下校会話 七ツ森実

 

教会の噂

「はば学のどっかにあるらしい伝説の教会。それにまつわるウワサがいくつかあって。1つは王子と姫のやつ。苦難の旅を終えた王子が、教会で待つ姫を迎えに来るハッピーエンドパターン。ベタだけど、俺は嫌いじゃない。」

「ふふ。」

「でも、これはもうはば学内じゃ結構知られてるほうらしい。」

「え、そうなの?」

「ああ。あんた、他のバージョンのウワサ、なんか知らねぇの?」

(伝説の教会って……思い出のあの鐘のある教会のことなのかな……?)

 

「はば学のどっかにあるらしい伝説の教会。それにまつわるウワサがいくつかあって。二種類あるんだけど、ホラーなのと、絶対笑えるの、どっち聞きたい?」

「えっ!? どっちかと言えば……」

「まあまあ。じゃあ、ホラーな方で。」

「うぅ……」

「べつに全然コワくねえって。 教会の地下にある巨大プラントは現在も稼働してるらしくて。で、そこで今進められている劣等生改造の新プロジェクトがな……『ダメ男』は『イイ女』に!『イケてない女』は『イケメン』に!名付けて “両極端改造PJ” だとさ。」

「……プッ! それ、ホラーじゃないよね?」

「もう笑いしか出てこねぇよな?ただ、マジでできたらスゲェけど。」

(ん? 七ツ森くん、なんだか妙に楽しそう……)

 

「はば学のどっかにあるらしい伝説の教会。それにまつわるウワサがいくつかあって。」

「うん。」

「二種類あるんだけど、絶対笑えるのと、ホラーなの、どっち聞きたい?」

「えぇ…… どっちもあんまり……」

「まあ、そう言うよな。じゃあ、絶対笑えるほう。マジで笑えるぜ?」

「ホントかなぁ……?」

「ウワサの教会。その実態は教会なんかじゃなくて……」

「なくて……?」

「大きな声じゃ言いづらい。ちょっと耳貸して。」

「…………」

「それは――

「……えっ!? う……アハハ!
 もうっ、やめて!くすぐったい!」

「…………」

「ハァ……もう。 くすぐったら誰でも笑っちゃうよ!」

「これは…… 俺は笑えないかも…… なんか、ゴメンナサイ。」

(???)

 

誕生日前

「そういえば、もうすぐ七ツ森くんの誕生日だね?」

「ああ。」

「あれ?あまりうれしくない?」

「嬉しいとかそういうの、あんまり感じない。ただ歳が一つ、重ねられるだけだし。」

「クールだね……」

「あんたは?誕生日って嬉しいモン?」

「お祝いしてもらったりケーキ食べたり、プレゼントをもらったり。楽しいよ。」

「……あ、ソレ。そこだ。俺んちはプレゼントはあるんだけどケーキがねえ。
自分で好きなの食って来いって、小遣いもらって、ショップでひとりバースデーケーキタイム。
好きなモン食えるのは幸せだけど……バースデーケーキってのはトクベツで。
大きなケーキをパーティーのみんなで分け合う。そうすれば、みんなの心にも幸せが同じく積もるだろ。……けど、俺んちはそういうのなかったから。
まあ……そんなカンジ。」

(七ツ森くん、意外と人の温もりを大事に思ってるのかも……)

 

体育祭前

「もうすぐ体育祭だね。七ツ森くん、運動は――

「苦手なんでしょ、とか言いたいんだろ?」

「まだ何も言ってないのに……」

「ま、俺がマジでスポーツしてるところなんて見たことあるヤツも少ないだろうし。」

「そうなの? 体育の授業は男女別だからわたしも見たことないけど……」

「フン。あんたが男子だったところで 俺がスポーツしている姿はめったに見ることはできない。」

「え、どうして?」

「……俺は、体育の授業は種類を選んで参加しているからだ。とくに球技は不参加必至。体中アザだらけになるし、突き指なんかしたら仕事ができなくなる。」

(そういうことか……)

 

期末テスト前

「もうすぐ期末テストかぁ……」

「ああ。」

「あれ?七ツ森くん、もしかして余裕?」

「余裕ね。そういう言い方もできる。」

「それって……」

「焦ってもいない。焦ったところで、テストの点数が獲れることは無いんだし。」

「えぇと……勉強する気は?」

「俺の学力ごときでは、世の中の何の役にも立たない事はわかってるし。ということで、俺の中でトクベツに刻まれるイベントスケジュールではない。」

(開き直ってるよね……)

 

