ホタルの住処 本多行
恋愛
今日の観察対象は
「近所でこれだけたくさんホタルが見られる場所があるなんて贅沢だよね!」
「ふふ、色々調べたくなっちゃう?」
「そうなんだよ!いつものオレなら、じっくり観察させてもらうところだけど……君といると、そうもいかない。」
「え?」
「ホタルを見に来たっていうより、ホタルを見る君を見に来たっていうか。うん、そそ!観察対象はどっちかって言うと君なんだよね。」
「ええっ?」
「ほらっ、その反応とか!君って、ホタルみたいにピカピカキラキラした顔するでしょ?ホタルが光るのは求愛行動からって解明されてるけど、君のその表情の理由はまだわからないじゃない?だから、もっとたくさん君のことを見て、色々知りたいんだ。」
「本多くん……」
「あっ!もしかして君のそれも、求愛行動だったりする!?」
(その表現は……ちょっと……)
しゃべり過ぎに注意
「ね、オレさ 君の前でおしゃべりが過ぎてない?」
「急にどうしたの?」
「オレ、家族といるとたまにしゃべり過ぎでげんなりされることあるんだけどさ。この前、妹が心配してた。君の前でも同じことしてるの?って。んで、きっとしてるだろうし、むしろもっとおしゃべりになってるかも、って言ったら怒られたよ。」
「ふふっ!」
「あ、それ!そうやって君が笑ってくれるからなー。オレもついつい話しすぎちゃうんだよ。だからさ、もしつまんなかったり話変えたくなったら、合図送ってよ。」
「合図?」
「そそ!妹の場合は『真顔で5秒間黙る』っていう合図を送ってくるんだ。それされたら、オレも黙るか、話題を変えるんだ。
試しにやってみよっか?オレに向かって5秒間、真顔で黙ってみてくれる?」
「う、うん。
……………… 」
「あ…… あれ?」
「え、どうかした?」
「おかしいな、オレの代わりに心臓がうるさくなってきた……」
(なんだか別の効果があったみたい?)
4人だと心から楽しめない?
「前にさ、リョウくんとミーくんと一緒に4人で遊びに行ったでしょ?アレ、君は楽しかった?」
「うん、楽しかったよ。」
「そうだよね……うん。」
「本多くん?」
「◯◯ちゃん。最近のオレ、なんか変じゃない?意地悪だったりしない?」
「……どうしたの?」
「オレ、みんなで遊んだこと楽しかったはずなのに……リョウくんもミーくんも一緒じゃない方が良かったな、とか そんなヤなこと考えちゃったんだ。オレ、あの二人のこと大好きなのに……」
「本多くん……」
「だー、ゴメン!こんなの言われても困るよね。あの時、あの場所だからそんな風に思っただけかもしれないし、オレはまた4人で遊びたいよ?いろんな状況で再現しない限り、確かな感情だとは言い難いしね!うん。」
(本多くん、複雑な気持ちになってるのかな……?)
君の手をとって
「……ん?キョロキョロしてない?」
「えっ?ホタルを見てただけだよ?」
「あ、そっか。知り合いでも探してるのかと思った。前に4人で出かけたよね?ここでまた偶然、遭遇したりして。そしたらどうする?」
「どうするって……?」
「オレなら君の手を取って、逃げ出すよ。」
「えっ……」
「あ、意外って顔してる。けど、こんな言葉がためらいもなく出てきて、一番驚いてるのはオレ。」
「本多くん……?」
「――あっ!向こうにホタルの大群!行ってみよっ!」
(さっきの本多くんの眼差し、すごく真剣だったな……)
縮めたい距離
「ね、オレたちの関係ってどうなのかな?」
「どうって?」
「うん、やっぱりそうなるよね。実はこの質問、昨日妹に聞かれたんだ。日頃からよく、君の話をしてるから。
オレは今の距離感がずっと心地良かったんだ。君はオレの話に興味持ってくれるし、一緒に話しててすごく楽しい。
なのに妹に聞かれてから、このままはヤだな、もっと距離を縮めたい。そんな風に思う自分に気付いたんだ。
よく言うよね。友だち以上恋人未満、みたいなコト。オレは、そこから一歩進んで……
……進んだら、どうなるんだ……?」
「……ふふっ!」
「あー、笑わないでよ!オレだってまだまだ研究中なんだからさ。けど、君とはまた新しい関係に進めたら嬉しいっていうのは本音!」
「うん、ありがとう、本多くん。」
(そっか、本多くんはそんな風に考えてくれてたんだな……)
ふたりはカップル
「ね、オレたちの関係って周囲からはどう見られてるのかな。」
「どうしたの、急に。」
「ここってカップル多いから、やっぱりオレたちも同じように見られてるのかなって。君とこーして二人で出かけるの、当たり前っていうか、慣れちゃったけど――だからって恋人とは言えないよね?
