ホタルの住処 風真玲太

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恋愛

風真くんが見る主人公の夢

「すごいな……なんか、夢みたいだ……
 ……俺さ、よくおまえの夢見んだ、昔から。」

「え?」

「花がたくさん咲いてる庭で、おまえが知らないやつらと遊んでる夢。俺はおまえの方に走っていくけど、全然近づけない。イギリスの頃からずっと同じ夢。」

「楽しい夢じゃない?」

「そうでもない。俺は夢でも、おまえに会えるだけで嬉しかったからさ。」

「風真くん……」

「こっち帰ってきてからも、同じ夢見る。でもさ、ちゃんと俺も庭に入れるんだ。昔は近づけもしなかったのにさ。」

「そっか。」

「……でも、なぜか二人とも、小さい小学生の頃のままなんだよな。」

「ふふっ。」

(風真くん、わたしの夢を見るんだ……)

 

主人公はどんなにおい?

「……ここ、ホタルの住処だよな?なんか、バラの香りしないか?」

「うーん……?」

「だよな……おまえは、バラの香りってキャラじゃないし。」

「もう。」

「『もう』って言われたって、俺の中では、おまえの匂いはずーっと焼きたてのクッキーなんだ。」

「クッキー……?」

「嫌なのかよ?おまえ、小さい頃はクッキーみたいな匂いしててさ、俺は好きだったんだぜ。だから……イギリスでも、よくクッキー焼いてもらってた……かっこ悪いけど、本当の話。」

「風真くん……」

「そしたらいつの間にかさ、焼き菓子全般が好きになってた。根っからのスイーツ好き、ってわけじゃねえの。おまえの記憶がそうさせたんだ。」

「じゃあこれからは、たくさんクッキー作るね。」

「頼むな。……あれ?バラの匂いしなくなった。」

(風真くんのお菓子好きの理由がわたしだったなんて……なんか、恥ずかしいな)

 

気になる求愛行動

「すごい数だな、ホタル。」

「仲間がたくさんいて、楽しそうだね。」

「いいや、そんなぬるい感じじゃない。子孫を残すための必死の求愛行動だからな。勝者と敗者がきっぱり分かれんの。他人事じゃない……」

「え?」

「いいか?ほら、あのすごいスピードで飛んでるデカイのが、颯砂ボタル。それと……こいつだ!この微妙な距離感で俺たちの周りを飛んでる、イノリボタル。」

「ふふっ。じゃあ風真くんホタルは?」

「俺? 俺はいんだろ、ここに。 悪いけど、この勝負だけは負けるわけにはいかねぇんだ。……ま、ここにおまえと二人でいるっていうことはさ……な? 優勢ってことだろ?」

「え?」

「出たよ……おまえがホタルだったら、どんだけ光っても気付かなそう…… いいか?俺はホタルになってもおまえんところに一番にたどり着く。絶対、誰にも負けないから。」

(なんだろう、ドキドキしてきた……)

 

ここでは、よりかわいく

「ここに来るとさ おまえ、かわいく見える。いや、違うんだ。昔っから、いつもかわいいんだけど―― って、俺何言ってんだ……」

「えっと……恥ずかしいよ。」

「ったく、もうやけだ。いいか?最近、颯砂やイノリもおまえと仲良いみたいだけどさ。俺はずーっと前に、おまえを見つけた。早い者勝ちとかって言ってんじゃねぇぞ?ただ、先に相手を見つけた方が優位ってこと。ホタルだって一緒だろ?だから、俺は全っ然余裕。」

「どうしたの、風真くん?」

「わかんねぇ……どうしたんだ、俺。 はぁ……ここって、なんかヤバイ場所だな。」

(もしかして……今のは風真くんの心の声?)

 

風真くんたちのカラー

「……なあ。ホタルって、こんなにカラフルだったか?」

「ホタルも人と同じで色々なんだね。」

「だな。最近、俺たちの周りにも個性的なカラーのやつがいるよな?本多も七ツ森も、ホタルだったらレインボーカラーで光ってそう。」

「ふふっ。風真くんは?」

「俺は、オレンジ。ほら、俺たちにとっては特別な色だろ?覚えてるか?」

「うん。」

「俺がホタルなら、ピンポイントでおまえのところに飛んでく。あいつらみたいに、派手な色は必要ない。俺とおまえの間には、誰も入れないからな。この優勢は崩れない、永遠にな。」

(風真くん、本多くんと七ツ森くんのこと気にしてるのかな?)

