日常のひとコマ 御影小次郎

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動物と植物の気持ち

(いいお天気だな……あ、午後は教室移動だから、早めに準備しないと)

「◯◯。」

「あ、御影先生。昼休みも植物のお世話ですか?」

「まあな。様子見るだけのつもりで来てもさ、ついつい手が出る。ちょっとした天候の変化でも、植物には大事件。なんせ、動けないからな。」

「いつも気にして見守ってあげなきゃいけないんですね。」

「そう。こないだの牧場のモモちゃんみたいに、動物は機嫌が悪かったら、わかりやすいだろ。」

「ふふっ。御影先生は、動物の気持ちも植物の気持ちもわかるんですね。」

「おまえ、嬉しいこと言ってくれるのな。まあ、そうありたいよ。」

 

「お、予鈴だ。授業の準備行ってこい。」

「はい。でも、次御影先生の生物ですよ?」

「あ、そうか。んじゃ、一緒に行くか。」

「御影先生、その服でですか?」

「ん? いや、これじゃまずい。氷室教頭に大目玉だ。」

(ふふっ。御影先生、授業に間に合うかな?)

 

モーリィのミルクスタンド再び

(お昼休み、まだ時間ある…… そういえばこの前、いつでも遊びに来いって御影先生言ってくれたよね?)

 

( ……? 理科準備室にいないってことは…… )

「お、いらっしゃい。」

「ふふっ、なんだかお店みたいですよ。」

「いいな。ランチタイムに『モーリィのミルクスタンド』でもやるか?」

「この前見せてもらった、御影先生の家の牛さんですね?」

「ああ。ミルクと野菜とパン。流行りそうじゃね?」

「はい。モーリィちゃんたちもここにいたら、もっと楽しそう。」

「おお、いいな!はば学にモーリィたちを連れてこられたら、俺はここで一生を終えてもいい。」

「ええ?」

「そりゃそうだろ。大切なものが全部ここに揃うんだ。」

「御影先生の大切なものが全部?」

「そうだ。ちゃーんと、おまえも入ってる。」

「ええ!?」

「ははっ、そんな驚くなよ。」

(うーん、からかわれてるみたい……)

 

つぎに記事にするときは

(あ、そうだ。牧場の毛刈りイベントのこと、御影先生にちゃんとお礼しないと)

「◯◯、よく来たな。」

「御影先生、牧場の毛刈りイベントの時、ありがとうございました。」

「いいけどさ、次があったら、もっと面白く紹介してくれよ。」

「え?」

「ほら、はばたき学園の生物教師じゃさ、身も蓋もないだろ? 飛び入り参加した謎のツナギ男(男前)とかさ。」

「ふふっ!それじゃ、記事になりませんよ?」

「そうか?少しはナゾがあった方が、興味引くだろ?今度、書くときはそんな感じで頼むよ。」

「じゃあまた、毛刈りイベントがあったらお願いします。」

「俺は毛刈り専門かよ?」

(ふふっ、今度は取材じゃなくて、御影先生と牧場にいきたいな……)

 

最後の文化祭を終えて

(文化祭では、ここでオーガニックカフェしたんだよね……)

(そうだ、ちょっと畑を見て来よう)

(……あ、御影先生だ!)

「◯◯。はぁ……最後の文化祭、終わっちまったな。」

「はい……」

「なんか俺たち、燃え尽き症候群っぽい。いいアイディアだったもんな オーガニックカフェ。」

「はい。御影先生のおかげで、校門前の一等地でできました。」

「文化祭くらい、文化部が目立ってもいいだろ?園芸部の伝統になるといいけどな、校門前カフェ。でも、おまえたち三年がいないと、盛り上がんねぇかな?」

「大丈夫ですよ。二年生も、御影先生もいますから。」

「ああ、そうだな。二年はおまえたちの背中見てるからな。」

(もう御影先生と一緒に文化祭はできないんだよね……さみしいな……)

 

お返しは果物か野菜?

「えーと、次の授業は……」

「おい、こっちだ~。」

「ん? この声は……」

 

「お、来た来た。泥付き野菜どうだ?」

「えっ。でも、そろそろお昼休み終わりですし……」

「もうそんな時間か?んじゃ、おまえの下駄箱に入れとく。」

「ええ!?」

「前にチョコくれたろ。俺は何倍にもして返したいタイプなんだ。うーん……葉物より根菜がいいか?」

「あの、どちらも下駄箱に入れられたら困ります……」

「なんだ?好き嫌いしてたら丈夫になれないぞ?」

(そういう問題じゃないんだけどな……)

 

べっぴんさんへの助言

(えーと、午後の授業はなんだっけ……?)

