ホタルの住処 柊夜ノ介
恋愛
嬉しいけど怖い
「ため息が出る美しさだ。」
「うん、キレイだね。」
「僕にはあなたがライトアップされているように見えます。」
「ふふっ、柊くんもだよ。」
「今、あなたを見ているのは僕だけ。そう考えると、怖いな。」
「え?」
「今、このキレイなあなたを僕はひとり占めしている。嬉しいけど怖い。本心です。あなたの一番近くに居られている今だから……でも、そうじゃない未来があるとしたら、考えるだけでも怖い。」
「えぇと、柊くん?」
「心の声です。僕の。カッコ悪い本心です。この状況をただ喜んでいればいいのに、なぜか、無くしてしまう恐怖も一緒に感じているんだ……」
(柊くん……)
どういう存在がカノジョ?
「そういえば、ちょっと前に生徒会執行部で、あなたのことを聞かれました。『カノジョか?』って……」
「ええ!?」
「……そんなに驚く事かな?」
「それで、なんて答えたの?」
「『わからない』と言いました。どういう存在がカノジョなのか?と聞いても確たる答えは返ってきませんでしたし。」
「そ、そっか……」
「あなたはどういう存在がカノジョだと思います?」
「えっ!? そんなこと、急に聞かれても……」
「困らせてしまいましたか……ならこの話は保留。生徒会でも未決BOXがあるので、そこに入れときましょう。」
(柊くん、未決BOXにいったい何て書いて投函するつもりだろう……)
となりで舞台に立つのは僕
「幻想的だね……舞台の上に立ってるみたいだ。」
「主演は柊くんだね。」
「今日のところはね?」
「え?」
「二人の強力なライバルがいるから。……でも、今はあなたの隣で舞台に立っているのは僕だ。胸を張ることにします。そうじゃないと、ライバルにも失礼ですから。ああ、そのまま動かないで。あなたの後ろに不思議な色のホタルが…… キレイだ……」
「えっ?」
「僕は、主役の座を誰にも渡す気はありません。宣言です。」
(今日の柊くん、いつもと違う気がする……)
僕だけのものに
「光があふれて……キレイだね?」
「うん……」
「……もう少し、ここが秘密めいた場所だったら 僕たちで独占したかったな。」
「えっ?」
「ふふ。あなたのそういう表情も好きです。 独占と言えば……あなたも、まだ、僕だけのものではないです。」
「柊くん……?」
「でも、僕があなたの一番近くにいると思ってます。あってますか?」
「えぇと……」
「二人には申し訳ないですけど、僕はあなたの隣を譲る気はない。」
(二人って……なんか、今日の柊くん、いつもと違う気がする……)
居心地がいい場所
「……ここは、とても居心地がいいです。ずっとここにいたいと思わせる。」
「うん。でも、ここはホタルたちの家だよ?」
「確かに。お邪魔してます。 でもね?居心地がいいだけでは、その先がない。僕はその状況、あまり好きじゃないんです。ぬるま湯に長く浸かってるのはね。」
「柊くん……?」
「わかりますか?あなたとのことです。」
「わたし?」
「ええ。なので、少し居心地は悪くなるかもしれませんが、あなたとの関係を先に進めます。 覚悟はいい?」
(わたしとの関係を先に進める……どういうことだろう……?)
特別な存在としての思い出
「……はば学に入学して、あなたと沢山の思い出ができました。◯◯さん、ありがとう。」
「ふふっ、こちらこそ。でも、もう卒業しちゃうみたいな言い方だよ?」
「ふふ、本当にあなたは勘のいい人だ。はい、卒業します。」
「ええっ!?」
「ただの同級生ではなく、特別な存在としての思い出が欲しい。」
「特別な存在……」
「ええ、楽しいだけじゃなくなりそうだけど、それが、楽しみでもあります。◯◯さん、よろしく?」
(柊くんと、特別な関係……いったいどうなるんだろう?)
