってくる。」

「御影先生……」

「これからも、イノリのこと頼むよ。ついでに俺も。」

「え……?」

「最後のは心の声だ。」

(御影先生の、心の声……)

 

モーリィが嫁に

「なぁ、ちょっと悩み相談いいか?」

「え?はい、わたしで良ければ。」

「あのさ、嫁に行くってどういう気持ちかな?」

「ええっ!? 急にどうしたんですか?」

「実家のモーリィが、他の牧場に嫁に行くって話があってさ。良い話なんだけど、知らないところに嫁がせるなんてさ。」

「モーリィちゃんって、御影先生のご実家で飼っている牛さんでしたよね?」

「ああ、超~美人のホルスタインだよ。どうせ俺はめったに会ってやれないし、あの子の幸せは、あっちの牧場にあるのかもな……」

「でも、モーリィちゃんも寂しいと思いますよ?」

「そうだよな……」

「はい、なかなか会えないけど、別の場所に行っちゃうのは違います。」

「うん、確かにそうだ。モーリィだって、そう思ってるよな。おまえはいつも正しいな。ありがとう。家を出てる俺の意見がどこまで通るかわからないけど、実家に掛け合ってみるよ。」

「はい。あの、悩みってモーリィちゃんのことですか?」

「ああ。おまえのおかげで、スッキリしたよ。さすが、はば学のモーリィちゃんだ。」

(ええ?)

 

俺のモテ期はいつ来る?

「おまえの意見聞きたくてさ。」

「なんですか?」

「モテ期って誰にでもあるんだろ?俺のはいつ来ると思う?」

「ええっ!?」

「なんで、そんなに驚くんだよ。誰にでも来るなら、俺に来てもいいだろ?」

「御影先生ってそういうこと気にするんですね?」

「するする。そういうことを気にしてなかったら、こんな髪型しねぇだろ。」

「ふふっ、御影先生は女子にも男子にも大人気です。だから、今がモテ期じゃないですか?」

「おまえは?」

(御影先生、ふざけてるのか真面目なのか……それとも、これは心の声?)

 

友人

もしもふたりに知られたら

「なんか、ホタルがあいつらに見えてきた。」

「えっ?あいつらって……」

「あそこでジーっとホバリングしてるのがイノリだろ、行ったり来たりしてるのが夜ノ介。」

「柊くんと氷室くんのホタル?」

「最近さ、おまえと二人でいると、二人の顔がチラッと浮かんできて困ってる。きっとここに来たって知ったら、大変だぞ。」

「そうなんですか?」

「ああ、『別にいいですけど、見損ないました』とか言ってくるのが目に浮かぶ。」

「ふふっ、似てる。氷室くんですね?じゃあ、柊くんは?」

「うーん、そうだな 『何事にも理由があるものです。聞きましょうか』とか言って迫ってくる。」

「ふふっ、御影先生は二人のこと いつも考えているんですね。」

「まあ、そうかな。ただ、たまにはいいんじゃねぇか?とも思ってるよ。な?」

(みんなと一緒もいいけど、御影先生と二人で出かけるのも楽しいな)

 

高校の3年間は特別

「おまえの目にはどう映ってるんだろうな?この景色。」

「え?御影先生と同じ景色を見てます。」

「違うかもしれない。いいか、高校時代は三年間だけ。その時間に見たもの体験したものは特別なんだ。」

「御影先生……」

「だから、今、おまえが誰と何を見るか、経験するか、これはムチャクチャ大事なんだ。おまえだけじゃない、夜ノ介もイノリも、人生でも特別な時間の真っただ中。だから、何でもよーく見とけ。」

「はい。」

「今度、あいつら二人とも来てやってくれ。」

「はい。でも、また御影先生とも一緒に見たいです。」

「ありがとな。はぁ……しゃべりすぎた。じっくり、目に焼き付けようぜ。」

(御影先生はいつもわたしたちのこと考えてくれてるんだな……うれしいな)

 

高校時代の財産

「最近、学校でさ、おまえの周り盛り上がってるよな?仲間と楽しめるってのは何よりだぜ。」

「はい。友だちが増えたかもしれません。」

「それが高校時代の財産だ。ま、俺が言っても説得力ないかな。」

「そんなことないですよ?」

「そっか。ていうかさ、その仲間に俺も入れてもらってる感じだしな?」

「御影先生が来てくれると、みんなすごく楽しそうです。」

「俺が行って盛り上がると、結局、氷室教頭が来て、怒られて解散の流れだよな~。」

「ふふっ、それも楽しいですよ?」

「おいおい、気楽に言うなよ。これでも結構、傷ついてるんだぜ。ボーナス査定も気になるし……」

(そっか……先生たちにも通信簿みたいなのがあるんだ。がんばれ、御影先生……!)