 

仲間たちの祝福

「なんかさ、俺たちのこと祝福してくれてるみたいじゃね?ホタル。」

「うん、風真くんの周りにたくさん。」

「おまえの周りにもな。あいつらもそんな感じなのかな?……七ツ森と本多。」

「え?」

「男同士だとさ、なかなかそういう話しねぇけど……ただ言わないだけで、気を使ってくれてるんだと思う。七ツ森は何かっていうとさ、流行りのデートスポット紹介してくれる。本多はよくわかんないけど、アイツなりの真理でヒントくれたりするんだ。」

「男の子の友情っていいな。」

「友情か……そういうもんかな?ちょっと違う感じするけどな。結構、微妙なバランスっていうか。」

「バランス?」

「出たよ。いいか?そのバランスは、おまえのさじ加減次第だかんな?わかってんのか?」

「えっ、わたし?」

「頼むぜ、今の均衡を壊すなよ。……まあ、もしバランス崩れても、俺はすぐにおまえの隣に戻るけどさ。」

(風真くん、何のこと言ってるのかな?)

 

いけないデート?

「……あのさ、俺たち二人で結構出かけてるよな?」

「そうだね。もう何回くらいだろう。」

「そう、そこな。俺も覚えてない。」

「ふふっ。」

「でもさ、それがいけないってことに今、気付いた。」

「え?」

「普通のデートしかできてない、ってことだろ?俺が悪かった。こんなんじゃさ、昔の俺に怒られる。」

「風真くん?」

「とにかく、次からは覚悟しとけよ。」

(どうしたんだろう、風真くん?)

 

特別な場所

「この景色……すごいよな。街に近い場所なのにさ、色んな景色が重なってるんだろうな。特別な場所だよ。」

「そうだね。」

「俺たちだって同じだぜ?すごい奇跡が重なって、ここにいる。」

「ふふ、うん。」

「……なあ、ちゃんとさ、スペシャルな場所に相応しい二人になってるかな、俺たち。」

「風真くんは特別だよ?」

「出た。どうせ幼馴染とかクラスメート、とか言い出すんだろ?それは奇跡だけど、偶然でもある。でもさ、その先は待ってるだけじゃダメだ。自分で取りにいかないと、だろ?」

「えっと……?」

「次は、おまえにとっての『特別』をちゃんと勝ち取ってから来る。たぶんな?ほら、宣言すんのは俺の自由だし。」

(なんか、すごいこと聞いちゃったかも)

 

まるで観覧車のように

「ホタルって、こんなにカラフルだったか?いろんな色の光が浮いて、ほら、ゆっくり回転してるみたいだ……」

「うん、観覧車みたい。」

「だな。……そういえばさ、あの時ほら、『はばたきランドタウン』の観覧車。」

「あ……うん。風真くん、わたしのおでこに…… みんなに見られて、恥ずかしかったな。」

「おでこにキスなんて、イギリスじゃ挨拶以下なんだけどな。まあ確かに、ちょっとギャラリー多すぎたけどな。」

「うん……」

「あの時はさ、ガキみたいに色々と計画してたんだ。
 ここなら、もっとスマートにいける。」

「えっ!」

   チュッ

「な? ここにもギャラリー、いたな。」

(びっくりした……風真くん、今日はどうしたのかな)

 

空白を取り戻す時間

「夕涼み。こういう雰囲気って、イギリスじゃ味わえない。こっち帰ってきて、どのシーズンも懐かしくて、でも、新しくてさ。やっぱりいいよな。」

「うん!二人でどこ行っても楽しいよ。」

「ああ、俺たちのぽっかり空いちまった10年をすごい勢いで取り戻してる感じ。」

「でも、風真くんのイギリスでの生活も知りたいな。」

「うーん、なんか俺にとっては、モノクロのイメージ。もちろん楽しいこともあったけどさ。なにより、おまえだよ。今は当たり前みたいに、ここにいるけどさ。」

「うん。急に風真くんがいなくなっちゃって、わたしもその後のこと、よく覚えてないんだ。」

「ふうん。じゃあここがSFの世界だったら、俺がイギリスに行かない世界線を二人で探したりするんだろうな?」

「ふふっ。」

「でも、俺は全然ブランクを感じてない。おまえとこうしてるのがさ、しっくりきてんだ。不思議なくらい。…………いや、1つだけあった。プール……」

「プール……?あ、かわいい浮き輪のこと?」

「それ、なんで覚えてんだよ!? ……ったく、あんときは帰ってから、ひとり反省会したんだぜ。向こうじゃさ、プールっていうか水泳自体やる機会ないし、勝手がわかんなくてさ。」

「ふふっ。でも風真くん、すごくかわいかったよ?」

「おい、もういいって。俺はおまえにかわいいとか思われても嬉しくないの。はぁー、あの日の浮き輪を借りなかった世界線に行きたいよ……」

(浮き輪で浮いてる風真くん……もう一回見たいかも)

 

気の合うふたり

「今日はいつも以上に気が合ったっていうかさ、もう偶然の域を超えてんな、俺たち。」

「ふふっ、服のことだよね?」

「ああ、まさか同じブランドの、同じデザインだなんてな。傍から見たら、どう見えんのかな?」

「……仲良しカップル、とか?」

「だ、な。俺は、周りにどう思われたっていいんだ。ていうかさ、むしろ他人の入り込む隙が無いって感じで気持ちいい。」

「でも、ちょっと恥ずかしいかも。」

「そうか?おまえの気が乗らないなら仕方ないけどさ…… たまたま被るから、恥ずかしいんだろ?いつも一緒なら、いいんじゃね?」

「え? いつもって。」

「待てよ。制服はペアみたいなもんだし、デートくらいは違う方がいいな。どんな服着てくるかって楽しみも重要だしな……スキーウェアとか?水着? いや、水着のペアルックってやばいな……」

(全部聞こえているよ、風真くん……まさかこれが心の声?)