あのときみたいに
「あれ?僕たちの周りに集まってきてます?」
「本当だ……どうしてだろう?」
「そう言えば、遊覧船に乗った時にも、こんなことありましたね?」
「ふふっ、うん。ウミドリがたくさん集まってきた。」
「ええ。それに、ほら。 ここも、舞台と甲板と同じ、板の上です。」
「柊くんの、役者気質のお話?」
「ええ。ウミドリたちは飛び入り参加でしたが、ここのホタルたちは演出効果かな?主演は僕たち二人。さあ、どんな舞台にします?」
「ふふっ!」
団員たちから質問攻めに
「この前は、僕の家に来てくれてありがとう。」
「こちらこそ。お邪魔しました。」
「あなたが帰った後、大変だったんですよ?団員たちが、あなたを見かけたらしくて……質問攻めでした。」
「え、どんな質問?」
「名前は? 歳は? 趣味は? 演劇経験は? それに、いつ入団するのか?っていうのまでね。」
「ええっ!?」
「ね、大変でしょう?最後の質問には上手に答えられませんでした。」
「最後って……入団の話?」
「ええ、どう答えたらいいか、あなたに聞こうって思ってました。で、どう?」
(えぇと……そんなこと言われても困るよ!)
偶然が積み重なり奇跡に
「本当にキレイですね…… 偶然、湧水が出て泉になり、そこにホタルが住みつく。で、そこがたまたま森林公園だった……」
「うん、奇跡みたい……」
「1つひとつは小さな偶然でも、積み重なれば、奇跡になる。そういえば、僕たちにも小さな偶然が起きたね?」
「え?……もしかして、今日の服のこと?」
「そう、シンクロニシティ。意味のある偶然の一致です。今日みたいな偶然があと10回で、大きな奇跡につながるかもしれませんよ?」
「ふふっ!」
(また柊くんとペアルックになれるのが、ちょっと楽しみかも)
改めて感じる大切さ
「ふぅ……」
「柊くん、どうしたの?」
「ああ、すみません。あなたの周りを飛んでいるホタルが、なかなか離れようとしないので……今日、あなたに付きまとっていた男がいたでしょう。ちょっと重ねてしまった。」
「あ……でも、ホタルに罪はないよ?」
「ふふ、そうですね。失礼しました。でも、あの男のおかげで、あなたが僕にとってどれだけ大切か、改めて知りました。」
「柊くん……」
「僕の中にこれほどの独占欲があることもね。なにせ、ホタルにも嫉妬するくらいですから?」
(柊くん……)
もらうばかりだった自分
「僕は人として欠陥が多いんです……」
「え、急にどうしたの?」
「小さい頃から、人に何かしてもらうことに慣れきっている。そして、そんな傲慢な自分に気づきもしなかった……そのことに、あなたへの誕生日プレゼントを考えてる時、気付かされました。」
「柊くん……」
「もらうばかりで、あげることをしてこなかった……ひどい人間です。」
「ううん。柊くんは小さい頃から舞台に立っているから、仕方ないよ。」
「ありがとう。あなたにそう言ってもらえると、少し救われます。そんな僕だから、トンチンカンな贈り物をあなたに渡しているんだろうな……」
「ぜんぜん。すごくうれしかった。」
「本当ですか?良かった……じゃあ、次のプレゼントはもっと喜んでもらえるようにします。」
(柊くん、わたしのプレゼントを選ぶとき、そんな風に考えてくれてたんだ……)
美しさと怖さ
「この儚く美しい光を、昔の人は亡くなった人の魂に見立てたらしいです。」
「きれいだけど、ちょっと怖いかも……」
「あなたはこういう話が苦手でしたね。でもね、きれいなものは儚いでしょう。」
「う、うん。」
「だから美しさを極めると、そこには怖さも含まれているんだと思っています。ですので、中途半端なことはして欲しくないんです。」
「え……えーと?」
「ほら以前、あなたとお化け屋敷で……」
「ああ!柊くん、お化けの人に色々教えてたよね。」
「ええ、幽霊は美しいものと僕は思ってますから。つい出過ぎたことをしました。」
「あのお化けの人、真剣に聞いてたから 柊くんのおかげで、きっともっと怖くなってるかも。」
「そうなら嬉しいですね。また今度、様子を見に行ってみましょうか。」
(柊くんがプロデュースしたら、すごく怖いお化け屋敷ができそうだな……)
ここには水神様が
「なんででしょう?今ふと、あのカマクラカフェを思い出した。」
「カマクラカフェって、スキー場の?」
「ええ。あなたと二人で、甘酒をいただきました。どうして今、思い出すのか…… ここも不思議な場所です。水神様がいらっしゃるのかもしれません。」
「パワースポットだもんね。」
「ええ、それに今回も女神様と一緒ですし。」
「え?」
「ふふっ、ただ甘酒は季節的にどうかと思いますが?」
(柊くん、楽しそうだな。でも、女神さまって……?)
