日常のひとコマ 柊夜ノ介

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決定的瞬間

男子生徒「逆サイド!行くぞー!」

(校庭がにぎやかだな……男子がサッカーやってるみたい)

「◯◯さん、よそ見はいけませんよ? ふふっ、前にもこんなことありましたね?」

「柊くんが初ゴール決めたとき?」

「ええ。勢い余って転んでしまいました。」

「あの時、教室から応援してたら、御影先生に注意されちゃった。」

「それじゃまるで、僕の責任みたいな言い方です。まあ、珍しい決定的瞬間ではありましたけど?」

「ふふっ、うん。見逃さないでよかった。」

「こら、いつでも見せてあげますよ。 と言いたいけど、ちょっと難しいです。偶然見てもらえてよかった。きっと、口で話しても信用してもらえそうにないから。」

「ふふっ!」

 

美化運動で学んだあいさつ

(来週は美化運動の当番週だ……)

「次はあなたが美化運動の担当ですね。」

「うん。そういえば柊くんは、すごく楽しそうにやってたね。」

「ええ。美化運動の最中に、楽しい挨拶を教えてもらいました。『ちーす』っていうのです。」

「ふふっ。」

「そうだ、この挨拶をすると、あなたが笑ってくれるんです。」

「うん。よく男子がやってるけど、柊くんが言うとなんか面白いよ。」

「それはどういうことでしょう?」

「どうしてかな?柊くんが砕けたおしゃべりしてると不思議と笑っちゃう。」

「そうですか……あなたが笑ってくれるだけで、嬉しいんですけどね。じゃあ、別の面白い挨拶を今度教えてもらいます。」

(別の面白い挨拶ってどんなのだろう?ちょっと楽しみかも!)

 

キーボード入力の上達

「柊くん、キーボード打つのだいぶ早くなったよね。」

「そうですか?なんか嬉しいですね。 いかがでしょう?」

「うん、すごいよ。毎日、生徒会のお仕事がんばってるもんね。」

「ええ。もしかすると、あの日からかもしれません。少し早く打てるようになったのは。」

「あの日?」

「前にあなたとホタルの住処に行って、パワーをもらった日です。」

「あ……湧き水をすくった日?」

「ええ。右手は湧水から、左手はあなたから。 ……ほら。ちょっと左手の方が調子いいかも知れませんよ?あなたのおかげかな。」

「ふふ!」

 

やっぱり不思議な光景

男子生徒「柊、伝票ここに置いておくな。」

「はい。管理簿に入力しておきます。」

(劇団はばたきの座長が、生徒会室で仕事してるなんて……やっぱり不思議だよね)

「……コホン。僕の顔に、何かついてます?」

「ううん、ごめんね。じっと見ちゃって。」

(あれ……柊くんの目、こんなキレイな色だったっけ……)

「見つめ合って、それからどうします? あなたが考えてること、当てましょうか。」

「え?」

「こないだ、劇団はばたきの公演を一緒に見てくれましたよね。あれから、あなたは時々僕のことを不思議そうに見る。」

「う、うん。改めて、座長さんなんだなって思って……」

「ええ、そうですけど、あなたの同級生であり、生徒会の一員でもあります。だから、何も改めて思ったり、接し方を変えたりしないでください。」

「え?」

「昔、やっとできた友だちがそうやって離れて行ってしまったことがあってね。小学生の頃の話です。」

(柊くん、小さい頃から、大変な経験をたくさんしてきたんだね……少しでも助けになれたらいいな……)

 

共演したふたりの再会の場所は

(久しぶりに、生徒会室に行ってみようかな……)

「失礼します。」

「◯◯さん、どうしたんです?」

「え……柊くんこそ、どうして?」

「なんででしょう?生徒会執行部は引退しましたけど、時々、足が向いてしまいます。」

「ふふっ、そっか。わたしも、なんとなく。」

「引かれ合う二人?」

「え?」

「『え?』じゃないです。学園演劇で共演した二人が、ここで再会しました。」

「ここは、はばたき城じゃなくて生徒会室だよ?」

「では、『生徒会室・炎立つ』ですね?」

「ふふっ!」

「あ、開演の合図です。」

(柊くんと共演できたのって、今考えてもすごいことだよね……)