 

もしもホタルだったら

「圧倒されるな、この数……」

「うん、すごいね。」

「でも、10ヵ月も水中や土の中で成虫になるの待ってたんだもんな。ホタルに感情移入してるよ、俺。」

「風真くんがホタルなら、すごく綺麗に光ってそうだね?」

「なにぃ?おまえがホタルだったら――って、そうか。成虫はエサ食べないんだったな。」

「もう、そんなに食いしん坊じゃないのに。」

「ははっ。じゃあ、メスなのに飛び回ってる感じかな?……こっちが見つけにくいから、ちょっとは、じっとしとけって。」

「ふふっ。もう、なんで怒ってるの?」

「わりぃ、そうだな。……ん?つーかさ、なんかさっきから、目の前ウロチョロしてるのがいるよな?」

「わっ! 頭に止まった!?」

「なにぃ?ちょっと待ってろ。――ったく、どけって。 やっと飛んでったよ。」

「はぁ、びっくりした。」

「はぁ……思い出しちまった。今朝、おまえにちょっかい出してきたヤツいたろ?」

「あ、うん。」

「あいつら、今度おまえに近寄ったら―― しつけぇんだよ!二度とこいつに近づくな!」

(風真くん、今のはホタルだよ?)

 

耳を澄ませてみると……

「ナイトパレードとかも良いけど、ここもすごいよな。」

「うん、こっちは静かだけど。」

「だな。あっちは音もすごいもんな。静かなナイトパレードか……うん、いいじゃん。」

「そうだね。」

「しーっ。ちょっと耳、すませてみろ。」

「え、うん。…………」

「…………な?」

「え?」

「俺には聞こえたぜ。」

「心の声?」

「違う。ホタルたちの声。みんなさ、大声で好きなやつの名前呼びながら、光って飛んでんの。実際は全然静かじゃない。必死だよ、みんな。」

「そっか。パートナー探しだもんね。」

「ああ、相手に気に入ってもらえるように、光ったり飛んだり。俺も一緒。おまえの喜ぶ顔だけ考えて、誕生日プレゼント選んだり?」

「うん、うれしかったな。いつもありがとう。」

「それだ、おまえのその顔。俺はホタルと違ってさ、毎年その顔見られるんだ。それだけで “感謝” だ。あー、早くまたおまえの誕生日来ねぇかな?」

(それじゃ、すぐに年取っちゃうよ……)

 

ひとりだと長く感じる

「ここってさ、時間がゆっくり流れてるような、不思議な感覚ないか?」

「うん、わかるかも。」

「俺さ、小1でイギリスに行って、おまえがいなくなった後、毎日がひどく長く感じたんだ。」

「風真くん……」

「ただ、すぐ慣れた。小学校時代は麻痺してたって思ってる。子どもって、自然とそうやって自分を守るんだな。……でも、中学生になると、ほら思春期っていうか、そういう年頃だろ?」

「ふふっ、うん。」

「俺はまた、一日が長く感じるようになって、こっちに帰る計画を立て始めた。」

「風真くんはすごいな……そうやって自分で考えたことを実行できるんだもん。」

「ん?……なんか他人事っぽく聞こえたな、今の。まあ、いい。でさ、こっち帰ってきてからは、これがまた早いんだ、一日が。時間止めたいくらい。」

「楽しい時間は早いって言うよね?」

「はいはい。ほんとおかげさまで。あ、一回だけ、本当に時間止まったよな?教室のカーテンの中でさ。」

「あ、うん。あの時、風真くん……」

「ああ、ギリギリで思いとどまった。教室はまずいだろ?でもさ、今度そんなチャンスがあれば、どこでも実行するぜ?」

「ええっ!?」

「おまえも、気張っとけよ。」

(本気……じゃないよね?)

 

驚いた顔が好き

「もしさ、おまえが噂も何も知らないで、ここに初めて来たら、どんな反応すんのかな?」

「うーん。すごくびっくりして、言葉が出ないかも。」

「だよな、見てみたかったな。おまえの驚くところ。ま、今も結構な顔してるけど。」

「もう。」

「怒んなって。俺はおまえが驚いてる顔、好きなんだ。だから、いつもおまえが驚いてくれること、考えてる。」

「そうなの?でも、あまりびっくりするのは困るよ。」

「怖がらせたいわけじゃないからな。そうだな……もし今が冬ならさ、ポケットから、ポンと焼き芋を出したり。」

「あ、キャンプの時も焼き芋くれたもんね?」

「だな。おまえ、いいリアクションだったし、美味そうに食べてた。キャンプで焼き芋は連想できるけど、もっとびっくりさせたいな……急にいなくなったり、急に帰ってきたり、同じ学校の同じクラスになったり?」