舞台で目指す美しさ
「はぁ、キレイですね……」
「うん、本当……」
「たぶんこの景色が、僕たちが舞台で目指す美しさです。でも、勝てません。」
「そうなの?」
「ええ、本物と競っても勝ち目はない。でもね、本物の魅力的なところだけを誇張すると、舞台映えするんです。ほら、僕の女形がいい例。」
「あ、この間、楽屋前で……柊くん、すごくきれいだった!」
「ああ、いえ。あれは本来、舞台の上でお見せするべきものですので。」
「すごく魅力的だったよ。」
「あ、ありがとう。今度は舞台で見ていただきたいな……不完全な状態をお見せしたのが、不本意です。」
(もしかして柊くん、恥ずかしがってたのかな……?)
選ばれることへの焦燥感
「あなたにはどう見えてますか?」
「え?キレイで素敵な景色だよ。」
「そうですね。僕は焦燥感を感じます……」
「え?」
「理由はわかってる。あなたです。ホタルたちを見ていると、沢山の中からあなたに選んでもらえるかなって。そんな、焦りみたいな感情が湧いてきます。」
「えぇと……」
「ホタルたちも頑張ってる。僕もしっかり輝かないと。あなたに選んでもらえるようにね。」
「柊くん……」
「いつか、ここをただ単に美しい景色として見られるようになったら、きっとその時は自分に自信がついた時かな?今はダメみたいです。ホタル一匹に感情移入してしまう……」
(今日の柊くん、いつもと違う気がする……)
恋愛を知らずに演じること
「僕は実際の恋愛を知らずに、恋愛をテーマにした舞台に出演してきました……」
「柊くん、急にどうしたの?」
「どうしたんでしょうね。ここの噂通り、僕の心の声かもしれませんよ。」
「ええ?」
「ふふっ。半分冗談です。でも、半分は本気。最近ね、自分が恋愛について何も知らないということがわかった。無知の知というやつです。あなたと出会ったおかげですよ。」
「わたし……?」
「ええ、この感覚を知ってて演じるのと、知らないのとでは大きな差です。現実の僕があなたと出会うことで変化した。それが舞台の役にも影響するんです。」
「柊くん……」
「昔、父がよく言ってました。お酒が入ると演劇論を僕に熱く語るんです。あの時は聞き流していましたが、あなたのおかげで、父ともう一歩踏み込んだ演劇論が、交わせるかもしれません。」
(わたしのおかげ……うれしいけど、なんだか恥ずかしいな)
恋愛の悩み
あなたの一番近くに
「◯◯さん。」
「なに?」
「聞こえているなら安心です。」
「?」
「声の聞こえる範囲にいるなら、もう少しかな。あなたの一番近くに行けるまで?」
「ええ?」
「そんなに驚かなくていいですよ。僕だって、わかってます。自分が一番じゃないってことくらい。 無茶はしません。けど……もう少しなら足掻いてもいいかなとも思います。」
「柊くん?」
「気持ちは、あなたの一番近くにいる人にも負けませんから。 はぁ……すっきりしました。こういうのは、有言実行の方が性に合ってるから。」
(わたしの一番近くにいる人って……)
前にいるのは、ほかの誰か
「◯◯さん、あなたの場所から僕は見えてる?」
「え……うん、見えてるよ?」
「でも目を閉じると、僕より前に他の誰かがいるでしょう?」
「えっ……」
「そのくらいは、僕にもわかります。それが誰だかは関係ありません。でも、僕はその人よりあなたに近づきたい。」
「柊くん……」
「僕なりの方法で、あなたに誰よりも近づきたい。いい?」
「えっ、あの……はい。」
「ふふっ、NGじゃないことはわかりました。あとは僕次第ですね。」
(今日の柊くん、いつもと違うかも……わたしの一番近くって、どういうことだろう)
笑顔を一番近くで見たい
「自分の感情が反映されてるのかな……ホタルが青く光ってるように見えます。」
「えっ、どうしたの?」
「気持ちの整理ができていないだけです。あなたの笑顔を一番近くで見ることがどれだけ幸せかを、今、強烈に感じています。」
「う、うん?」
「ふぅ……もう一度、あなたの笑顔を一番近くで見るには……どうしたらいい? 自分で答えを出してみます。その時、やっと気持ちの整理がつくと思う。」
「う、うん。」
「次ここに来るとき、ホタルの光が別の色に見えているといいな。」
(柊くん、いつもと違うよね……もしかして心の声?)