 

頭は焼きそばでいっぱい

(そろそろお昼にしようかな……うん、まだ休み時間残ってるよね)

(グゥ~)

「失礼しました……」

「ふふっ、お腹空いたね?」

「ええ、もう頭の中は焼きそばのことでいっぱいです。」

「柊くん、焼きそば好きだもんね。」

「昔からね。でも、学食であなたとかぶってから、更に好きになったかな。美味しそうに食べるあなたを――

(グゥ~)

「……面目ないです。」

「ふふっ。このくらいで切り上げて、お昼にしよう?」

「ええ、一刻も早く。今日は二人で焼きそばですね。」

 

オススメのテレビ番組

(そろそろ今日の仕事は終わりにしようかな……)

「◯◯さん、僕はもう少しかかるんで、戸締まりはしておきます。」

「あ、柊くん。わたし終わったから、手伝うよ。」

「ありがとうございます。でも、僕ももう少しです。もしよければ、一緒に帰りませんか?」

「もちろん。じゃあ、明日の準備して待ってるね。」

「はい。 あ……そうだ。あなたに聞こうと思って、いつも忘れてしまっていたことがあるんです。」

「え、なに?」

「以前、おすすめのテレビ番組を教えてくれるって、言ってましたよね。」

「え、そうだっけ……」

「あれ? 結構、楽しみにしていたんですよ?」

「そっか、ごめんね? どういったジャンルがいい?」

「先日観た『全国の奇祭をたずねて』っていうドキュメントが楽しかったです。」

「奇祭?」

「ええ、屋台の食べものも紹介されてました。焼きそばも、各地で色々違うんですね。」

(柊くん、お祭りよりも焼きそばの方に興味があるみたい……B級グルメ番組とか紹介しようかな)

 

スキンシップのことは忘れない

(お昼休み、まだ時間があるし……どうしようかな)

(あ、メッセージ。柊くんからだ……『生徒会室で待ってます』だって)

 

「柊くん、どうしたの?」

「このテーブルとパソコンがあれば、距離を詰めることはできません。忘れたとは言わせませんよ。子猫ちゃん?」

「ええっ!? もしかして……この前のスキンシップのこと?」

「ええ。あなたは夜になると、距離を詰め、豹変する。チャンスは昼です。 いいですか?僕たちははば学生で、生徒会執行部の人間です。」

「うん、ごめんなさい…… そんな嫌だった?」

「嫌ではないんです! ただ、本当にあれ以上は……」

「うん……」

「…………」

「柊くん?」

「◯◯さん……」

(ノック)

「はっ……」

男子生徒「失礼しまーす。お、二人で仕事?ご苦労さん。」

「え、ええ。仕事です……かね?」

(はぁ……びっくりした……すごくドキドキしちゃったよ)

 

自分の世界と外の世界

(やっと休み時間!なにをしようかな。……あ、柊くんだ)

「◯◯さん、今日はひとりですか?」

「うん。柊くんは?」

「これから職員室で資料をもらって、そのあと生徒会室です。」

「それじゃ、休めないね。手伝うよ。」

「ありがとう、助かりました。」

「柊くんはまだ仕事?」

「はい。あとは趣味みたいなもんです。パソコン下手だけど好きなんで。」

「ふふっ、無理しないでね。」

「あなたも。……と、言いたいところですが そんな心配不要かな。」

「え?」

「だって、僕が見るあなたは、穏やかにキャンバスに向かっていたり、楽しそうに花椿さんたちと遊んでいたり―― 自分の世界と外の世界を上手に行き来してる。それってすごいことですよ。僕なんか、すぐに外が見えなくなる。」