「◯◯。なんだか、気が抜けた顔してんじゃねぇか?」

「あ、御影先生。」

「あ、じゃねぇよ。しょうがねぇな。ほら、こっち来てみろ。」

 

「見てみろ。みんなパリッとしてて、べっぴんさんだろ、うちの植物。
 
――おまえもだ。」

「え……」

「え……じゃねぇよ。おまえもべっぴんさんなんだから、パリッとしてみろ。おまえは勉強も遊びも、何だって真面目にやっちゃうタイプだろ?」

「えぇと……」

「俺のクラスの真面目ちゃんは、なんだって本気でやっちゃうべっぴんさんだ。まずは次のテストから頑張ってみろよ。な?
 ほら、午後の授業だ。じゃあな。」

(御影先生…… もしかして、この前赤点とったこと、気にしてくれてた……?)

 

職員室にいない理由

(御影先生、課外授業のプリントを渡すって言ってたけど……)

「あ、やっぱり……」

「おお、よくここってわかったな。さすが、課外授業に付き合ってくれる真面目ちゃんだ。」

「御影先生はあんまり職員室にはいないので。」

「あそこは空気が悪いんだよ。あ、空調って事じゃなくて、雰囲気な?」

「そんなこと言ったら、怒られますよ?」

「そう、何もしてないのに、この格好でいると叱られるんだ。」

「ふふ。……あ、課外授業のプリントもらいに来たんですけど。」

「あっ、そうだ。悪い悪い。理科準備室に置いてきちまった。後でとってくるよ。」

「いいですよ、帰りに寄りますから。」

「そりゃダメだ。課外授業の常連さんに、面倒ばかりかけらんねぇよ。職員室はいやだけど、あそこは俺の部屋だからな。んじゃ、行こうぜ。」

 

癒し効果のある植物

「んじゃ、今日はここまでだ。部活、寄り道、直帰なんでもいいけど、気を付けろよ。◯◯。ちょっと帰りに園芸部の畑に寄ってくれっ。」

「え……あ、はい!」

「…………やっぱな。ちょっと疲れてるんじゃないか?」

「え?そんなことないですけど……」

「いいから、深呼吸してみろ。」

「……すぅ、フー……」

「もう一回。」

「……すぅ、フー……」

「植物の葉っぱには匂い袋があってな、虫は嫌がるが、人にはリラックス効果があるんだ。いつも一生懸命なおまえはカッコいいけど、たまにはのんびりも必要だ。」

「……あ、はい。」

「よし、んじゃあもっかい深呼吸してから帰れ。」

(あれ?少し体が楽になったかも……御影先生のおかげだよね)

 

最優秀賞の受賞を賞賛

 

園芸部のすべきこと

「ふぅ…… 園芸部、大変だけどやりがいあるな。」

「◯◯。おーい、お疲れさん。」

「御影先生。これからよろしくお願いします!」

「ははっ。最初から飛ばしてんじゃねぇか?いいか。植物はゆっくり育てるもんだ。俺たちができるのは、アシストだけ。頑張るのは植物のほう。」

「そっか……植物にがんばってもらえるように、がんばります。」

「ははっ、わかったよ。本当に頑張るのが好きなんだな。いいじゃねぇか。俺はそんなおまえが好きだぜ?」

( !! 今、『好き』って―― びっくりした……)

 

手間をかけるほど美しく

「……あれ?園芸部の畑に誰かいるみたい。」

 

「御影先生。お昼休みまで、植物のお世話ですか?」

「おう。そういうおまえもか?手間をかければかけるほど、べっぴんさんに育ってくれるからな。……ま、人間も同じかな?」

「え?」

「おまえもべっぴんさんになってきたって、言ってんだよ。最近、おまえに手間をかけてるからかな?」

「手間?」

「やべ、昼休み終わっちゃうな。じゃな。」

(手間って……もしかして一緒に出掛けたことかな?)

 

よく出会うのも問題あり

(そういえば昨日の夜、ちょっと風が強かったよね……園芸部の畑、大丈夫かな?)