一気に離れた関係
「◯◯さん、独り言と思って、聞いてもらえますか。」
「え?う、うん。」
「ありがとう。 僕はあなたに出会ってから、少しずつでも関係を深めることができた。そしてそれは、これからも続くものと思っていました。……でも、違った。一気に離れてしまいました。」
「柊くん……」
「普通に考えれば当然です。自分が作る舞台も同じ。何事もなく恋愛が成就するなんてことはない。ただ舞台と違うのは、キレイな結末すら無いかもしれない。それどころか、あなたというヒロインがいる舞台から、途中で降りなくてはならないかもしれない。」
「わたしが……ヒロイン?」
「ええ、それだけは変わりません。あなたと同じ舞台に立ち続け、さらに、隣にいる。簡単なことではない。でも、僕はその場所を経験しました。ですから、戻ってみせますよ。」
「柊くん……」
「大丈夫。シナリオはまだ完成していない。ですよね?」
(わたしがヒロインの舞台……?何て答えていいかわからないよ……)
あなたの隣にいるのは
「……イノリ君があなたの隣にいるんですね。」
「え? 氷室くん?どこ?」
「今ではありませんよ。」
「はぁ、びっくりした。」
「ふぅ……あなたって人は。イノリ君が正直、妬ましいです。」
「え?」
「イノリ君なら……仕方ない、なんてチラッとでも思った自分を叱りたい。こんなに可愛らしい人は、あなたしかいないです。だから、もう一度あなたの隣に戻れるように、僕にできることをします。」
「柊くん……」
「とはいっても、何をしたらいいか皆目見当もつきませんが? 今日はその宣言です。」
(え、宣言?柊くん、何するつもりなんだろう……)
尊敬する先生だけど
「僕には勝ち目がないのか……」
「え?」
「あなたが御影先生に惹かれていることは承知しています。僕も御影先生を尊敬していますし、それだけじゃない……失礼ですが、友だちとしても好きです。」
「柊くん?」
「だから、あなたの気持ちがわかります。そして、僕が逆転するストーリーが見えてこない。結果、絶望している。」
「えぇと……わたしも御影先生は好きだけど――」
「ごめん、それ以上は言わないで。まだ、僕の妄想という余地を残しておきたいんです。はぁ……それほど、あの人は強敵なんだ。」
「強敵?」
「ええ、最強です。何から手を付けていいかわからない……
ふぅ……僕は役者だ……御影先生を真似てみるか?」
「えっ? 柊くんが御影先生を真似る!?」
「まずは敵を知る。悪くないかもしれない……」
(柊くん、様子が少し変だよね……もしかして、ホタルの住処のせい?)
ファッションも楽しみ
「ここのホタルは色も光り方も色々ですね?」
「うん。見ていて楽しいよね。」
「あなたのファッションもです。色々で毎回楽しみです。僕は……いつもこんな感じですけど?」
「柊くんのファッション、似合ってるよ。」
「ありがとう。似合ってる、か……もうちょっとあなたに楽しんでもらえるようになりたいな。どんなのがいい?」
「ふふっ、そうだなぁ……普段はシックな感じだから、ワイルドとか?」
「ワイルド……具体的には、どういったファッションでしょう?」
「うーん、御影先生みたいな感じかな?」
「なるほど、身近にお手本がいた。やってみます。 御影先生と言えば……グレーの作業着か。」
(ん?今、作業着って聞こえたけど……?)