……そんなビミョーな関係?」
「うん……たしかに。」
「今のこの関係ってオレにとってはすごく心地よくて、正直、ずっと続いたらいいなって思う。けどさ、それってこのビミョーな関係が固定化されてしまうってことだよね。それは君にとっては本意?」
「うーん……」
「なんてことをさ、いきなり訊かれても困っちゃうか。つい思ったことを口に出しちゃっただけだから、気にしないで?」
「う、うん。」
(本多くんは、今の関係を変えたいってこと……なのかな?)
忘れてほしくない告白
「だーっ、もう限界!!」
「えっ!?」
「この間の海辺でのこと、きちんと謝らせて!」
「え?」
「急にあんなこと言われて、困ったでしょ?本当にゴメン!
実を言うと、全部なかったことにしてそのまま忘れてもらおうなんて考えもしたけど、やっぱそんなの性に合わなくて。きちんと面と向かって謝りたかったし、何より――
なかったことにされるのも、すごくヤだなって……」
「本多くん……」
「まだオレの中で、処理し切れてない気持ちや、理解できてない感情がたくさんあるんだ。だからオレ、それを全部整理して、自分で納得してからじゃなきゃ君に話せない。」
「うん、わかった。……待ってるね?」
「◯◯ちゃん……うん、ありがと。はぁ、スッキリした……オレ、久々に普通に呼吸できた気がするよ。」
(本多くん、そこまで悩んでくれたんだ……ありがとう)
もっと部屋はキレイに
「前、うちに来たことあったよね。でさ、その話を妹にしたんだけど……女の子を家にあげるなら、もっとキレイにしとけって、マジな感じで怒られた。」
「ええ?十分キレイだったと思うけど……」
「そそ!オレもそう思って、言い返したんだ。けどさ、ただ整とんしてあるだけじゃダメなんだってさ。なんか他にもやっておくべきことがあるんだとか?親戚や友だちが来るときにはこんなうるさいこと言わないのに、なんなんだろ?やっぱ君だからかな。」
「え?」
「ほんの独り言だから、気にしないで!でさ、オレがこんなことを言いだしたってことは、またそのうち、さ。うちに来てくれたら嬉しい。今度はもっとちゃんともてなすから。絶対!」
「ふふ、うん!」
(次はどんな風にもてなしてもらえるのかな?楽しみ!)