「◯◯。おう、早ぇな。」

「おはようございます!御影先生も早いですね。」

「植物は朝が一番きれいだし、水やりも早いに越したことない。で、おまえはどうした?」

「昨日の強風が気になって、畑の様子を見に来ただけです。」

「そしたら、俺が登場しちゃったか~。ここんところ色々、引っ張りまわしてるからな。あんまり登場確率高いのも問題だな。」

「御影先生といるとすごく楽しいですよ?」

「おお、そりゃよかった。んじゃ、また朝のホームルームで登場だっ。」

「ふふっ、はい。」

 

多忙な園芸の世界

(今日も園芸部の畑に寄ってから帰ろうかな)

「あ、御影先生。」

「◯◯、いいな。 帰り際に植物が気になってくれば、おまえも立派な園芸部員だ。」

「本当ですか?」

「ああ、ようこそ園芸の世界へ。ただ、これから大変だぞ?」

「ええ?」

「雨、風、気温が気になってしょうがねぇ。台風の季節なんて、生きた心地がしない。」

「確かにそうですよね……どうしよう……」

「ははっ、まだ早ぇよ。しばらくお天気続きだ。」

(わたし、園芸部に入って少し変わってきたかも……?)

 

興味深い活動記録

(そうだ、園芸部の活動記録を提出しよう)

「御影先生。活動記録、持ってきました。」

「おお、ありがとうな。午後は授業もないし、それ見ながら一服かな?先生特権ってやつだ。活動記録読むのって、楽しいんだぜ?」

「植物の成長記録って面白いですよね。」

「まあな。でも、記録付けてるおまえたちの変化もわかるんだ。徐々に天候を気にするようになったり?虫見るたび騒いでたやつが平気で手でつまんだりさ。」

「でも、まだ手で触るのはちょっと……」

「そう言ってても、いつの間にか平気になってんだよ。」

(あれ、御影先生の服に何かついてる……?)

「おお、虫でもついてたか?」

「ええええっ!?」

「なんで、おまえが驚くんだよ。」

「だって、ゴミか何かだと思ったので……」

「そっか。ま、こういうのがきっかけで慣れてくんだよ。」

(うーん、虫はまだ時間かかりそう……)

 

植物の育て方はいろいろ

「今日もたっぷり、お水をあげるよ~。」

「◯◯。」

「あ、御影先生。おはようございます!」

「いいな。いつも、ああやって話しかけてんのか。」

「えっ、話してました?あまり意識してないかも……」

「いいんじゃねぇか?植物は話しかけると、よく育つって言われてるからな。」

「御影先生もいつも話しているんですか?」

「いや、人間と一緒で植物も色々だ。トマトやジャガイモなんかは、最低限の水で育てる方が美味しくなる。スパルタがいいやつも、優しくするのがいいやつもいるってことだ。」

「ス、スパルタですか……」

「そう。愛があるからこそ厳しく接する。おまえは、どっちのタイプだろうな?」

(えーと……わたしは……?)

 

ハーブの収穫

「くんくん……あれ、少しハーブの香りがするかも?」

 

「あ、御影先生。ハーブの収穫ですか?」

「おお、よくわかったな。さっきビニールハウスで良さそうなの収穫したんだ。」

「いい香り、向こうでもわかりました。」

「そうか。うーん、おかげでいい汗かいた。」

(あ、御影先生。汚れた手で汗を拭いたら――

「おお、汗と泥で顔がやべぇな。」

「はい、ハンカチどうぞ。」

「おっ、今のキュンときたっ。でも、おまえのハンカチ汚すくらいなら、この軍手でふくよ。ありがとな。」

(ええ? いいのにな……)

 

急成長に感動

(そうだ。園芸部の畑の草取り、やらないとね)

「◯◯、いいとこに来た。除草作業手伝ってくれ。」

「はい。じゃあ、わたしはむこうの端から。」

「おお、頼む。張り切ってんな。さては……この作業、嫌いじゃないな?」

「はい。雑草も虫も、有機栽培の証―― ですよね?」

「おお…… いつの間にか成長しやがって!ふぅ…… あんまり泣かすんじゃねぇよ……」

(ええ!? 御影先生の目に涙……?)

「これが本当の嬉し泣きだ。」

「ふふっ。 本当に泣いてるんですか?」

「そうだよ。誰が泣かしたと思ってんだ。」

(やった、御影先生に褒めてもらえた!園芸部でがんばってきて良かったな)