「ふふっ、もう全部起こったサプライズだよ。」

「だな。これを超えるサプライズと言ったら……」

「え、なになに?」

「言ったら、サプライズになんねぇよ。ま、楽しみに待ってろよ。」

(楽しみだけど……ドキドキするなぁ)

 

ファッションセンス

「なぁ、ホタルってこんなに色彩豊かだったか?」

「うん、みんなちょっとずつ違うみたい。」

「個性があるんだな。求愛って目的考えると、ファッションセンスでも競ってるのか。ホタルも、好みの光とかそれぞれ違うんだろうな。」

「ふふっ、人間みたいだね。」

「俺は自然な色がいい。おまえには、派手な色とか必要ないからな。なんなら白い服。おまえの色だけで十分だからさ。そう、無色透明でいいんだ……」

「透明の服は無理だよ……?」

「えっ! ば、ばか、透けてるってことじゃなくて、着飾る必要ないってことだろ!」

「薄着ってこと?」

「ん? いや、待て。薄着とか、露出とかってことじゃない。いいか、言い直す。おまえの邪魔にならない、自然な色や形がいいってこと。あぶねぇ……やっぱりここ、妙なこと言っちまう。……まさか、これが俺の本心……!?」

(風真くんのファッションの好み、難しいかも……)

 

どこでも楽しい

「こんな景色見ちゃうとさ、次、どこのデートスポット行けばいいか困るよな……まあ、おまえは昔っからどこに連れて行っても、本気で楽しんでくれるんだけどさ。」

「風真くんが連れて行ってくれるところは、どこでも楽しいよ。」

「俺も一緒。おまえだから、安心して好きなこと言えるし自分勝手に連れ出したりできるんだ。なんかさ……スポットとか関係ないのかもな。どうせ俺、おまえしか見てないし、おまえの声しか聞いてねえから。」

「ちゃんと、周り見てないと危ないよ?」

「言ったな?」

「ふふっ。」

「とはいえ、サプライズも必要だからな。」

「えっ、サプライズ?」

「ああ、いつか。約束な。」

(風真くんのサプライズってなんだろう?すごく楽しみ!)

 

恋愛の悩み

なんで俺じゃない

「あのさ、俺とこうしてるってことは、可能性アリってことでいいんだよな?」

「え?」

「意識しないようにって思ってたけど……無理だ。なんかしゃくに障んだよ。アイツ。 なんで俺じゃないんだよ。」

「風真くん?」

「……なんてな。でも、本気だぜ、俺。」

(今日の風真くん、いつもと違うかも……)

 

10年待ったから

「綺麗だけどさ…… パートナーを見つけるために、必死に光ってるんだぜ。」

「そっか。」

「10ヵ月も待って、やっと成虫になってさ…… 俺も、10年待った。だからさ、フェードアウトみたいな諦め方はしねぇ。」

「風真くん、どうしたの?」

「なんでこんな事言い出したのか、俺もわかんねぇ。ホタルたち見てたら、我慢できなくなった。 いいか、おまえが俺じゃないやつ選ぶのは仕方ない。でもな、俺にも小1から中3までの俺に対する責任があんだ。」

「風真くん……」

「わりぃな。このままじゃ、昔の俺が納得してくれないんだ。」

(今日の風真くん、いつもと違う。どうしたんだろう……)

 

気持ちが知りたい

「ここに来るのって、結構勇気いるよな?」

「え?」

「『え?』じゃ、ねぇんだよ。おまえのこと言ってんの。俺はおまえだけを見てる、でも、おまえの近くにはさ、俺じゃないのがいたりー?」

「えぇと……」

「……わりぃ。でもさ、俺は少しでもおまえの気持ち知りたい。ま、そんなんで、こんなとこ連れてくんのかもしれない。」

「ここ、綺麗で好きだよ?」

「昔から知ってる。綺麗なものが好きで、楽しいことをいつも探してる。ハァ。おまえのそういう気持ちを利用して連れてくるなんて、卑怯だな俺は。」

「そんなことないよ。」

「俺、誰よりもおまえのこと知ってんだ。心の声とか、妙なもんにすがる必要なんてないのにな。」

「風真くん?」

「若干、劣勢くらいが丁度いいハンデだ。な?」

(風真くん、何か悩んでるみたい……)

 

何回でも見たい景色

「この景色、二人であと何回見られるかな?」

「何回でも見たい景色だよね。」

「お、言ったな?俺はいつだっていいんだぜ。おまえの方は、忙しそうだけどな?」

「え、そんなことないと思うけど……」

「じゃあ、決まりだ。ホタルのシーズンはずっとおまえとここに来る。他のやつと来る隙、ねぇからな。」

「えっ?」

「ハァ……俺、こんなこと言いたいわけじゃねぇんだ。わりぃな。いやな思いさせた。」

「風真くん……」

「いつ誰と何してようがいいんだ。ここにだって、来たいやつと来い。でもな、俺は何も変わってないからな。昔も、今も、明日からも。 おまえの気持ちが、もしも変わってもだ……」

(風真くん、なんだか少しつらそう……?)