近づくファッションセンス
「ねね、今日は一日中ずっとペアルックで歩いちゃったね。」
「ふふ、そうだね。」
「事前に打ち合わせしたわけじゃないのに、似てくるってことは―― オレたち、ファッションセンスが近くなってきたってことだ!あれ、もしかして元々センスが近かった?だからこんなに気が合うってことも考えられるか。」
「うん、そうかも?」
「でしょ、でしょ?たまに、ペアルックなんて恥ずかしいって意見を聞くけど、アレってよくわかんないんだよね。むしろセンスが近いってこと、もっと喜べばいいのに。オレなんか、君と同じ髪型にだってしたいしね。」
「えっ!? 髪型?」
「そそ! その人を知るには、その人になりきるのが一番! 君の髪型になったら、毎日どんな手入れが必要で、ヘアセットにどれくらい時間がかかるとか、色々わかるだろうし。普段の何気ない行動にだって、その髪型だからこそやってることってあると思うんだよね。」
「な、なるほど……?」
「うん、ちょっとウズいてきた!」
(わたしと同じ髪型の本多くん……見たいような……止めたいような……)
キレイなホタルを独り占め
「今日は待ち合わせに遅れてごめん。ああいう人って本当にいるんだね。」
「そうだね……」
「ここのホタルの中にもさ、君みたいに声をかけられて困ってる子もいるんだろうね。キレイで目立つから仕方ないんだろうけど、君にはイヤな思い、して欲しくない。」
「でも、本多くんがすぐ来てくれたから平気だったよ。」
「はぁ……」
「?」
「君みたいなキレイなホタルを独り占めできてるって、もしかしたらオレ、すごいラッキーなのかもな。」
「ホタル?」
「うん、君は綺麗なホタル。だから、もう今日みたいな思いはさせたくないよ。これからは前日から待ち合わせ場所にいようかな?」
(それって、待ち合わせなの……?)
最適解のプレゼント
「ホタルみたいに、アプローチ方法が1つだけだったら考え込まずに済むのになー。」
「え?」
「あっ、急にゴメン!ちょっとまだ引っかかっててさ、誕生日プレゼントのこと。」
「もしかしてわたし、ヘンな反応してた……?」
「あっ、違う違う!だけどさ、プレゼントもらったその場で不満を言う人はいないでしょ?実はアレ、オレなりにイイもの選べたなって自信があったんだ。妹の意見も一応聞いたし!けど不思議なもので、その時まであったはずの自信が、君の顔見た途端に一気に無くなっちゃってさ。本当にこれで良かったのか?これが最適解なのか?って。だから、単刀直入に聞いてもいい?アレ、気に入ってくれた?」
「うん、もちろん。」
「はぁ、良かった……じゃ、今度のも大丈夫そうかな。」
「今度の?」
「そそ、次の誕生日のこと!実はもう考えてるんだ。きっと前よりもっとビックリするような―― ……って、ここで言ったらサプライズの度合いが低くなるか!」
(本多くん、そんな風にわたしのこと考えてくれてたんだな……)
もちろんホタルも観察対象
「やっぱり、数増えたよね?」
「ホタルのこと?」
「そう、目測だけどね。時間とエリアを決めてカウントするんだ。前にひとりで来た時より、数が多い。」
「ここのホタルも、本多くんの観察対象なんだね?」
「はばたき市にはたくさんいるよ。ほら、前に話したよね?ダイオウグソクムシのグソくん。あの子もそのひとり。」
「グソくんのことは……残念だったね……」
「うん、小さい頃からずっと見てたからね……あ、生き物だけじゃないんだよ。この街はね、魅力的な観察対象であふれてる。」
「ふふ!じゃあ本多くん、毎日忙しいね?」
「うんうん。最近は、君もいるからね。」
「わたし?」
「そそ。オレが今一番注目してるのは君かも。だって、何しててもさ、ふっと頭に浮かんで来るんだよ?」
(わたしも観察対象なんだ……)
母さんから教わった学び
「もし、小さい頃にこのホタルの住処があったら、気に入ってただろうなぁ。」
「本多くんなら、ホタルの研究をしてたかな?」
「うんうん。あっ、そうでもないや。オレ、小さい頃は閉じこもって本ばかり読んでたから。ほら、前に君に見せたでしょ?大理石の中のアンモナイトくん。」
「うん、街の中に化石があってびっくりした。」
「そそ、母さんに『本じゃなくて実際に見て触って学びなさい』って言われてさ。あれからだから、外に出るようになったの。母さんだったら、ここを小さいオレにどう紹介してたかな?」
「きっと、興味を持つように教えてくれたんだろうね。」
「そだ、君だったらどう紹介する?自分の子を外に連れ出すために。」
「えっ?」
「オレが子どもになるから、やってみてよ。」
「そんなこと急に言われても……」
「じゃあ、宿題。今度聞かせて?」
(なんだか、本多くんが駄々っ子みたい……)
妹は、男子が嫌い?