 

フラフラと引き寄せられる

「あそこやけにホタルが集まってるな。超人気者でもいんじゃねえか?」

「ふふっ、ホタルの人気者?」

「そう、おまえみたいなやつ?男子も女子も、フラフラ~と寄ってく感じだよな。」

「そ、そうですか?」

「自覚がないところがまた、いいんだろうな。なんか安心できるし、気が楽だしさ。 ん?」

「どうしました?」

「俺もか。俺もおまえにフラフラ引き寄せられてる一匹だった。」

「御影先生が……?」

「実際、この状況はそういうことだろ?」

(御影先生やみんなと一緒にいるのはすごく楽しいけどな……)

 

見透かす氷室教頭

「この前、氷室教頭にたっぷり絞られてさ……」

「大丈夫ですか?」

「ああ、慣れてるからいいんだけど、氷室教頭にはなんでも見透かされてる気がしてちょっと怖ぇな。 はぁ……生徒との距離感か……」

「えっ?」

「俺はおまえたちに教えることなんて、ほんと、何もないからさ。氷室教頭みたいにはなれないよ。」

「御影先生は御影先生のままでいいと思います。」

「ありがとな。氷室教頭にはさ、ただただ学校生活を謳歌してるようにしか見えないんだろうな~……ま、実際そうだし。 ……待てよ。」

「どうしたんですか?」

「今、氷室教頭の咳払いが聞こえた気がした。」

「ええ?」

「帰ろう。もう、嫌な予感しかしねぇ。」

(生徒との距離って……氷室先生に何を言われたのかな?)

 

友だちを見つけられたなら

「おまえ、花椿たちと仲いいよな?」

「はい。みちるさんとひかるさんは、いつも味方になってくれて、色々教えてくれます。」

「よっし。高校時代にそういう友だちを見つけられたら、人生勝ったも同然だ。」

「それに、御影先生の様な先生にも出会えました。」

「先生らしいことはできてないけどさ、ま、友だちくらいにはなれてるかな?」

「ふふっ、もちろんですよ。」

「なら良かった。おまえが笑顔で高校生活を思い出せるように、頑張るよ。」

「ありがとうございます。」

「お礼はこっちが言うべきだ。こんな欠陥だらけの大人が、おまえたちの高校生活にお邪魔させてもらってんだ。」

「御影先生?」

「おかしいな。ここにくると、なんか余計なこと言っちまう…… 今の心の声は忘れてくれ~。」

(御影先生……欠陥ってどういうことだろう……)

 

お楽しみ

先生の将来の夢

「おまえの将来の夢ってなんだ?」

「急にどうしたんですか?」

「あ、進路とかじゃねぇぞ。もう少し先の方の話だ。」

「えぇと……」

「そんなに困ることないだろ?」

「じゃあ、先生は?」

「そりゃ決まってる。広々とした牧場で動物の世話しながら生きる。」

「素敵ですね。ご実家の牧場ですか?」

「まあ、実際はそうなるかな。でも、心の声では……もうちょっとこぢんまりとしたところで、自由にやりたいかな?」

「なるほど……」

「どうだ?夢、決まってないなら、従業員募集中だけど?」

「ええ!? わたしですか?」

「次に俺が夢を聞くときに、はっきり答えられなかったら、従業員で決定な?」

(ふふっ、御影先生の牧場か……素敵かもしれないな)

 

冷やし中華」が大好き

「うちの学食って、レベル高いよな~。野菜ゴロゴロのカレーは最高だし、ハンバーグだって良い。」

「はい、美味しいです!」

「たださ……なんで無いんだ?『冷やし中華』。季節もので必須だと思うんだよな。」

「御影先生、冷やし中華がすごく好きなんですね。」

「好きだな~。紅ショウガとカラシの混ざったあの感じ。無性に食べたくなる。」

「ふふっ!」

「何回もリクエストBOXに入れてるんだぜ。でも、全然ダメ。きっと俺の名前じゃ届かなそうだ。あー、もうこうなったらさ、氷室教頭の名前でリクエストしてみるか?」

「ええ?見つかったら叱られますよ?」

「学食で冷やし中華食べられるなら、そんくらいのリスクは飲み込むよ。」

(御影先生、また氷室先生に怒られないといいけど……)

 

宿題が終わらない悪夢

「夏休みの最終日にさ、宿題が全然終わってない感じってわかるか?」

「えっ?急にどうしたんですか?」

「夢の話。俺、この手の悪夢、結構見るんだよ。何度も見るからさ、夢占いってあるだろ?それで見てみた。」

「どうでした?」

「『放置している課題があるようです。片付けましょう』……だってさ。そのままじゃん。」

「ふふっ、そうですね。」

「もっと、深層心理に何かあるとか期待してたのにさ?」

「じゃあ、ハズレだったんですか?」

「外れてはいない。放置してる課題はあるよ……片付けなきゃならないのもわかってる。でも、もう少し占いっぽく、まわりくどく暗示して欲しいわけじゃん?身もふたもない言い方しやがってさぁ?」

「えぇと、先生って大変なんですね……」

「はぁ、まあな?」

(……占いは当たってたってことだよね?)

 

昔飼っていた動物たち

「モーリィの話はしたよな?」

「はい。入学式の日に、黒板に絵も描いてくれましたよ。」

「モーリィはペットとは違うけどさ、俺、昔から色んな動物飼ってたんだ。」

「今はペットいないんですか?」

「マンションだから無理だ~。昔は何も気にせず、手当たり次第飼ってたよ。鶏のピーは面白い奴だったな~。」

「ピーちゃんですか。」

「雄鶏だからピー君。敬称略でピー。あいつ、朝早くてさ。3時頃に、コケコッコーだぜ。性格も荒っぽくて、大変だった。」

「ふふっ、名前はカワイイのに。」

「家族の誰にも懐かなかったけどさ、俺にだけトサカ触らせてくれた。思えばあいつが俺の親友、第1号だったな~。」

(2号以降も気になるな……)