 

今が勝負のとき

「今が勝負の時って感じだな。」

「綺麗な景色にしか見えないけど、ホタルはがんばってるんだね?」

「……ったく、おまえはお気楽だな?待てよ、ホタルもメスはそんな感じか?よく知らないけど。とにかく、俺たちは真剣勝負してんだ。」

(風真くん、ホタルになりきってる?)

「おまえは、規格外にでっかくて、すげぇ速さで飛んでるのが好きなのか?」

「えぇと……ホタルのこと?」

「そう。あくまでもホタルの話だ。もしおまえの好みがそうなら、俺には勝ち目はない。それに、あいつにはわかりやすくて立派な目標がある。俺にはそんなのないから。だから、あいつと同じ土俵では勝負になんねぇのわかってる。俺が陸上したって、勝ち目はねぇだろ。」

「あの……風真くん。どうしたの?」

「どうもしねぇ。独り言。でもな、フェアじゃないかもしれないけどさ、俺は10年前にスタート切ってんだ。いくらあいつでも、絶対に追いつけない。おまえと一緒に積み重ねた時間と想い、追いつかれてたまるかよ。いいか、ゴールには先に俺が着く。」

(風真くん、颯砂くんのこと言ってるよね……?)

 

違った、あたりまえ

「綺麗だけどさ、やっぱりここ来ると、余計なこと考える。」

「余計なこと?」

「ああ、なんだろうな。自分が客観的に見えるっていうかさ……不思議な場所だな。俺さ、いつもお前の近くにいるのが、当たり前だと思ってた。……でも、違うんだな。」

「風真くん?」

「わかるから、おまえのことは。俺があたりまえと思ってたことを、いっこ下の後輩がひっくり返してた。」

「え?」

「同級生のやつらとかじゃなくて、あいつってところがさ、俺の勘違いを気づかせてくれた。俺の中では、おまえと積み重ねた時間は誰にも負けない。それだけは、絶対だった。でも、あいつは一年でそれを飛び越えた。」

「風真くん……」

「ま、今はあいつに遅れとってるかもしれないけどさ、まだ時間はある。今日、付き合ってくれたおかげで、俺が強みだと思ってたことが、逆に働いてたってわかったよ。だから俺も、おまえとの『これから』で、勝負する。ぽっと出の後輩に、負けてたまるかっての。な?」

(風真くん、氷室くんのこと言ってるよね……?)

 

疑問を解決する能力

「すごい光の数だな。」

「うん、何匹いるのかな?」

「どうだろう?すごい数なんだろうけどさ。」

「ちゃんと全員、パートナーを見つけられるといいね。」

「全員は無理なんじゃね?俺には、わからないけどさ。…………」

「風真くん?」

「そういうおまえの疑問にさ、あいつならちゃんと答えんだろうな。」

「え?」

「本多なら、おまえの好奇心にしっかり答えるんだろうなって。俺にはとてもマネできない。」

「誰も本多くんのマネはできないと思うよ。」

「…… ああ、そうだな。あいつは特別だもんな。」

「風真くん、どうしたの?」

「恥の上塗りしたいわけじゃねぇんだ。たださ、俺はあいつみたいな知識量はないし、面白くも話せない。それに、これからクイズ王を目指すつもりもない。」

「うん……?」

「今は劣勢かもしれねぇけど、どうにかする。俺には引けない理由があんだ。」

(風真くん、本多くんのこと、そんな風に考えてたんだ……)

 

それとこれとは話が別

「この無数の光の中でさ、自分のパートナーに出会うのって奇跡だな。」

「うん。」

「俺とおまえも同じ。奇跡と偶然と、色々そろって、こうして二人でいる。」

「そうだね。」

「……ったく、『そうだね』じゃねぇんだよ。いいか?責めてんじゃないから、勘違いすんなよ?」

「う、うん?」

「いつの間にか、あいつがおまえの近くにいるだろ…… 七ツ森が、いいやつなのはわかるよ。」

「風真くん……」

「あいつといるとなんか気使わないでいられるし、ズケズケこないから。」

「うん。風真くん、七ツ森くんと仲いいよね。」

「はぁ?出たな。本当にそう見えてんのかよ…… あいつに対して思ってることはさっき言った通り、嘘はねぇよ。でもな、おまえが絡んだら話は別。あいつみたいにはできないけど、俺はこれまで通りに気持ちを貫くよ。」

「風真くん……」

「はぁ……なんか余計なことばっか言ってるな、俺。」

(風真くん、七ツ森くんのこと、そんな風に思ってたんだ……)

 

どんな見た目がいい?