「はぁ……ちょっと君に質問、いい?」
「えっ?うん、どうぞ。」
「君が中学生の頃って、男子と仲悪かった?妹が言うんだよ。男子はガサツだから、嫌いだって……」
「あー……うん、なるほど。」
「ええっ!? そ、そなの!? じゃあ……今は?」
「えぇと、今の本多くんのこと?大丈夫だと思うけど。」
「そっか。じゃあ妹も治る?男子嫌い。今朝も、『お兄ちゃん、勝手に部屋入ってくるな!』って怒鳴られたんだけど……」
「またノックしないで入っちゃったの?それはダメだよ……」
「ふぅ……母さんにも言われた。でもすぐに教えたくてさぁ、メダカの孵化。妹も楽しみにしてたんだよ?男子嫌い、早く治らないかな……」
(本多くんの気持ちも、妹さんの気持ちもわかるかも……)
ホタルの恋愛感情
「ホタルも恋愛するのかな?」
「え?」
「急に思ったんだ。ほら、ホタルが光る理由の1つが求愛行動って言われてるから。でさ、そこにヒトで言う恋愛感情みたいなものはあるのかな?それともただの本能?そもそも昆虫に、ヒトと同じような感情があるのかな?
はは……オレ、ヘンなこと言ってるよね。最近、ずっと考えてるせいだね。オレが君に抱いてる感情が何なのかって。」
「本多くん……」
「君と一緒にいるのは好きなんだ。けど、これは恋愛感情?それともヒトとしての本能?あるいは一種の帰属意識?男女という最小単位のコミュニティに帰属することへの安心感というか……
……や、いったんやめよ。オレの悪いクセ。考えすぎて、おかしな方向に向かってる。
『好き』に理由や論理的な説明を見出そうとするのって不毛なのかもね。」
(本多くん、恋愛のことで悩んでるみたい……)
手を繋ぐと幸せ
「さっきさ、中学生くらいのカップルがいたよね。どこかぎこちない感じだったけど、楽しそうに手を繋いでて。」
「ふふ、初々しいね。」
「うん。ただ、好きな人と手を繋ぐ。こんな簡単な行為で、幸せな気持ちになれるなんてスゴイことだよね。しかもその『好き』は家族や友だちに対するそれとは違って本当に特定の相手だけでさ……
……ね、オレたちも手、繋いでみる?」
「えっ?」
「好きな人と手を繋ぐと幸せになれるんでしょ?だから逆を言えば、手を繋いで幸せな気持ちになれたらその相手は、自分の好きな人ってこと。」
「な、なるほど……」
「だから、試してもいい?」
「う、うん。」
「…………
……あれ?なんだろ。繋ごうとすると、喉の辺りがキュッと絞まってくる……」
「ええっ?」
「えっ、この反応は何?みんな手を繋ぐ時にこうなるの?さっきの中学生たちも体験済み?」
(えーと、まずはこっちの原因究明が先みたい?)
恋愛の悩み
ムリしてない?
「オレ、あんまり気を使われるの好きじゃないんだ。だからハッキリ言わせて?ムリしてオレに付き合ってない?」
「え、どうして?」
「勘違いなら謝るけど、オレよりも仲の良い人、いるよね?違う? オレは君といると楽しいし、充実した時間が過ごせるよ?けどさ、君はどうなの?ムリしてるのなら、それはオレの本意じゃない。」
「本多くん……」
「『目は口ほどにものを言う』って言うけど、まさにその通りだ。あ、べつに責めてるわけじゃないよ。君の思うように、好きなようにすべきだと思うから。
……なんて、ものわかりのいいこと言ってるけど、こう胸のあたりがギュッとね、苦しいな、やっぱり。
でもさ、ここでお別れってワケじゃないんだし、またどこかで逆転、あるかもしれないよね。知ってる?オレ、色々納得するまで、諦め悪いんだ。」
(本多くん……?)
