下校会話 本多行

 

教会の噂

 

「ねね、知ってる?学校にある教会には、伝説があるんだって。」

「どんな伝説?」

「教会で待つお姫様のもとに王子様が現れ、その後、結ばれた二人は幸せに暮らす――っていうね。この話、妹にしたらすごい食いついてきたんだけど、やっぱ女子って、こういう話好きなの?」

「うん、好きかもね?」

「そっかー。じゃあ、はば学歴代の先輩たちの間で、実際にそれに近いエピソードがあった、って言ったら?」

「えっ、ほんとに?」

「わ……目の色変わった!やっぱ興味津々の、大アリだね? ねね、なんで女子はこういう話が好きなんだと思う?」

(本多くんの興味は、伝説よりそっちなんだ……)

 

「ね、知ってる?学園の教会にまつわる伝説のこと。」

「もしや氷室教頭の黒魔術の話!? あっ、それともコジロウ先生のモーリィの話!?」

「ええ!? なにそれ?」

「あれっ、違うんだ?実は俺、教会の伝説について興味があって調べたことがあるんだ。けど、ぜーんぶハズレ。図書室にある学園史や郷土史と照らし合わせて、どれも事実じゃないって判明したよ。」

「すごい、そんなに調べてたんだ?」

「そそ!だから君が仕入れてきた伝説に期待だよ! で、どんなの?」

「えぇと、教会にステンドグラスがあるでしょ?あれには――

「わかった!秘密結社の話でしょ!? ステンドグラスが実は秘密のコードになってて、それを守ってる秘密結社が存在してるっていう!残念だけど、あれもハズレ。ここまで来ると、新作の伝説を仕入れるのも一苦労だよ……」

(……と、いうようなことを話しながら下校した)

 

「ねねっ、新しい伝説を仕入れたよ!」

「え? あの教会にまつわる?」

「そそ!なんと教会の地下には巨大図書館があって、そこに都市伝説の全てがまとめられているんだって!」

「へえ?初めて聞いたかも。」

「でしょでしょ?これは調べがいがあるよ。そんなのあったらオレ、入り浸っちゃうだろうし。」

「都市伝説だけの図書館でも?」

「それがいいんだよ! 1つひとつ事実確認をしながら読み進めていくんだ。巨大な図書館を埋め尽くすほどの数があるなら、在学中は暇しないだろうなー!」

(……と、いうようなことを話しながら下校した)

 

誕生日前

「本多くんの誕生日、もうすぐだよね?」

「そそ。昨日、妹にも言われた。うちって、家族の誕生日にはそれぞれプレゼントを贈り合うからさ。」

「へぇ! 仲良しだね。」

そだねー。プレゼントもハズしたことないしね。いっつも一緒だし、たくさん話してるから、みんなの好みは一通り把握してるつもり。 あーでも、だいぶ前に妹からリクエストされたメイク用品では大失敗したなー。」

「え、どんな風に?」

「見当違いのものを贈っちゃったんだ。種類がありすぎて、当時は全然見分けがつかなくてさ。」

「……ん? 当時『は』?」

「そそ。今はだいぶわかるようになったよ。やっぱ知るには実践が一番!」

(実践って…… もしかして本多くん、お化粧した?)

 

体育祭前

「もうすぐ体育祭だね?」

「そそ。そろそろ練習始まるのかな。」

「うれしそうだね?」

そだねー。オレ、スポーツは結構好きだからね。得意ではないけど。」

「そうなんだ?」

「うん。ルールや戦術は頭に入ってるんだけど、それに体が追い付かないんだ。どんな時にどうすべきか、プロの試合や動きを見て学んだけど、それに見合った身体能力がないってワケ。だから、理想と現実の動きにどんどん差が出ちゃって辛いんだよねー。」

(頭が良すぎるのも、けっこう大変なのかも……?)

 

期末テスト前

「もうすぐ期末テストだね。」

「そだね。」

「余裕だね……?」

「そんなことないよ。今回の試験範囲もどこか知らないし。」

「ええっ!?」

「だってオレ、教科書はもらったその日に読み切っちゃうから。その後は試験範囲とか関係なく、興味のある部分しか読まないんだ。」

(う……もう次元が違うみたい……)

 

夏休み前

「もうすぐ夏休みだね。本多くんの予定は?」

「今のところ考えてるのは 図書館と博物館巡りかな。」

「ずっと?」

「あとは昆虫採集。図鑑でしか見たことのない昆虫をこの目で……! ――というのが理想だけど。残念ながら、この辺りの昆虫はほとんど調査済みなんだ。いっそ、海外まで足を伸ばせたらなー。」

「海外で虫捕り?」

「そそ!楽しそうでしょ?でも、わざわざ森林に行きたいだなんて贅沢は言わないよ?海外のお家に出てくる虫とかで全然オッケー!」

(家に出てくる虫……か。本多くんらしい感性かも……?)

