下校会話 颯砂希

 

教会の噂

「颯砂くん、学校にある教会の伝説って知ってる?」

「うん。王子様の帰りを待つお姫様ってやつ。クラスの女子が盛り上がってたよ。なんか、ご利益もあって はば学生がそこで告白すると結ばれるんだろ?」

「うん、素敵だよね。」

「いいじゃん、きみも好きそう。でもさ、タイムリミットとかあったのかな?王子様の方。」

「タイムリミット?」

「色々困難なお題があったにしても、時間無制限じゃ、緊迫感ないよ。それにさ、お姫様だって10年も20年も待つのはキツい。」

「たしかに、そうかも……」

「だろ? 一年じゃ短いかな?……三年でどう?」

「どうって言われても……」

「そっか。入学して卒業するまで三年だ。」

「え?」

「はば学生がそこで告白すると結ばれるんだろ?だから高校三年間。 三年間で、告白までの課程を終わらせるってことか。計画的にいかないと……」

「颯砂くん?」

「ああ、なんでも計画が重要だって話。」

(……?)

 

「教会の伝説って、色々あるんだな。なんか、ネタみたいのが多いけど。」

「うん、みんな面白がってるみたい。王子様とお姫様の話が一番有名だけどね。」

「オレが聞いたのは、王子様もお姫様も出てこない。登場するのは御影先生。」

「御影先生?」

「うん、御影先生って一応、陸上部の顧問だけど、練習とかには出てこないじゃん?でも、教会ですごい選手だけ集めて猛特訓してるらしい。」

「ええ? 颯砂くんも特訓してるの?」

「してないよ、噂。 ただ、教会の周りで砂煙が立ってるのを、見た人がいるらしい。その中心で御影先生が嬉しそうに頷いてたとか。」

「砂煙って……すごいスピードで誰かが走ってるってこと?」

「さあな。でも、マンガじゃないんだから、どんなに速く走っても、砂煙は立たないよ。」

(……という話をしながら、二人で楽しく下校した)

 

「教会の話、また聞いたよ。」

「ふふっ、お姫様が出てこない方?」

「うん、御影先生の方。教会にダチョウを集めて、繁殖させてるって噂。」

「ええ? ダチョウ飼ってるの?」

「ダチョウレースで一儲け企んでるらしい。」

「ダチョウレース?」

「うん、それで優秀な血統のダチョウを集めてるんだって。でも……遅いダチョウは、御影先生が食っちゃうらしいよ。」

「ええっ!?」

「夜な夜なダチョウの断末魔と、御影先生の舌鼓の音が聞こえてくるとか。ははっ、まあ、いくら噂でも御影先生に悪いよな。面白いけど。」

(……と、いうようなことを話しながら楽しく下校した)

 

誕生日前

「颯砂くんの誕生日、もうすぐだよね。」

「お、覚えててくれたんだ。嬉しいな。」

「誕生日って、いくつになってもうれしいもんね。」

「うん、もっと一気に歳とってもいいな。そうすれば、早く十種競技に出られる。」

「そっか。颯砂くんの目標は、十種競技だもんね。」

「高校までは8種だからさ。小さい頃から、そんな感じだったよ。ジュニアの記録会とか、色々制限されるから。だから、上の大会に出られるってだけで、誕生日が待ち遠しかった。」

「颯砂くんらしいなぁ。」

「そうかな?あとさ、一年前の自分から何秒、何メートル成長したって思えるのも楽しいんだ。大切なのは、この気持ちが何歳まで続くかってことだけど。」

「何歳まで……」

「だってそうだろ?誕生日が楽しいうちは、自分の記録も伸び続けてるってことじゃん。また、来年も楽しく迎えたいな。」

「大丈夫。きっと颯砂くんなら、ずーっと記録が伸び続けるよ。」

「ああ、きみがそう言ってくれると心強い。」

(誕生日も陸上に結びつけて考えてるんだな……颯砂くんのこと、ますます応援したくなってきた)

 

