大接近 本多行

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1回目

「……だー、ビックリした。」

「えっ? 何が?」

「君の行動というか……君との距離に、かな? そそ!距離といえば、人は誰もがパーソナルスペースを持ってるよね。」

「う、うん。」

「とある文化人類学者の定義によると、手は届かないけど、相手と会話が可能な距離を『社会距離』。互いの表情が読み取れる距離を『個体距離』。そして、容易に触れられる距離を『密接距離』と言うらしいんだ。」

「……えーと?」

「でね、その定義からすると、今 君とオレとの距離は『密接距離』。ごく親しい人に許される距離ってワケ。」

「あ……ごめんね、迷惑だったよね?」

「なんで謝るの? 迷惑だったらオレ、ハッキリ言うけど?むしろ嬉しいよ!オレたち最初の頃より親しくなってるってことでしょ?家族みたいにさ!」

(家族、か……でも本多くん、スキンシップ自体は嫌いじゃないみたい?)

 

2回目

「やっぱり違うなー。」

「えっ?」

「前にさ、君との距離は家族みたいって言ったよね?あれからずっと考えてたんだけど、オレ、家族と今みたいなスキンシップなんてしてなかったよ。」

「う、うん。」

「試しに妹にやってみたら、めちゃくちゃ怒られたし……」

「やっちゃったんだ……なんか、ごめんね。」

「またなんで君が謝るのさ?きっとオレのやり方が悪かったんだよ。だってオレ、君からされるのは嬉しいし、何ならもっとやって、って思う。」

「え、そうなの?」

「そだよ?だからさ、オレにもテクニックを教えてくれない?」

「テクニック?」

「そそ!いつもオレにやるみたいな、さ。コツとか技法があるんでしょ?それを習得できたら、きっと妹にも怒られずに済むと思うんだよ。ね、お願い!」

(うーん、やり方の問題じゃないと思うんだけどな……)

 

3回目

「テクニックも違うかー。」

「え?」

「前に聞いたでしょ?スキンシップのテクニックを教えてって。あれは、君の触り方が上手だからオレもされて嬉しいんだ――っていう仮説の上で尋ねたんだ。」

「う、うん。」

「けど、今日の君は、そんな特別なことをしているようにも見えなかった。ただ、オレの頭や体に優しく触れてるだけでさ……なのに、オレはすごく嬉しくって。」

「本多くん……」

「もしかして、オレが嬉しいのって、スキンシップの内容うんぬんじゃなくて、相手が君だから?」

「そうだったらうれしいけど……」

「だー、そっちのパターンか!でも、オレもそうだったら嬉しいよ。だってそれってお互いに好意がある証拠でしょ?よーし、道は開けた!その線で色々調べてみるよ!」

(色々調べるって……何をどうやって調べるんだろう?)

 

4回目

「うん、わかった。」

「わかった?」

「そ。君のおかげで確信したよ。オレは、君に触ってもらうことが好き。君じゃない他の人に触られても何てことないし、逆に君だったらどんな触り方されたって嬉しい。」

「本多くん……」

「この感情は、君に対する恋愛感情が起因してるんだろうな。」

「え……」

「ねね、今度は君のこと教えて?君がオレに触る理由、それはオレと同じ恋愛感情が起因してる?」

「えぇと……」

「…………」

「……た、たぶん?」

「たぶんっ!? だーはっは、やっぱり君って最高!たしかに答えを急ぐ必要はないよね。じゃさ、これからももっとオレのこと触って?んで、君なりにその行動の原因を探ってみてよ。」

「ふふ、うん。わかった。」

「約束っ!」

(本多くんらしい前向きな発想だな。ありがとう、本多くん!)

 

5回目

「だー、やっと着いたぁ……」

「えっ?」

「もうオレの中、色んな感情で大渋滞。嬉しいのと、焦りと、疑問とで……頭の中グルグルだよ。君の家があと100m先にあったら、辿り着く前に何かが起こっていたかもね。」

「ええっ!? 何かって何?」

「ビッグバン! なんてね。よくわからないんだけど、君に触られてると、胸の奥で何かが大きくなってきてさ。
ああ、もう爆発する! っていうギリギリのところで今日は終われたからホッとしてたりもする。怖いような、惜しいような……とにかくヘンな感覚だよ!」

「でも本多くん、楽しそうだね?」

そだねー。君といると、わからないことだらけですっごく楽しいよ。この爆発しそうな何かがいったい何なのか突き止めたいからね。君にはやめてほしくないな。」

「う、うん。」

「へへ、ありがと!」

(感謝されちゃった……でも、今後も本多くんに触っていいんだ)

 

6回目

「だー、なんとか耐えた……」

「あっ……わたし、また……」

「大丈夫だよ。それに やめないで、って言ったのはオレだし。で、今度こそわかった?君がオレに触る理由。」

「あ……」

「…………」

「ご、ごめんね。」

「……いいよ。その代わりに、これだけは許してね?」

「え――

「オレ、わかったんだ。君がオレに触れる間、ずっとあふれそうでいつか爆発しちゃいそうだった何か――
それがたぶん、これ。オレも君にもっと触れたい、っていう感情。君の何倍も、君に触れたかったんだ。
無意識のうちに、自分で我慢して、気付かないようにしてたけど……限界だったみたい。」

「本多くん……」

「はー、リセットできた! うん、もうこれで大丈夫。んじゃ、オレ帰るよ。今日はありがと!またね?」

「うん……また。」

 

7回目以降

「はぁ…… 君の探求心、すごすぎだよ。」

「あっ……つい。ごめんね?」

「いいけどさ。オレだって探求心すごいから。君、どうなっても知らないよ?」

 

2択会話

「ねね、今君がオレにしたこと全部オレがし返したらどーする?」

 うれしいかな?

   「うん、オレも。君に見つめられたり、
    触られたりするの楽しいし嬉しいよ。」

 恥ずかしいかな……

   「えっ、そういうもの?
    オレたち、恥ずかしいことしてたの?」

 

「君、すごく楽しそう。オレに触るの、好き?」

 うん、好き!

   「はは、じゃあどうぞ!好きなだけ触って?」

 あ、無意識で……

   「そっか……
    でも、他の人にも無意識でやるのはなんかなー。」

 

「ねね、今みたいなことって他の人にもしてるの?」

 本多くんだけだよ

   「そーなんだ!じゃあオレは、君の特別?」

 今みたいなこと?

   「なるほど……君にとっては特別なことでも
    なんでもないみたいだね。」

 

「どしたの?急にジッと見て……オレ、何かついてる?」

 にらめっこ!

   「……ぷっ! だー、負けた。」

 視線そらさないで?

   「う、うん。なんでだろ……ドキドキしてきた。」

 

「オレ、どうしちゃったんだろ?今、すごくドキドキしてる。」

 わたしも……

   「ホント?じゃ、おそろいだ。」

 具合が悪いの?

   「たしかに。オレのどこかが故障してるのかも?」