 

修学旅行前

「もうすぐ修学旅行だね?」

「そそ! おかげで今は準備に忙しいよ。」

「準備? 何か役割を頼まれたの?」

「各地に史跡だとか文化財があるでしょ?でね、その関連資料をまとめてるとこ。予習しとくと、楽しさ倍増するからさ。それと自由行動の時間にできるだけたくさん効率よく周りたいから、ルートガイドも作ってるよ。」

「す、すごい……!」

「不測の事態が起きてもいいように、複数のルートや順路を用意してるよ。あ、良かったらオレがガイドしようか?」

(もはや本多くんツアーだ……)

 

文化祭前(通常)

「もうすぐ文化祭だね。準備はどう?忙しい?」

「そんなに。オレ、クラブ活動してないからね。特に文化系のクラブは、発表とか展示の準備で大変そうでしょ?あ、そういえばこの前、友だちに展示内容について相談されたから、アドバイスしたんだ。」

「アドバイス?すごいね。」

「そんなことないよ。ただ内容の一部に、古い情報が載ってたから教えてあげただけ。つい先日、新しい研究結果が発表されたばかりのことだったから知らないのも無理ないよ。」

「でも本多くんは、知ってたんだ……?」

「うん? そうだよ?」

(本多くんは自分の凄さを自覚してないみたい……)

 

文化祭前(学園演劇)

「もうすぐ文化祭だね。」

「そそ!学園演劇のことなんだけど――んんッ!」

「えっ!? どうしたの?」

「……やー、本当は秘密にしろって言われたんだけど君には特別ね? 実は、上映作品の設定考証を頼まれてるんだ。」

「設定考証?」

「そそ!脚本が、原作や史実に基づいて作られているか確認する作業だよ。自分の知識を活かせるから楽しいし、引き受けてみようかなって思ってるんだ。」

「へえ、すごい! 本多くんならそのまま脚本も書けそうだね?」

「設定におかしなところがないか確認するのと、お話を考えるのとはぜんぜん違うよ。オレはあくまでもお話を横から補強する役目。それだけでも、オレにとっては大役だよ。」

(ふふ、本多くん楽しそう!)

 

冬休み前

「もうすぐ冬休みだね。本多くんはどうするの?」

「雪だるまを作る。」

「えっ?」

「毎年、近所の子どもたちにせがまれて作るんだ。ただ、年々雪が少なくなってるからね。天候、気温、湿度、全てにおいて最適の日を選ばないと。作ったはいいけど、すぐに溶けちゃったら悲しいでしょ?」

「そうだね。子どもたちは特に。」

「そそ。でね、毎年作ってると技術も蓄積されてくるから――今年はよく見る雪だるまじゃなくて、もっと造型にこだわってみようと思うんだ。それだけに、いつも以上に天候には気を配らないと……!」

(完成したら、見てみたいな!)

 

春休み前

「もうすぐ春休みだね。」

そだねー。今年もついにこの季節か……」

「なんだか、楽しそうだね?」

「うん。春になると虫だけじゃなく、いろんな生き物の活動が活発になるでしょ?」

「じゃあ、この春休みは……?」

「もちろん、虫捕りと生物観察!この時期を逃すと、あとは本でしか見られない生き物もいるからね。そうだ!森林公園で見つけたサナギが羽化するところもこの目で見届けなくっちゃ!」

(本多くんの春休みは、いつも充実してそうだな……)

 

卒業前

「もうすぐ卒業だね……」

「そうだね。」

「卒業式、本多くんは泣くと思う?」

「うーん、どうだろ。オレ、卒業自体には、悲しさよりその先への興味しかないんだよね。でも、ヒトの感情なんて理屈で説明しきれるものじゃないからなー。もしかしたら誰よりも号泣してるかも?」

「ちょっと見てみたいかも?」

「ええー? オレ、一回スイッチ入っちゃうと抑えられないからなー。嗚咽がひどくて会話にならなくても笑わないでよ?」

(ますます見てみたいかも……)