戸惑いの感情
「ね、君は嫉妬ってしたことある?」
「え?」
「オレ、小さい頃、かけっこの速い子をいいなとか思うことはあったけど――今みたいに、誰かの立場や状況をうらやましく思うことって無かったんだよね。だから今、自分の中にできた新しい感情に正直とまどってる。」
「本多くん、誰かに嫉妬してるの?」
「……うん、たぶん。けどさ、困ったことにその人のことも好きなんだよ。」
「複雑なんだ?」
「そそ!すごく複雑! 嫉妬しちゃう相手のことも応援したいし、幸せになってもらいたい。けど、そっちが叶っちゃうと、オレは……」
「本多くん……」
「でも、生まれて初めてなんだよ!こんなに考えてて辛いって思う出来事に出会ったのは。胸のところがギュッてするけど、その原因を探るのもまたオレの楽しみの1つかな?」
(辛いけど、楽しそう……? 本多くんならではの、独特の感性?)
少し遠くに感じる
「……あのさ、こんなこと今ここで聞くことじゃないかもしれないんだけど。オレ、君に何か嫌われるようなことしちゃった?」
「えっ、どうして?」
「オレの思い過ごしや、感覚がズレてるだけならそれでいいんだ。むしろそうであって欲しいんだけど。」
「うん……?」
「オレだけかな?君が少し遠くに感じるのって。」
「あ……」
「思い過ごしじゃなかったみたいだね。」
「えぇと、その……」
「謝らないでよ?むしろオレはスッキリしたよ!不確定な事象に対して対策や解決策を考えたって意味ないけど、君のおかげで状況は掴めたんだ。だからあとはもう動くだけ!」
「動く……?」
「そそ。最終的に導き出したい答えもハッキリしてるからね。オレ、逆算は得意だから!」
(本多くんの導き出したい答えっていったいどんなのなんだろう……)
もしかして、嫌い?
「ね。オレのことどう思ってる? 嫌い?」
「ええっ!? いきなりどうしたの?」
「その反応を見たところ、嫌われてはいないみたいだね。……困った。」
「困った?」
「そそ。嫌われたのならまだ、諦めもつくんだ。」
「あの、本多くん……?」
「でも、オレといるよりも優先したくなるような相手ができた。」
「…………」
「ゴメン。べつに君のこと、責めてるんじゃなくて、事実確認したかっただけなんだ。この状況から判断して、まだ探究の余地はありそうだね。」
「探究……?」
「そそ。ヒトの心の移り変わりの探究。オレのどんな行動が君の心変わりを招いたのか。と、同時に――オレの心がどうしてここまで君に惹かれるのか。自分自身のことなのにわからないことだらけなんて、面白いと思わない?」
(そ、そうかな……)
キラキラした笑顔
「ね、リョウくんのこと、好き?」
「えっ!? ど、どうしてそんなこと聞くの?」
「単刀直入に聞いた方が早いと思って。最近、リョウくんと一緒にいること多いみたいだし。そそ!リョウくん相手の時は、君の笑い方、ちょっと違うよね。」
「そう、なの……?」
「うん。なんかこう、すごくキラキラしてる。確かにさ、リョウくんはカッコいいし、大人っぽいし、君のことだってよく理解してる。君とだってすごくお似合いで――
だー、そうじゃない!いや、そうなんだけど!」
「本多くん……?」
「君のことも、リョウくんのこともすごく好きだよ?けど、オレ、二人のこと応援できそうにない。」
「え?」
「よくわかんないけど、こう胸のところがモヤッとしてチクチクして最後にはズキズキし出す。だからオレ、二人の前で今まで通りいられる自信、ちょっとない。今日は、それを伝えたかったんだ。」
「うん……そっか。」
「うん。でもオレ、ほんとに二人のこと大好きだかんね?ちょっと、今は二人がセットでいられるのがチクチクするだけでさ……」
(ふふ、本多くんの正直な気持ちを聞けて良かったな)
どこがいいか聞かせて
「ね、ミーくんのどんなとこがいいの?」
「えっ!? 急に、どうしたの?」