「優雅に飛んでるのとか、せわしないのとか、いろいろだな、ホタルも。」

「うん、光り方も色もちょっと違うね。」

「おまえだったら、どんなのがいいんだ?」

「ホタルのこと?」

「そんなわけねぇだろ。あるだろ?ほら……好みのファッションとか? 俺は何を言ってるんだ……」

「男子のファッション?」

「そうだよ。参考にしてもいいかなって、あくまで参考。スポーティとか?ワイルドとか?」

「うーん、いつもの風真くんのファッションがいいな。」

「よっし、100点回答だ!」

「ふふっ、風真くん、エプロン姿すごく似合ってるもんね。」

「おい、そっちかよ!? シモンの制服だろ、それ。ま、おまえらしくていいや。覚悟しとけよ?これから、デートの度に色んな色のエプロンしてくるからな。」

(カラフルな風真くん、ちょっとホタルみたいかも……?)

 

人を引きつける力

「ホタルも人と同じで、人気のあるやつの周りにはたくさん集まるのかな?」

「うん、そうかもね。」

「なに、他人事みたいに言ってるんだ。おまえのこと言ってんの。」

「え?」

「もうちょっとさ、自覚持てって。どんだけ吸引力強いのかわかってんのか?こっちの身にもなれっての……」

「風真くんの方こそ、学校やシモンで、色んな女の子が集まってきてるよ?」

「へぇ、そういう見方できるんだな。ちょっと、安心した。」

「もう。」

「わりぃ。でも俺のはちょっと違うぜ。仕事でお客さんから評価されるのは嬉しい。けど、学校のはさ、俺の生まれとか家とかそういう興味からだろ?迷惑だよ。」

「そんなことないと思うよ。」

「学校で評価してほしいのは、おまえだけ。他は興味ない。……でも、おまえは全然違う。みんなに無条件で好かれてる。生まれとか家とか関係ない。」

「そんなこと……でもありがとう。」

「はぁ、俺の心配は尽きそうにないな。」

「風真くんは、男子からも女子からも好かれているし、ご年配からも人気だし、本当にすごいよ。」

「絶妙にずれてるけど、ありがとな。」

(風真くん、自分の人気知らないのかな……?)

 

友人

これは抜け駆け?

「俺たちがここに来たこと、あいつら知ったら、どうなるかな?」

「颯砂くんと氷室くん?」

「そう。颯砂は抜け駆けすんなとか、つまんねぇこと言いそう。」

「ふふっ。」

「アイツさ、もし今知ったら、家から走って来そうじゃね?……想像したら、けっこう怖いな。」

「うーん。どうだろう?」

「イノリは……『ホタルは死者の魂って言いますね』とか言って水差してくるパターンかな。そのくせさ、どんな話したとか、聞き出そうとしてくるタイプな、アイツは。」

「ふふっ、風真くんは二人のことよくわかってるんだね。」

「まぁな。実はさ、俺、嫌いじゃないんだ。あいつらのこと。」

(ふふっ、知ってるよ。風真くんが二人を好きだってこと)

 

貴重なふたりきりの時間

「最近、あいつらと4人で一緒にいること増えたから、ゆっくりおまえと過ごすのって貴重。」

「みんなでいると、楽しいよね。」

「うーん、まぁそうだな……」

「どうかしたの?」

「俺はいつだって二人きりで構わないんだぜ。あいつらといるのは嫌じゃないってだけ。」

「え? 風真くん、颯砂くんと氷室くんといる時、すごく楽しそうだけど?」

「出たよ。おまえ、わかってないのな?いいか、俺はあいつらと一緒にいるんじゃない。あいつらと一緒にいる、おまえと一緒にいるだけ。これって全然、意味違うから。」

「えぇと……」

「颯砂と二人で学食いったりしねぇし、イノリと二人で映画も観ない。おまえがいるからって、わかる?」

「でも、学校でよく三人で話してるの見るよ?」

「あ、あれは……ほら、イノリが意味もなく、俺を雑にいじってきたり……あと、颯砂が俺の筋力テストとか言って、腕相撲を迫ってきたり……ほんとあいつらガキ、困ってんだ。」

(ふふっ。つまり、仲がいいってことだよね!)

 

仲間たちはきっと

「実際に間近で見るとすごいな……」

「うん。綺麗だね。」

「そういえばさ、あいつらもここの話してたよな?」

「本多くんと七ツ森くん?」

「そう。でもさ、本多と一緒にきたら、解説止まんねぇだろうな。またおまえが絶妙な質問で燃料追加するし。七ツ森は、必死にスマホいじって写真とか?あんまり景色楽しむってキャラじゃないか。」

「七ツ森くんも好きだと思うよ、こういうの。」

「なんでわかるんだよ?」

「だって二人とも、ここの話してたんでしょう?」

「ま、そうだな。でも、今ここにいるのは俺だけだ。」

「今度は、みんなで来る?」

「……いや、次も俺たち二人で来る。バレないようにな?」

「すぐに知られちゃいそうだけどな……」

「まぁな。バレたら、1週間は引っ張りそうだしな……黙ってんだぞ?」

(ふふっ、風真くん、本多くんと七ツ森くんのこと大好きみたいだな)