体育祭前

「そういえば、もうすぐ体育祭だ。」

「うん、楽しみだよな。」

「颯砂くんは楽勝だよね。」

「まあ、そうだけど、別の楽しみもあるんだよ。全然知らない生徒でも、いいバネ持ってたり 走りのセンスがあるやつ見つけたり。」

「そうなんだ?で、陸上部にスカウトするの?」

「ううん。そういうヤツって今までの経験上、別のことに打ち込んでるんだ。野球とか、バスケとか、骨董品とか?」

「骨董品って、風真くん?」

「そう、玲太がいい例。勧めれば勧めるほど、逃げてく。」

「ふふっ、確かに風真くん、運動部は入らなそう。」

「だから、ただ単にそういう隠れた陸上の才能持ってるやつを見つけてるだけ。」

(颯砂くんに才能を見出されたら、陸上でも活躍できるんだろうな……)

 

期末テスト前

「そろそろ期末試験だね。」

「そうだね。」

「あれ? 颯砂くん、余裕だ。」

「なんだよ、オレが余裕だとおかしい?」

「えぇと、そんなことないけど。」

「まあいいよ。余裕っていうか、諦めかな。ジタバタしても、大して変わんないし。」

「でも、一夜漬けしたとこらが、そのまま出るかもよ?」

「どこら辺が出るとか、情報あんの!?」

「そ、それはないけど。」

「はぁ…… 当てずっぽうで一夜漬けしてもさ、意味ないじゃん。」

(ちょっと、期待させちゃったかな……)

 

夏休み前

「もうすぐ夏休みだね。何か予定ある?」

「夏休みって言っても、変わらないかな。トレーニングメニューも一緒だし。部活も、犬の散歩のバイトも。」

「ワンちゃんたちの散歩?」

「あ、飼い主の家族がさ 毎年、海外旅行に行くんだ。その時は他に預けるらしい。」

「じゃあ、その間は会えないんだね。」

「うん。散歩は大変だけど、長く会えないのは寂しいかな。その間、きみと一緒に散歩するってのはどう?」

「えっ!? ワンちゃんの代わり?」

「ち、違うよ。ただ一緒に散歩しようってだけだって。」

「…………」

「ごめん、ごめん。 ……改めて、時間が合えば一緒に朝散歩しませんか?」

「ふふっ、考えときます。」

「はーい。前向きにお願いします。」

(颯砂くんと朝の散歩か……ワンちゃんたちも一緒の方が楽しそう?)

 

修学旅行前

「もうすぐ修学旅行だね。楽しみ!」

「オレも長崎って行ったことないし、超楽しみだよ。カステラ、天ぷら、ちゃんぽん?」

「食べ物ばっかり。」

「そっか、でもあとなんだ?」

「ホテルで、みんなで寝たり食べたりするのが楽しみかな。」

「うん、大きな風呂があるよきっと。露天風呂の後に、サウナと水風呂、最高じゃん。」

「颯砂くんはお風呂が大好きなんだね。」

「みんなで入るのもいいけど、純粋に大浴場って気持ちいいよ。大声出したら、女湯にも聞こえるかも?きみの名前呼んでもいい?」

「……それはやらないでいいよ。」

「ごめん、ごめん。そんな、怖い顔すんなって。やっばい、修学旅行楽しみだな~!」

(颯砂くん……修学旅行っていうか、お風呂が楽しみ?)

 

文化祭前(通常)

「文化祭まであと少しだね。準備はどう?」

「クラス出展の準備は進んでるよ。オレも絵を描いてる。」

「え、颯砂くんが絵?」

「そんな驚くことか?オレが絵描いたらおかしいみたいじゃん。」

「ううん、そんなことないけど。 ……何を描いたの?」

「装飾に使う背景みたいなやつ。地面と空。ま、茶色と水色で塗っただけだけどさ。」

「ふふっ、がんばったね?」

「ああ、あっという間に終わったから、はじっこに動物も描いといた。犬か猫みたいなの。かわいいやつだよ。」

「犬か猫? そっか……可愛いんならよかったね。」

「まぁ、途中で自分でも何描いてたんだかわかんなくなったけど。」

(颯砂くんの絵……少し気になるかも)