夏休み前

「夏休み、七ツ森くんは予定していることはあるの?」

「バイトと、ショップ巡り。8月はもう秋物売り出すから。仕事もプライベートも充実だな。」

「そっか。でも、8月って暑いから、秋物を着る仕事って大変そう……」

「全然。新作をいち早く着られて気分はアガりまくり。……けど、真冬の春物撮影は地獄。クッソ寒い空っ風の中で薄着の上、笑顔で、とか無茶ぶりされるし。」

「ふふっ!」

「つーことで。夏休みは外出が多いだろうな。」

(七ツ森くん、えらいなぁ。バイトもプライベートもちゃんと楽しもうとしてる……)

 

修学旅行前

「もうすぐ修学旅行だね。わたし、今からすごく楽しみ!」

「俺も。修学旅行とはいえど、俺らにとっちゃ楽しい集団旅行だもんな。長崎、初めてだし。現地の食べ物とか、建築物とか興味津々だし。」

「うん、わたしも!」

はばたき市も海と山がウリだけど、長崎のはまた別モンだと思う。まずはとりあえず、名店のカステラを食ってみたい。一斤、丸ごと。」

「えぇっ!?」

「あれ? ない?そういう、ビジュアルと実物の理想形を叶えたいって気持ち。あの黄色と茶色のコントラストに、しっとりしたキメ細かい生地の優しい甘さ……あー、楽しみ。」

(うーん…… カステラ丸ごとは七ツ森くん独特の理想形かも?)

 

文化祭前(通常)

「文化祭、楽しみだね!」

「まあね。お祭りはなんでも楽しいな。」

「七ツ森くんて実家ははばたき市のお隣の街だよね。友だちが遊びに来るんじゃない?」

「まあ、そんなに多くはないけど。はば学の文化祭は絶対行くって意気込んでそうなヤツは思い当たる。」

「ふふっ! いいな、そういうお友だちがいるのって。わたしはずっとはばたき市だから。」

「でも、高校に入ってからバラけた友だちが遊びに来てくれるだろ?」

「あ……そっか。」

「お互い、懐かしい友だちを大切にもてなさないとな?」

「うん!」

 

文化祭前(学園演劇)

「もうすぐ文化祭だね。学園演劇、どうなるのかなぁ。」

「演目、役者を絶賛投票中らしいな。」

「そうだね。演目も気になるな……」

「ここで俺たちがウダウダ考えてても仕方ないでしょ。そんなに気になるならさ、あんたもバリバリ投票して主役の座を狙ってみれば?」

「えぇっ!?」

「驚くなよ。ほら、今回が高校最後の文化祭なんだしさ。主役でも脇役でも、裏方でもさ、いい思い出になると思うけどな。」

(そっか。これが高校最後の文化祭だもんね……)

 

冬休み前

「もうすぐ冬休みだね。七ツ森くんは何か予定はあるの?」

「バイトと……ショップ巡り。ハァ……」

「どうしてため息?」

「前にも言ったかもしんないけど、真冬にな、春物の撮影があるんだよ。北風の中、笑顔を浮かべながら。」

「そっか。でもステキだよね。ちょっと寒そうだけど。」

「……ちょっと? ちょっとじゃない!! スッゲェ寒い。凍え死ぬレベル!」

「そ、そっか。お仕事、がんばってね?」

「ヘイヘイ。オコタの中から応援してくださいよ。ハァ~……」

(応援してるから!……あったかい部屋で!)

 

春休み前

「七ツ森くん、春休みは何か予定たててる?」

「花見して写真撮って、花見限定スイーツ食って写真撮って――

「そっか、桜の時期は限定モノが多そうだね?」

「そ。ピンクって言っても、色んなタイプの色味があるし。味付けも、本当に桜を使ったり意外な素材だったり。桜シーズン中は毎日が幸せ。」

「へぇ……」

「……なあ。あんた女の子なんだからもっとそういうのに興味持ちな?まあ男女関係ねぇけどさ。」

(う……七ツ森くんにはかなわないよ……)

 

卒業前

「あと少しで卒業だね……」

「ああ。俺らももう、大人の仲間入りだ。」

「そうだね。」

「俺、はばたき学園に入学して本当に良かったと思ってる。」

「うん……」

「ここに来るキッカケは中坊のときの友だちでさ。アイツにはたっぷり感謝しねーと。」

「感謝?」

「そ。はばたき市で過ごした三年間は、未熟な俺を成長させてくれた。やりたい事だけやっても、結果、成功は無いんだって。表とか裏とか、そんなモノにこだわる必要なんてないって。本当にいろいろ教えてもらった。
あんたに会えたことも成長の一つだと思ってるよ。サンキュ。」

「七ツ森くん……」