 

もしいっしょに来たら

「やっぱり、おまえ連れてきてよかった。今だけの風景だもんな?」

「うん、ありがとう。今度本多くんと七ツ森くんにも見せてあげたいね?」

「まあ、そうだけど、覚悟は必要だぞ?」

「え?」

「そりゃ、そうだろ。こんなとこに本多と来たら、話止まんねぇじゃん?」

「ふふっ、そうかも。」

「七ツ森が一緒にいれば、本多の目くらましにはなるけどな。七ツ森って、本多の先回りして、結論を早く言わせたり、結構本多の扱い上手いんだよ。」

「へぇ、そうなんだ。いいコンビだね。」

「そう、だから二人で話進めてくれればいいのにさ、なぜか俺を巻き込むんだよ、本多。七ツ森は、わざと俺に本多の相手させて楽しんでるっぽいし。」

「ふふっ、三人の中心は風真くんなんだね。」

「どうだろうな……でもな、4人になったら話は別。おまえだよ、みんなの中心は。」

「そんなこと――

「あんの。いいか、本多が俺に講釈始めるのも、七ツ森が流行りの話題ふってくるのも、結局、オチがどうなるか知ってるか?」

「オチ?」

「おまえだよ。二人とも『よっし今度はおまえに教えてやろ』で終わるの。」

「なんかうれしいかも。」

「そっか。おまえが嬉しいなら、それでいい。」

(風真くん、本多くんと七ツ森くんのこと、よくわかってるんだな……)

 

笑いごとでは済まない

「すごい数のホタル飛んでるな?」

「うん。」

「特におまえの周り。」

「ふふっ、本当だ。」

「笑い事じゃねぇんだけど?」

「えっ?」

「最近また増えてきた感じするし。……ま、その中の1匹が俺なのかもしれないけどさ。」

「えぇと、ホタルの話じゃないの?」

「同じようなもん。学校でおまえの周りはいっつも騒がしいんだよ。普段は、俺は特別と思って我慢してっけど…… 正直、焦るんだ。」

「風真くん?」

「いいか、宣言する。どんだけ周りにホタルがいても、最後におまえの隣にいるのは、俺だ。それだけは、譲れねぇ。」

(風真くん、すごく真剣な顔してる……)

 

近寄りにくくなった

「一つ一つは淡い光なのに、こんだけ集まると、迫力があるな。」

「うん、なんか大きな生き物みたい?」

「なんか、そんな話あったよな?小さい魚が集まって、身を守る話。」

「ふふっ、うん、あったかも。」

「……最近、おまえの周りもそんな感じなんだよな?」

「え?」

「俺のよく知らないやつが、おまえの周り囲ってる。なんか、近寄りにくいっていうかさ。」

「風真くん?」

「まあ、俺もその中のひとりになればいいのかもしれないけどさ…… おまえにとって俺は、大勢の中のひとりなのか?俺にとって、おまえは特別だぞ?」

「風真くんはたったひとりの大切な幼馴染だよ。」

「う……ああ、そうですね。……ったく、まあ、良しとするか?」

「どうかしたの?」

「どうもしませーん。 幼馴染ってズルい言葉だよな……」

(風真くん、どうしたんだろう?)

 

食べなかったら大変

「エサも食べずに光って、飛び回って大変だよな。」

「成虫はエサ食べないんだっけ?」

「ああ、何週間もさ。考えられないよな?はば学生なんてさ、学食が数週間休みってなったら、大騒ぎだろうな?」

「うん、そうだね。」

「俺みたいなひとり暮らしには、生命線でもある。」

「そっか。」

「あ、別に何か要求してるわけじゃないから安心しろよ。」

「ふふっ、はい。」

「期待せずに、待ってます。ていうかさ、冗談抜きで俺、あの学食の雰囲気好きなんだ。ワイワイ食べるのって、やっぱいいじゃん。それにほら、あそこの蕎麦、侮れないぜ。」

「そうだね。定食も丼も、全部美味しいよね。」

「出た。食いしん坊のホタルの幼虫みたいなやつだな?」

「もう、幼虫はひどいよ!」

「そっか、わりぃ。でもおまえ、幼虫どころか、卵の時からいつもキラキラ光ってた。」

「えっ?」

「10年前、知り合ったときからいっつもだ。そんだけ、光り続けたらお腹も空くか?一緒に学食行くの、楽しみだな。」

(風真くん、ひとり暮らしだもんね。楽しい食事したいよね……)

 

本当の評価を知るには

「ここの景色は、実際に見ないとな……話で聞くのとは違う。」

「うん、噂で聞くよりも綺麗。」

「本当の評価はさ、自分の目で見て、確かめないとってことだな。その大前提として、自分の目を鍛えておかないと意味がないけど。」

「風真くんの目なら間違いないね?」

「おい、おまえが言うな。」

「え?」

「『え?』じゃない。俺が一番最初に、この目で選んだのがおまえだろ。…………」

「えぇと……」

「おまえの言う通り。俺の目に間違いはない。10年前の俺は、すでにいい目を持ってたってこと。」

「う、うん……?」

「なんだよ、その困った顔は。まあ、俺だけが見抜いたってことでいいんだ。他の誰にもわからなくていい。俺だけがわかっていれば。」

(風真くん……うれしいけど恥ずかしいな)