「個人的な興味。思い立ったら吉日じゃないけど、今なら聞けるかなって。確かにミーくんってイケメンだし、実は話せば話すほど、話題のチョイスもセンスがいいのがわかるし―― そそ。モテる要素は十分にあるんだよね。ただ、本人はそーいう世間一般でウケそうなモテキャラには興味なさそうだけど。
でも、君はそんな表面的な部分を好きになったわけじゃないでしょ?たぶんオレが気づいてない、ミーくんの良いとこに気づいたんだと思う。だから君は……
う……なんか苦しくなってきた。」
「あの……大丈夫?」
「わ……今度はドキドキしてきた!」
「ええ?」
「やっぱり君って最高!こんなにも心と頭が忙しなく動くの、君といる時だけだよ。だから、うん。ミーくんに黙って譲るなんてできそうにないなぁ……」
(本多くんがそんな風に思ってたなんて……)
恋愛のカタチはバラバラ
「恋愛のカタチっていろいろあるよね。」
「ふふ、急にどうしたの?」
「ほら、ここに来るまでにもたくさん、色んなカップルが公園や街にいたでしょ?けどそのカタチはみんなバラバラ。年の差、人種、育った環境……人の数だけ違いがある。」
「うん、そうだね。」
「でも、1つだけ共通点があったんだ。わかる?」
「え……なんだろう?」
「みんなね、幸せそうだったんだ。相手を幸せそうな表情にするにはプレゼントしたり、ごちそうしたり、相手を褒めたり……いろんな方法があると思うんだけど、オレは君の幸せな表情を引き出せてるかな?」
「え……」
「わかってる!突然、変なこと言ってるのはわかってる!つまんないのにオレの話に付き合わせちゃってるんなら、言ってくれていいから。
そそ!例えばホタルの生態についてがつまんなかったらさ、クワガタの越冬方法の話でも――
待って、今のもナシ。今、妹に怒られる予感がした。」
(ふふ!本多くんの話、楽しいけどな……)
話題がズレてる?
「あのさ、ちょっと質問していい?」
「うん、いいよ?」
「この前、君と一緒に歩いてるとこ、クラスメイトに見られたらしいんだよね。でね、いろいろ訊かれたから、君と話した内容とか説明したんだけど、返ってくるのが微妙な反応なんだ。」
「どんな説明をしたの?」
「確か水族館に行った帰りにウナギの生態について話したこととか、イワシの集団行動について――あ。やっぱ、そこから海面水温の上昇について話を展開したことまで伝える必要はなかったかな?やっぱ環境問題より、生態についての方が興味をひけたかな?」
「うーん……たぶん、求められてたのはそういう話じゃないと思う。」
「ええ!? じゃあ、みんなは何を聞きたがってたの?」
「えぇと、たとえば……手をつないだとか、その、いい雰囲気だとか……」
「他人のそんな話を聞いて楽しいもの? そっか、そーいうもんなんだ。でもそれって、わざわざ人に言う話なのかな?」
(う……正論な気がする)
友人
「蛍手」とは
「ホタルで思い出したんだけど、『蛍手』って知ってる?」
「ほたるで……?」
「そそ。透かし彫りを施した磁器のことでね、光の加減で、文様が透き通ってみえるんだ。それがホタルの光に似てることから、蛍手。この前、リョウくんちで現物を見せてもらったんだけど、ホント綺麗だったんだ。」
「本多くんって、焼き物にも詳しいんだ?」
「まさか!美術品や骨董品なら、リョウくんには絶対に敵わないよ。あの日はミーくんも一緒だったんだけどさ、オレ、リョウくんに質問攻めしちゃってさ。けど、二人とも最後まで付き合ってくれたんだ。ミーくんはミーくんでファッションセンスや、自己プロデュース力が抜群にあるからね。流行のものをただ追うんじゃなくて、そこにアレンジを加えて、独自のものを創り出すんだよ。あれはオレには絶対マネできない。」
「ふふ、みんなお互いに尊敬し合ってるんだね?」
「オレが一方的に刺激を受けてるだけだよ。そーいう意味では、二人と出会えてホントに良かったよ!」
(ふふ、風真くんと七ツ森くんも同じことを言うんじゃないかな?)