劇団ホタルの看板役者
「あ、見てください。一匹の周りに沢山のホタルが集まっている。ホタルの世界にも、人気者はいるんですね?」
「ふふっ、ホタル界の柊くんだね?」
「劇団ホタルの看板役者かな?」
「ふふっ、そんな感じ。」
「……いや、違いますね。メスのホタルですから。◯◯さん、あなたですよ。あれはホタル界のあなた。」
「え、わたし?」
「で、周りにいるのが僕たちだな。あなたに選んでもらえるように、頑張って光ってる。ちゃんと僕を選んでよ?」
「ええ!?」
「ふふ、冗談ですよ。」
(柊くんって、本気か冗談かわからないところあるよね……)
友人
思い浮かぶふたりの顔
「……ホタルを見てたら、二人のことを思い出してしまいました。」
「二人って、氷室くんと御影先生のこと?」
「ええ、僕たち二人だけでここに来たって知ったら、叱られそうです。主にイノリ君ですけど。」
「ふふっ、御影先生は?」
「御影先生は、『今度は俺も連れてけよ』とは、おっしゃるでしょうね。イノリ君はそれじゃ、すみませんよ。『どういう流れでそこに行ったんですか』と詰め寄ってきますね。」
「ふふっ、うん。言いそう。」
「イノリ君は、しばらくは大変ですがすぐ忘れてくれそうです。でも御影先生は、ホタルの季節になるたびに、『俺もつれてけ』を繰り返す可能性がありますね。」
「ふふっ!柊くん、良くわかってるんだね?」
「ええ、二人ともわかりやすい人ですから。でも、こういう関係になれるって素敵ですね。僕は初めてです。だから、本当に嬉しいんだ。」
(柊くん、氷室くんと御影先生とずっと一緒にいられたらいいね……)
増えたのは4人で過ごす時間
「仲間たちと一緒にいるホタルと、一匹だけでいるホタル……色々ですね。」
「うん、そうだね。」
「僕たちは最近、4人でいることが増えましたよね。」
「氷室くんと御影先生?」
「ええ。二人が僕を気遣ってくれるのが嬉しいです。イノリ君なんて年下なのに。」
「ふふっ。氷室くんはああ見えて、世話好きなのかも?」
「ええ、イノリ君も御影先生もあなたも、世間知らずの僕の先生です。いつも、ありがとう。学校生活が何とかできているのもみんなのおかげです。」
「柊くん……」
「あ、ほら。さっき一匹だったホタルの近くに、優しいホタルが集まってきてます。よかった……」
(柊くん……これからも、はば学に入学してよかったって思えるといいな)
あなたが生徒会長なら
「今日は一段とすごい数ですね。」
「うん、圧倒されちゃうね。」
「そういえば、最近あなたの周りも一段とすごいですよ。」
「何が?」
「友だちの数です。また増えました?ま、そのうちのひとりは僕なんですが。」
「うん、話す人が増えたかも。」
「ええ、おかげで僕も知り合いが増えてる。ご相伴にあずかってます。あなたみたいな人が生徒会長になれば、はば学がもっと素敵な学校になるでしょうね。」
「ええっ、わたしが生徒会長?」
「別にそんなに驚くことはないでしょう。もし、立候補するなら、生徒会執行部を代表して応援しますよ。そんな応援不要かな?」
「そんなことないけど……生徒会執行部が応援したら、規則違反だよ?」
「はっ、なるほど。危ない。重大な規則違反をするとこだった。残念だけど、応援はできないよ。」
(……ん?いつの間にかわたしが生徒会長に立候補することになってる?)
もっとキレイに光らないと
「見てください。あのホタル、親衛隊を従えています。」
「本当だ。」
「女王ホタル?なんているのかな。」
「ふふっ。」
「あなたみたいですね。」
「ええ?」
「最近はあなたの周りにいつも沢山の人がいます。女子も男子も、先生方まで? 僕も頑張って、キレイに光らないとな。あなたに気づいてもらえないと悲しいからね。」
「柊くん?」
「あなたの魅力は隠しようもない。これからもどんどん増えていきそうだからね?」
(最近、友だちや知り合いが増えたけれど……柊くん、大げさだよ)
初めての体験ばかり
「僕ははば学に入学して、これまで体験していないことを、色々やらせてもらっています。毎日学校に通うことすら初めての体験だけど、その上に生徒会の活動まで。」
「柊くんは更に劇団まで。本当に大変だよね。」
「劇団の方は物心つく前からやってます。何の苦でもありません。あ、あと、学校でもすごく馴染み深い時間があった。」
「何の時間?」
「学食です。公演期間中は団員全員と一緒に食事を取ります。その雰囲気が学食に良く似てる。自分が選んだものに関して、色々お話しするのは一緒。僕のお気に入りの時間ですね。」
「わたしも学食、好きだよ。」
「よかった。では、次一緒に行けるのが楽しみです。その時は同じものを食べましょう。」
(柊くんは、はば学で初めて学生生活を楽しんでいるんだね)
女子同士は何して遊ぶ?