「そんな…… わたしの絵と柊くんのお仕事は一緒になんかできないよ?」

「ほら、そうやって自然に僕を気遣ってくれる。芸術への傾倒と周囲への気配り、なかなか両立できないものですよ。」

「柊くん、ありがとう。でも、そんなに言われると……」

「ふふっ、確かにちょっと褒めすぎたかな?」

「もう……でも、うれしいな。」

 

下手の横好き

(次の会議資料も準備できたし……)

男子生徒「お疲れさまー。戸締まり、よろしく。」

「はい。お疲れ様でした。」

「あれ?柊くんはまだ終わらないの?」

「ええ、まだ慣れなくて、パソコン。」

「少しわたしが替わろうか?」

「いえ、下手の横好きってやつです。ここに座って、生徒会の仕事をしてる時間、結構気に入ってます。」

「そうなんだ。劇団も忙しいのに、大変じゃない?」

「いいえ。僕ははば学の役に立ってるって、思えるだけでいいんです。実際に役立ってるかは別ですけど。」

「柊くんは立派だよ。みんなもね、忙しい柊くんががんばってるから自分もって思えるんだよ。」

「あなたがそう言ってくれるだけで救われます……ありがとう。」

(柊くん、やっぱり無理してるみたい……少しでも力になってあげたいな)

 

居眠り?

(次の会議資料も準備できたし……)

男子生徒「お疲れさまー。戸締まり、よろしく。」

「はーい。」

(あれ? 柊くん……)

「…………」

「あ……ふふっ。」

(柊くん、居眠り? 疲れてるみたいだし、パソコン閉じておこうかな……)

「疲れてませんよ?大丈夫です。 さっき、笑いましたね?」

「えっ。聞こえてたの?」

「ええ、もちろんです。僕はこの時間が好きって言ったでしょう?寝たりしませんよ。」

「うん。でも、あまり無理はしないでね。」

「ありがとう。ふぅー、もう少しやっておきます。」

(柊くん、さっき絶対眠ってたよね?)

 

領収書が足りない

「領収書が足りない?それとも僕のミスかな……金額が合わない。」

「え? 困ったね。わたしも部屋の中探してみる。」

「ありがとう。僕は入力した数字を確認します。」

 

「机や引き出し、ありそうなとこは探したけど見当たらない……」

「そうですか。ごめん、付き合わせてしまって。きっと、僕の入力ミスです。最初からやり直します。」

「う、うん……」

(あっ!! ノートパソコンの下に――

「えっ!まさか、パソコンの下?」

 

「あった!! すみません、お騒がせして。」

「ううん、見つかってよかったね!」

「ええ、でも全然良くない。自分の仕事もひとりでできないようでは……」

「そんなことないよ。だって、計算は合ってたでしょ?」

「はっ……ええ。」

「パソコン、使いこなしてきたんじゃない?」

「あなたって人は……なんか泣けてきます…… ありがとう。少し自信がつきました。あなたは褒めるのが上手ですね。」

(やった! でももっと柊くんを応援してあげたいな)

 

仕事中に食事も

「あれ?もうお昼休み、半分終わっちゃいそう。」

女子生徒「ホントだ、学食急ごう!先に行って席取ってるね。」

「柊くんは?お昼食べた?」

「……う、うん。 ああ、すみません。ここで先にいただきました。」

「あ、そうだったんだ。仕事しながら?」

「ええ、効率的にしないとね。」

(あれ? 柊くんの口元に……あんこ?)

「あ、あんこが……お恥ずかしい。ながら食べなんて、行儀が悪かったですね。」

「満点あんパン、美味しいもんね?」

「わっ、わかりますか? ふぅ……はい、藁にもすがるってやつです。満点でなくてもいいんですけどね。」

「ふふっ。なんかわたしも、満点あんパン食べたくなってきちゃった。」

「なら、急いで。 みんな、信じてないみたいな顔して人気ですから。」

「うん、じゃあ行ってきます!」

 