ふたりは怒るかも
「ここに来ること、リョウくんとミーくんにも伝えとけば良かったかな。二人とも表立って文句を言ったりはしないと思うけど……やー、リョウくんは怒るかなー。『なんで誘わねえんだよ』とか言って。」
「そうかな……?」
「そそ。いつも女の子に囲まれてカッコいい感じだけど、男同士の時はちょっと無愛想になって面白いんだよ。ミーくんもあんまり表情には出さないけど、きっと後でメールが来るね。『なんで教えなかった?』とかぶっきらぼうな感じでさ。もー、めんどくさいなー。」
「そんな風には見えないよ?楽しそう。」
「そそ。君とは別の意味で楽しい。反応見てると、やっぱあの二人は個性的だし。表面的な部分しか見てない人には、絶対わかんないだろうけど。交わした言葉以上にオレも二人から影響を受けてると思うから。」
(これが男同士の友情……なのかな?なんだか素敵だな)
微妙な空気
「いっつも君のまわりって、にぎやかだよね。オレの入り込む余地なさそう。」
「どうして?全然大丈夫だと思うけど。」
「前にそれやったことがあったけど、その時の空気、今でも覚えてるよ。嫌がられるわけでもなく、かと言って楽しげに受け入れられてるわけでもなく……みたいな?」
「そんなことあった……?」
「なんでこんな空気なのかわからずにオレはその後もずっと……たしか、気象観測の歴史について話したかな。」
「あ!最近、天気悪いねって話をしてた時?」
「そそ!普通、天気の話題から気象観測まで話飛ばないって、後で苦笑されたよ。だからしばらくは自重!君相手の時以外は封印する!」
(封印なんてできるのかな……本多くんには少し難しそう?)
声をかけられないほど人気
「この前、休み時間に廊下で君を見かけたから声をかけようとしたんだ。そしたら、その直前で他の誰かに呼ばれたみたいで、すぐいなくなっちゃったんだ、君。」
「そんなことあったんだ?」
「そう。それが連続で5回も。」
「えっ、そんなに!?」
「単にオレの間が悪いのか、それとも君が人気者過ぎるのか……」
「そんなこと……」
「でもきっとオレみたいに君に声をかけたいと思ってる人が他にもいるってことでしょ?むー、ライバルが多いなー。」
(ライバルなんだ……)
女の子に囲まれたときは
「この前、リョウくんから『本多に憧れるけど、俺は本多にはなれない』って言われたんだ。」
「え、どういうこと?」
「そのまんまの意味じゃないの?でも当たり前過ぎてリョウくんらしくないよね。オレだってリョウくんのことすごいって思うし、リョウくんになってみたいって思うことあるけど。なれないことくらいわかるよ?」
「別の意味で言ってるんじゃないかな?どんな状況で言われたの?」
「えーとね、たしかリョウくんが女の子に囲まれてた時だね。助けてって目で合図されたから、話題がないんだと思ってゴミムシダマシの話を振ったんだ。」
「ゴミムシ……え?」
「ゴミムシダマシだよ。甲虫の一種なんだけど、砂漠の厳しい環境で生き残るために何か月も絶食可能なんだ。」
「その話題を、女の子たちにも振ったの?」
「そそ!そしたらみーんないなくなっちゃってさ。そこで例の一言を言われたってワケ。」
(風真くんの言いたかったこと、理解できちゃったかも……)
理不尽な校則
「はば学って、基本的には自由な校風だけど、理不尽な校則がまだあると思うんだ。」
「たとえば?」
「制服や頭髪の規定とか。『高校生らしい』っていうけど、基準が曖昧すぎない?この前なんか、制服の襟元はしっかりボタンをしめろって注意されちゃったよ。オレ、暑いし動きにくいから開けてただけなんだけど。」
「気持ちはわかるけどね……」
「で、あんまり何度も注意されるからさ、つい生活指導の先生に反論しちゃったんだ。」
「本多くんが?」
「そそ。オレ、納得できるまで引けないところあるからさ。そしたら、先生もオレの意見に納得してくれて、その場は見逃してくれた。」
「えっ、すごい!」
「でも残念ながら、あの時限りだってさ。『先生にも立場があるんだ、理解してくれ』ってお願いされちゃったからね。」
(逆に先生からお願いされちゃったんだ……本多くんならではの展開かも?)