 

文化祭前(学園演劇)

「はぁ……文化祭の学園演劇、うまくいくかな?」

「もうそんな心配してるのか、楽に行こうよ。まあ、口で言うのは簡単だよな……」

「颯砂くんも緊張とかするの?」

「うん、もちろん。記録会でメンタルコントロールできなくて、失敗したこともあるよ。一生懸命、準備している人ほど緊張は大きくなる。準備してない人は失敗しても当然って思えるからさ。なんか、ずるいよな。 よっし。オレがやってるルーティン、教えるよ。やってみて。」

「う、うん。」

「目を閉じて、腕を胸にあてる。そんで、息を長く吐いて、胸に溜まった緊張や不安を全部出す――やってみて?」

「ふぅー……」

「いいじゃん。毎回これをやった後に、準備や練習をすれば、本番でも同じことができるよ。」

「うん、わかった。颯砂くんありがとう。」

(颯砂くんのおかげで、本番も楽しめそう……かな?)

 

冬休み前

「颯砂くん、冬休みの予定って決まってる?」

「うん。年末年始って短いけど、イベント盛りだくさんだもんな。きみはどれが楽しみ?」

「すぐクリスマスパーティーがあるよね。」

「うん、それそれ。はば学のパーティーって、結構みんな本気じゃん。まずはプレゼント。気の利いたもんにしたいけど、センスで競っても玲太とかには負けるダロ?結局ネタっぽくなる。」

「颯砂くんの渾身のネタ、楽しみだな。」

「なんだよ、ハードル上げてきたな? OK、オレのがきみに回る想定で選ぶよ。」

「ええ? 誰に渡るか、わかんないのに?」

「大丈夫だよ。きみはくじ運がいい感じするから、当たりを引く。ま、オレのがアタリって前提だけどね。」

「ふふっ、うん。楽しみにしてるよ。」

「オレの方は、きみの衣装を楽しみにしてる。まぁ、オレだけじゃなくて、みんなが期待してると思うけど?」

(うう、颯砂くんにプレッシャーかけられた……)

 

春休み前

「もうすぐ春休みだね。」

「うん、気が引き締まるよ。進級すれば、新しい目標があるからさ。必ず記録を更新しないと。」

「颯砂くんはすごいな。いつも具体的な目標を決めて進んでる。」

「何秒とか何メートルとか、ちょっと具体的すぎるけどね。」

「ううん、立派だと思う。」

「今じゃなくてさ、達成できたら褒めてよ。」

「ふふ、わかった。」

「よーし、種目ごとにいくつか設定してあるから、全部達成したらきみに20回くらい褒めてもらえる。」

「え、20回?」

「うん、達成することでモチベーションアップするからね。細かく作ってあるんだ。更にきみから褒めてもらえれば、効率上がりそう。」

(なんだか、颯砂くんのトレーニング計画に組み込まれた感じがする……)

 

卒業前

「もうすぐ卒業か、あっという間だったな……」

「うん。この道を制服で歩くのも、あと少しだね。なんかさみしいな。」

「オレはきみがしたければ、いつでも制服くらい着るよ。」

「ふふっ、ありがとう。でも卒業したら制服は着ないよ?」

「そっか、この制服にも感謝だな。オレの場合、トレーニングウェアにも感謝か?」

「うん、制服より長い時間、着てたかも?」

「教室とか部室とか、ハードルとかにも感謝だな?」

「うん。 ……あ、先生を忘れてるよ!」

「ははっ、やっべ。御影先生、忘れてた。陸上部では影が薄いからな~?」

「わたしは三年間、担任してもらったよ。」

「そっか…… でも一番は、きみへの感謝かな?」

「え?」

「卒業までまだあるから、きみへの感謝は、そん時までとっとく。あと少し、これまで通りよろしくな。」

「う、うん。」

(卒業かぁ…… きっと泣いちゃうだろうな)