抜け駆けデート会話 氷室一紀

 

グループデート後

「ねえ。」

「あれ、氷室くん。どうかした?」

「この後、どうする?」

「どうするって……帰るんじゃないの?」

「短絡的。もう少し一緒にいたいとか、思わないわけ?」

「えっ。」

「せっかくだし、どこか行こう。……二人だけで。」

「うん、いいよ!」

「そうこなくっちゃ。」

「なんかドキドキするね?」

「べつに。それより、行くよ。見つかると面倒なことになりそうだし。」

 

近所の公園

「……うわ。最悪。」

「どうしたの?」

「振り向かないで聞いて。君の真後ろの遊具の、さらに奥に、盛り上がったカップルがいる。」

「もり――

「振り向かないで、って言ったでしょ。」

「 !? 」

「本当……なんでこんなところで、妙なムード出すかな。あーあ…… 本当、見てらんない。ま、はば学の制服じゃないから良かった。知り合いだったりしたら、それこそ最悪だし。」

「あ、あの 氷室くん……!」

「なに。」

「ち、近いよ?」

「 !?  ご、ごめ――いや! ていうか振り向くなって言ったのに、振り向こうとしたのはそっちだから!それを制止させるために仕方なく近づいただけだし!」

「う、うん。」

「……ハァ、これじゃあそこのカップルと変わらない。」

(色んな意味でドキドキした……)

 

近所の公園2

「それにしても、君って愛されキャラ?」

「……どういうこと?」

「今日の二人、君のことすごくちやほやしてたから。」

「えっ!」

「なに?自覚ないの? みんな、君ばかり見てたのに。」

「そうかな……?」

「じゃあ僕が見てたのも気づいてないんだ?」

「え?」

「僕も見てた。だから、わかった。みんなが誰を見ているのか。……でも、肝心な部分はまったくわからない。」

「肝心な部分……?」

「君。」

「え、わたし?」

「君が誰を見ているのか、ってこと。君は、誰を見ているの?今日の二人のどちらか?それとも、また別の誰か?」

「今は……氷室くんを見てるよ?」

「え…… たしかに。今、目の前の君を見てなかったのは、僕のほうかも。……ありがと。大事なこと、見失ってた。」

(氷室くん……)

 

茶店

「…………」

「あの、氷室くん……?」

「なに?」

「さっきから黙ってばかりだから。」

「僕から話題を提供しなきゃいけないわけ?」

「そういうわけじゃないけど……」

「ホントのところ、何話せばいいのか、よくわからない。いろんな気持ちが渦巻いてて。今日は楽しかったけど、ムカムカもしたし。抜け駆けできて嬉しいけど、……罪悪感もあるし。気の利いた言葉言いたいけど、全然出てこないし。」

「氷室くん……」

「だからなんていうか……わかって。結局のところ、一緒にいられれば、僕はそれでいいから。」

「……うん。」

「どうも。」

 

臨海公園:波止場

「ふう……」

「氷室くん?」

「ようやくひと息つけたって感じ。」

「みんなと一緒だと楽しめなかった?」

「そんなことはないけど、いちいちうるさい。やっぱ、二人きりのほうが落ち着く。」

「そっか。」

「君は?」

「え?」

「僕と二人きりより、みんなと一緒のほうがいい?」

「うーん…… どっちも楽しいかな?」

「優等生な回答。僕ばっかり浮かれてるみたいで、なんかムカつく。」

「そんなことないと思うけど……」

「じゃあ、君も今、緊張してる?」

「……うん、してるかな。」

「そっか…… 誘えて良かった。」

(氷室くん……)

 