 

お楽しみ

命の光

「ひとつひとつの光が命だと思うと、ちょっと怖くなるな。」

「うん、だからキレイなのかも。」

「へぇ、いいこと言うな。俺もそう思う。みんなが目いっぱい頑張って光ってる。なあ、おまえだったらどうやって順位つけんだ?」

「順位?」

「だってさ、順位つけなきゃひとりを選べないだろ?受験勉強や運動の大会、品評会とかは順位着くからわかりやすい。頑張りようもある。でもさ、一生のパートナーってこんな中でどうやって決めるんだ?」

「えぇと、風真くん?」

「勉強や運動なら頑張るよ。でも違うだろ?どうしたらいいか、努力の方向がわかんないって怖いよ。ルールや基準を教えてあげたら、ここのホタルたちも少し楽になれるのにな……」

(風真くん……ホタルのこと言ってるんじゃないみたい……)

 

たくさん覚えている、あの頃

「ここ来るとさ、昔のことフッと思い出したりするんだよな。」

「どんなこと?」

「おまえの赤いランドセルとか、帽子に付いてた交通安全の黄色と緑のリボンとか。一緒に帰ってた頃にタバコ屋のおばあちゃんにもらったお菓子とか。」

「ごめんね、あまり覚えてないかも……」

「いいって。俺もシーンが頭に浮かぶくらい。そういうの、俺10年分足りてないから、少しでも思い出せると嬉しいんだ。」

「はば学の三年で、思い出たくさんできるよ。」

「だな。馬鹿らしいのから、素敵なのまで、たくさん欲しいな。御影先生とか颯砂とか強烈なキャラばっかりだからさ、馬鹿らしいのは大丈夫そう。」

「ふふっ、そうかも。」

「◯◯、おまえは素敵な方をお願いします。」

「ええ?」

「まあ、馬鹿らしいのでもいいんだけどな?おまえと一緒の思い出ならさ。」

(風真くんと一緒にたくさん思い出が作れるといいな……)

 

整理できたからこそ

「……俺、こっち戻ってさ、馴染むの早すぎじゃね?この景色だってさ、イギリスじゃホタルを楽しむ習慣なんて無いのに、俺は自然に感動してる。」

「うん、二人でいるのも ずっと一緒にいたみたいに自然かも?」

「……でもさ、帰国した日におまえに会えてたら、違ってたかもしれない。おまえに会えなかったから、俺は10年ぶりに自分の部屋で、色々整理できたんだと思う。」

「風真くん……」

「部屋に入ったときの感覚は忘れられないよ。10年前から全く変わってない、時間が止まってるみたいだった。ランドセルも通学帽子も小学校一年生のまんまでさ、頭混乱してきたよ。」

「あの日、風真くんはそんな風に過ごしていたんだね。」

「ああ、忘れてたことが、現実として目の前にある感じで、一睡もできなかった。……机やノート、帽子のつばに 俺とおまえの名前が、下手くそな字で書いてあったよ。」

「ふふっ、可愛いな。」

「頑張って、漢字で書いてあるのが、俺らしいなって思った。そんな状態だったから、変なテンションでおまえの前に現れたのは、許してくれよ?」

「入学式の朝は、本当に驚いたよ?」

「あの部屋で一晩、整理できたから、今の俺たちの関係があるのかもな?」

(風真くん……)

 

おじいちゃんの店

「あのさ、おじいちゃんの店に流木が飾ってあるんだ。昔、俺とおじいちゃんが海で拾ったやつ。勿論、売り物じゃないよ。」

「うん。」

「でも最近、それを譲って欲しいって人が現れたらしい。それも結構な値段で。」

「ええっ、すごいね!」

「おじいちゃんも困っててさ。ひとりならプレゼントするけど、何人かいたらしい。」

「ええ!? あげちゃうの?」

「こら、何欲だしてんだよ。……ったく、当たり前だろ?子どもの俺が海で拾った流木だぞ。でもさ、気になってこないだその流木見てみたんだ。そしたらさ、少し香りがして。香木って知ってるか?高級品はすごい値段がつく。」

「もしかして……」

「ああ。大したもんじゃないけど、香木であることは確か。」

「すごい!小さい頃から風真くんの目利きはスゴかったんだね。」

「そんなんじゃないよ。その流木の裏側に下手くそな字で『ゾウ』って書いてあったし。」

「ゾウ……さん?」

「その流木、長い鼻の象みたいな形してた。」

「ふふっ、可愛いね。」

「そんなの高く売れないだろ?」

(風真くんはきっと、小さい頃から物を見る目があったんだろうな……)