全校集会スピーチの手伝い

生徒会長「ありがとう。柊くんのおかげで助かったよ。」

「いえ、お役に立てて嬉しいです。」

生徒会長「また、相談させてよ。じゃあ。」

「会長、喜んでたね。どうしたの?」

「全校集会のスピーチ、ちょっとお手伝いしたんだ。」

「ああ、この前の?大好評だったもんね。柊くんが原稿を書いたんだ?」

「いえ、会長が作ったのを、僕が少し演出をね。」

「そうだったんだ。なんか、身振りとかもすごくて説得力あったよ。」

「ははっ、会長の演技力ですよ。でも少し、自分の力が生徒会に役立ったって思うと、嬉しいな。休み時間にここに座って、がんばった甲斐があった。」

「う、うん。すごいと思う……劇団も勉強も生徒会も……」

「ど、どうしたんですか。」

「柊くんのがんばりが認められてすごくうれしい……」

「あなたは本当に優しい人ですね。うん……あ、ありがとう。」

(柊くん、本当によかったね。疲れて眠いのに、いつもがんばってたもんね……)

 

雑務をお手伝い

(いい天気だな……少し中庭で休憩しようかな?)

「あ、柊くん。何してるの?」

「職員室に寄って、生徒会室にプリントを持って行くとこです。雑務が多い。」

「大変、わたしも手伝うよ。」

「ありがとう。あなたのおかげで、一往復分助かりました。」

「ふふっ、どういたしまして。」

 

「お昼休みも、生徒会のお仕事なの?」

「ええ。あ、でも押し付けられてるんじゃないですよ?僕がパソコンが下手なのと、放課後は劇団の仕事もあるからね?」

「そっか。柊くん、無理しないでね?」

「ありがとう。でも僕は昼休みここで、パソコン仕事をするのが好きなんです。なんでだと思う?」

「なんで?」

「そこの窓から、時々楽しそうにキャンバスに向かってるあなたが見えるんだ。」

「え?」

「のぞき見するつもりはなかったんですけど。良ければ今度作品を見せてください。」

「……気に入ったのができたらね?」

「はい、楽しみにしてます。」

 

絵を描く時間が好き

(いいお天気だな……まだお昼休みの時間もあるし、少し中庭の方に行ってみようかな)

「あ、柊くん。」

「こんにちは。あ、今日もキャンバスに向かう?」

「うん、どうしようかな…… 柊くんは?」

「僕はこれから、生徒会室で会議資料の準備。じゃあ。」

(柊くん、相変わらず忙しそう。そういえば、前にわたしが絵を描いてるの、気にしてくれてたよね……)

「はい、どうぞ。 あれ、今日はもうおしまいですか?」

「うん。いいお天気すぎて、あまり進まなかった。」

「ははっ。僕もです。僕のはパソコンが下手なだけですけどね。」

「わたしも絵が上手なわけじゃないよ。」

「じゃあ僕と一緒ですね。ただ、この時間が好きなだけ。いつか見せてくれますか?あなたの絵。」

「満足できるのが描けたらね。」

「うん、楽しみにしながら、そこの窓から応援してます。」

「ええ?柊くんに見られてると思うと緊張するよ。」

「ああ、失礼しました。じゃあ、見ません。」

(柊くん……絶対見るよね?)

 

絵は仕上がった?

(いいお天気…… 休み時間もまだあるし、スケッチでもしようかな?)

(よし、と。今日はもうおしまい。――そうだ、柊くん、まだ生徒会室にいるかも。様子を見に行こう)

 

「あ。もしかして、仕上がりましたか?」

「え?」

「そう、絵。 ………… 」

「あはは。柊くんの冗談、面白い。」

「いつもつまらない男が時々言うと面白いでしょ?」

「柊くんはいつも楽しいよ?」

「ふふっ、ありがとう。あなたには到底かないませんけど。」

「もう。絵は描いてるけどね。柊くんに見せるほどじゃないよ。」

「ああ、無理は言いません。ちなみに、題材は?」

「時々中庭で日向ぼっこしている猫。」

「そうなんですね。その子に会えるのを楽しみにしています。」

「普通に中庭にいるよ?」

「いえ、あなたの作品の方です。」

(これは、いつか見られちゃう気がするな……)