臨海公園:波止場2

「夕日、綺麗。」

「うん。」

「あのまま帰らなくてよかったでしょ?」

「ふふ、そうだね。」

「僕もよかった。こうして、君を独り占めにできたし。」

「え……?」

「思ったよりも、みんなで遊ぶのって悪くないけど…… 君とじっくり話できないのは不満。割り込まれたり、距離があったり、やきもきする。」

「そうなの?」

「当の本人がこれだし。僕ばっか苦労してる感じ。」

「ご、ごめんね。」

「いいよ。代わりに今、こうして一緒にいるし。だから、あと少し……あの夕日が沈むまで、こうしてていい?」

「うん、もちろん。」

「よし。」

 

水族館:水族館内

「水族館でよかった?」

「うん!」

「あ、そ。 ………………」

「氷室くん?」

「あ、いや……いざ二人きりになったら、何話していいか迷って……
 やきもきしてた時は、いろいろ話したいことあったのにな。」

「そうなんだ?」

「ま、ね。せっかくだし、話したいこと思い出すまでつき合ってよ。」

「うん、いいよ?」

「……明日までかかるかもよ?」

「ええっ!?」

「冗談。ま、遅くなっても送るし、じっくりつき合って。」

 

ボウリング場:ダーツコーナー

「……よしっ。」

「氷室くん、すごいね!」

「べつに。 ……でも、ほっとした。」

「え、どうして?」

「君を連れ出してみたものの、楽しませられなかったらどうしよう、って…… 少し、プレッシャー感じてたから。」

「ええ?」

「それくらい、4人で遊んでた時君は楽しそうにしてたから。僕と二人きりになった途端、様子が変わったら……って、内心不安だった。」

「そんなことないのに……」

「そうみたいだね。安心したら、無駄な力抜けてきた気がする。また、ど真ん中入れてみせるから、きちんと見てて。」

「ふふ、うん……!」

 

ボウリング場:ダーツコーナー2

「今日の写真、プリントアウトしてこようかな?」

「今日のって、みんなとの?どうして?」

「邪魔者の顔なら、さくっと狙える気がするし。」

「え……ええっ!?」

「個人的な恨みはないけど、君が関わってくると邪魔。」

「もう…… 仲良くしないとダメだよ。」

「そんなに心、広くないから。ひとり年下な分、ちょっと不利だから焦るし。」

「不利なの?」

「そりゃそうでしょ。上手く、リードできないし。」

「そんなことないのに……」

「ま、これは僕自身の問題だから。君は気にしないで。」

「う、うん……」

「たとえ、みんなの顔写真を印刷してきたとしても。」

「それはダメです!」

 

映画館

「……………………」

「どうしたの?」

「ちょっと優越感。あの二人は、こうやって僕が抜け駆けしてるなんて思ってないだろうし。」

「えっ、抜け駆け!?」

「そ。やっぱ人数いると、いい雰囲気になれないから。だから、今からが本番。」

「う、うん。」

「緊張してる?」

「少し……」

「ふうん。……じゃあ、こうするか。」

「 ? えっ! あの氷室くん、手が……」

「知ってるよ。わからないの?わざとだって。」

「そ、そっか。」

「どこまで鈍感なの。ま、困惑してるってことかな。顔も赤いし。」

「……そういう氷室くんも。」

「えっ。 ……ウルサイ。映画始まるから静かにして。」

(もう……!)

 

映画館2

「ふぅ……今日は疲れた。僕なりに頑張ったし。」

「楽しくなかった?」

「楽しさとは別次元の問題。人と合わせるのって苦手。……その上、みんな君のこと狙ってるし。」

「ええ? そんなこと――

「ある。じゃなきゃ、ここまで疲れたりしない。第一、君だってあんな無邪気な顔、みんなに見せて。魅了する気満々だったでしょ。」

「そんなことしてません!」

(咳払い)

「……あ。」

「す、すみません。」

「……プッ、くく。」

「氷室くん?」

「いや……周りから見たら、くだらない痴話喧嘩に見えただろうなって。君とこんなやりとりするの、新鮮で、ちょっと面白かった。」

(ふふ、たしかに新鮮な感じ!)