お楽しみ
髪色と髪質の変化
「そろそろ髪色変えようと思ってるんだ。脱色後の髪質変化については、調べつくしたし。」
「地毛の色に戻すってこと?」
「んー、別の色かな?妹がまたやってみたい色があるみたいだから、オレが代わりに。」
「でも、やりすぎると先生に目を付けられそう……」
「つけられるだろうね。けど、校則には『高校生に相応しい姿形・服装』としか書かれてない。髪を染めたり、ピアスをしたらいけない、とは書いてないよ?ただ、問題が1つ。また色を変えるとなると、かなり髪が痛むんだ。ここだけの話。うちの父親、抜け毛に悩んでてさ、そーいうの遺伝だったら、オレ、将来……」
「…………」
「今、想像したでしょ?絶対にした!」
「えっ、してない!してないよ!」
「ハァ~、もう髪色いじるのは止めてオレも父親と一緒に髪にいいもの、食べるようにしようかな……」
(本多くん、そんなに心配しなくていいと思うけどな……)
サイアクな夢
「ね、今朝、サイアクな夢を見たんだけど、聞いてくれる?誰かに話さないと気が晴れない。」
「う、うん。どんな夢だったの?」
「夢の中でオレは海で泳いでたんだけど、突然、波に飲まれたんだ。もがけばもがくほど口の中に海水が入ってきて、息ができなくてついに目の前が真っ暗になったんだ。」
「え……それで?」
「息苦しくて目が覚めたよ。けど、それなのにまだ目の前は真っ暗なんだ。怖くなって飛び起きてからわかったよ。寝てる間に、オレの顔の上に何冊も本が折り重なってたんだ。」
「つまり、息苦しかったのは顔の上の本のせいだったってこと?」
「そそ。枕元に積ん読タワーをいくつも並べとくのは危ないってこと、身をもって知ったよ。」
「そうだね……きちんと整理してね?」
「そうだね、気をつける。あんな苦しい夢はもうこりごり。」
ピアスを開けるなら
「最近、もう1つくらいピアス開けるのもいいかなって思ってるんだ。」
「今は耳だけだったよね?」
「ピポピポーン!そ、耳だけ。でもこの前、偶然、海外のサイトで全身にピアス開けてるヒトを見てさー。」
「えっ、全身……?」
「そんな怖がらなくていいよ。オレもさすがに全身は考えてない。でも、ヘソとか……あ、舌なんかも良さそうだよね。食事する時、どんな感覚なのか気になる!」
「もしかして……ファッションというより、好奇心?」
「そそ!1つ開けたら、2つ、3つって面白くなっていきそう。」
「う、うん……」
「あーそっか、ゴメン、安心して。君にそんな表情させてまで開けようとは思わないよ。」
「え、でも――」
「いいの。誰かを、特に君を不快にさせてまで自分の好奇心を満たすつもりはないから。はい、この話はオシマイ!」
(本多くん……)
手作りラーメンスープ
「ずっと試作をしてきたラーメンスープがさ、ついに会心のデキになったんだ。」
「えっ!もしかしてスープから手作り……?」
「そそ!基本は鶏ガラスープ、あとは醤油や味噌を味に合わせてアレンジするんだ。あっさり目の気分の時は野菜や魚介のスープと合わせて、濃厚なのが食べたい時は背脂加えたり。合わせると言っても、配合によって味もぜんぜん変わるから、試行錯誤でね、相当なデータを取ったよ。」
「まるで、本職のラーメン屋さんみたいだね?」
「本職には遠く及ばないなー。謙遜じゃなくて、これは事実。だってさ、趣味の範囲だから採算度外視でできるんだよ。もし、商売でこんなにこだわってたら開店前に倒産してるね。」
(採算度外視で作ったラーメン、ちょっと気になるかも……)