「そうだ、ちょっと質問いいですか?友だちについて。」
「うん、友だちのことって?」
「女子同士で遊ぶ時って、どういう遊びをするんです?」
「そうだなぁ……買い物とかカラオケとかスイーツ食べたり。色々だよ?」
「なるほど……うーん。あなたとなら何も悩まないのですが、男同士で出かけることになってね。小学校の時以来で、少し緊張してます。」
「ふふっ、良かったね。」
「ええ、小学校の時は公園で遊んだ程度でしたから……楽しみです。」
(柊くんは小中学校の頃、なかなか友だちと遊べなかったんだもんね……本当によかったね!)
お楽しみ
小学生の入団希望者
「最近嬉しいことがあったんです。劇団のことです。」
「何があったの?」
「10歳の男の子の入団希望者が、お母さまに連れられてやってきたんです。」
「すごい!でも小学生が入団できるの?」
「もちろん、問題はありません。僕は2歳からやってますし。」
「入団できたらすごいね。」
「ええ。なにより、小さいお子さんを預けてもいいと思ってもらえていることに感動しました。はばたき市の市民劇団として、認めてもらいつつあるということです。」
「柊くんのがんばりの成果だね。」
「うん、これからもはばたき市民に認めてもらえるように、頑張っていきたいって改めて思います。」
「未来の看板役者の候補も見つかったしね?」
「ふっ、それとこれとは話は別。僕はまだまだ、やれますよ?」
(柊くんのがんばりが実を結びつつあるって、すごくうれしいな!)
街中でも人気者
「最近、知らない方に声をかけていただく事が増えてきました。」
「きっと、柊くんのファンだね。」
「どうでしょう?街中で大きな声で名前を呼ばれると驚きますけど。」
「大きな声?」
「ええ、先日は元気な男の子でした。僕のモノマネもしてくれた。可愛かったですよ?」
「どんなモノマネ?」
「『はばたき城・炎立つ』のセリフ。『魂は未来永劫、そなたと共に!』って。完璧でしたよ!」
「ふふっ、可愛いね。」
「はばたき市の皆さんに、少しでも認められてきたのであれば嬉しいな。」
「うん、間違いないよ。」
(柊くんのがんばりが、みんなに伝わってるってうれしいな……)
秘密は冷泉に?
「ここのホタルたちは、一般的なホタルよりずっと長生きなんですね。不思議だな。心の声の噂もありますし、何か秘密があるのかな……」
「泉の湧き水に効能があるとか?」
「なるほど、冷泉ですか。長寿の効能がある冷泉はよく聞きますしね。でも、もう1つの心の声が聞こえるって方は、どうなんでしょう?」
「うーん、本当に聞こえるのかな?」
「あなたは聞こえたことない?」
「え!? 柊くんは聞こえたの?」
「ふふっ。あなたが聞こえてるか、確かめました。」
(うぅ……柊くんって時々、予想外のこと言うからびっくりしちゃう……)
父が語る演劇論
「最近、父との会話が面白いんです。」
「お父さん?」
「ええ、先代の座長です。相変わらず、演劇論も聞かされますがね。」
「ふふっ。親子というよりも、新旧座長って感じだね。」
「ええ。でもお酒が入ると、以前にはなかった話題が多くなってきたんです。学校のこと。友だちは増えたか?とか…… 最後には宿題はやったか?ですよ。」
「ふふっ、小学生みたいだね。」
「ええ…… ああ、なるほど。そういうことか。」
「え?」
「今、学校生活を楽しんでいるのは、僕だけじゃないってことです。父も僕が小学生の頃に、小学生の父親らしいことが全くできなかった。だから、今、楽しんでいる。うん……そっか。」
(ご家族も楽しんでくれているんだ。よかったね、柊くん……)