校内出歩きイベント 本多行編

 

観察中

本多行

(そろそろ、お昼休みも終わり。教室にもどらないと……)

「あれ、本多くん?こんなところで何しているの?」

「うんうん、観察だよ。」

「観察?誰もいないけど……」

「ほら、あそこ。2本、傘があるよね?いつも置いてあるんだ。それも同じ位置に。」

「あの青とピンクの傘?」

「そう。うちの学校は傘をしばらく置きっぱなしにすると片付けられちゃうよね?ということは、あの2本はちゃんと定期的に持ち帰られてるってこと。」

「う、うん。」

「でも、オレが見る時はいつもある。だから、観察してたんだ。昼休みに持ち主が現れるかなって。」

「で、どうだった?」

「ふふん、君も興味出てきた?でも、まだダーメ。真相にたどり着くには観察が足りてない。あ、予鈴だよ。じゃね。」

(さすが本多くん、面白いことやってるな。たしかに気になるかも……)

 

(そろそろ、お昼休みも終わり。教室にもどらないと……)

「◯◯ちゃん。こっちこっち。」

「え? 本多くん?」

「ほら、見て!」

「あ、置き傘のこと?」

「そそ、今日もあるでしょう?でもね、こないだ見たんだ。」

「えっ、持ち主?」

「そそ、同じ学年の女子だった。置き傘をしていて、1週間置きっぱなしだと片付けられちゃうから、週1で持ち帰ってるんだって。」

「そうなんだ。じゃあ、なぞは解けたね。」

「どうして?だって、傘は2本あるんだよ?もう一本の方も、法則はわかったから、しばらく観察して、仮説を立ててみるよ。」

(法則、仮説? 本多くん、すごく楽しんでるな)

 

(そろそろ、お昼休みも終わり。教室に戻らないと……あ、今日も置き傘が2本ある……)

「◯◯ちゃん。」

「あ、本多くん。置き傘、今日もあるね。」

「うん、そだねー。今日は一緒に帰れない日みたい。」

「え?」

「オレの仮説だよ。ピンクの傘の持ち主と青い傘の持ち主が、一緒に帰れる日は、傘の柄が同じ方向を向いている。きっと、部活やバイトで忙しい二人なんじゃないかな?なかなか一緒に帰れないみたい。」

「ええ、そうなの?」

「真実はわからないよ。でもさ、この仮説を立証する必要はないでしょ?オレでもそのくらいの空気は読める。」

「ふふっ、えらい。」

「ふふん、でしょ?じゃあ、君もこのことは忘れて。決定的瞬間を見ても知らんぷりだよ?」

「はーい。」

「オレにはまだまだ観察対象があるからね。また、どこかの現場で会おう!」

(本多くんの観察対象って、幅広い。昆虫や植物だけじゃないんだね……わたしも観察対象になってたりして……?)

 

颯砂くんが気になる

本多行颯砂希

(えぇと……午後の授業は教室移動だったよね)

「サッくんの筋肉ってスゴイね!」

「お、おう。まあ、トレーニングしてるからさ。」

「あ、本多くんと颯砂くんだ。なにしているの?」

「サッくんと筋肉の話してたんだ。」

「筋肉の話……?」

「行が、8種目それぞれのトレーニングの違いとか、結構本格的に聞いてくれてさ。興味あるのか?」

「うん、短距離と長距離選手の体つきって真逆でしょ?それをこの体1つに宿しているんだから。スゴイよ。」

「そ、そうかな。行、なんか褒め上手じゃん。」

「褒める?事実を言ってるだけ。ね、君もそう思うでしょう?」

「うん。いつもスゴイって思ってるよ。」

「そっか、サンキュ。なんかテンション上がってきた。今日はいい練習できそうだ。」

 

「本多くん、陸上競技にも興味があるの?」

「そうだね、競技ってよりもサッくんの挑戦に何か貢献できればって思ってるんだ。今日はモチベーションアップできたみたい。ほとんど君のおかげだけどさ。オレに何ができるか、考えてみるね。じゃ。」

(本多くんが颯砂くんの力になる?大丈夫かな……)

 

「手っ取り早いのは散髪だよ。」

「そうだとしても、どうして行が切ることになんだよ。」

「あれ、この声は…… 本多くんと颯砂くん?」

「助かった、きみからも言ってくれよ。」

「どうしたの?」

「サッくんはコンマ1秒、1ミリの戦いをしているから、髪を切れば今と同じ筋量でも記録が上がると思ってさ。」

「ええ?でも颯砂くんは髪を切りたくないみたいだけど……」

「いや、行の言ってることは正しいよ。でも、そういうことじゃなくてさ、オレはトレーニングで記録伸ばすよ。」

「そだね。気が変わったら言ってよ。オレ自分の髪切るので慣れてるから。」

「わかったよ! あ、きみも行に髪切られないように注意だよ。ははっ、じゃね。」

「……何で君の髪切るんだよ。ねえ?」

「う、うん。ほら、そろそろ午後の予鈴が鳴るよ!」

 

「サッくんのすごさ改めて知ったよ。八種競技のトレーニングって、ジレンマとの闘いなんだね。」

「うん、そうなんだ。やればいいってもんじゃないから難しい。」

(あ、この声は…… 本多くんと颯砂くんだ!)

「本多くん、また颯砂くんにムリな注文してるの……?」

「ええ? 何それ、オレそういうキャラ?」

「ははっ、別に困ってないよ。」

「あ……そうだったんだ。本多くん、ごめんね?」

「いいよ、困らせてなくても、結局助けにもなっていないし。サッくんの八種競技は、同じトレーニングでも功罪があって、全競技のプラスになることは難しい。あちらを立てればこちらが立たず。これを上手く調整して管理するなんて、もう、スポーツよりリスク管理の仕事みたい。」

「うん、ありがとう、行。すげぇ嬉しいよ。理解してくれてさ。」

「本多くんが本格的にトレーナーになったら、すごそう……」

「うん、オレもそう思う。選手ってさ、根性論より理屈が欲しくなる時あるんだ。そこまでわかってくれたなら、その上で何か行らしいアドバイスをもらいたいな。」

「うんうん、考えてみる。髪の毛切る以外でね。」

「ははっ。ああ、それ以外でよろしく! じゃあな。」

 

「筋肉量を変えずに、少しでも軽量化するのが、近道っていうことは変わらないんだけどね?」

(……本多くんが髪を切るっていうトレーニングメニューはまだ生きてるみたいだね……)

 

妹と花椿姉妹

本多行花椿みちる花椿ひかる

「ありがと~♪」

「小中学生からの女子からの応援って、本当にうれしい。」

「そなの?妹も喜ぶよ!」

(あ……本多くんとひかるさん、みちるさんの声だ)

 

「三人で何の話?」

「あ、マリィ!今ね、本多くんにファンレターもらったんだ。」

「本多くんに?」

「ヒカル、本多くんじゃなくて、妹さんでしょ?」

「そうそう、超カワイイ手紙なんだ♪」

「そっか、本多くんの妹さん、二人のファンなんだね?」

「そそ、部屋に好きなアイドルと、ピカちゃんとチルちゃんのポスター貼ってるよ。」

「あのさ、その呼び方やめて。」

「え?ピカちゃんとチルちゃん、ダメ?妹もそう呼んでるよ。」

「妹ちゃんにまでヘンな呼び方させないでよぉ!」

「ふふ、いいじゃない。妹さんがそう呼んでくれる分には。」

「え、オレは?」

「うーん。マリィはどう思う?」

「えぇと……みんなすごいニックネームだよね?」

「そう?オレは好きだけどな。」

「楽しんでるの、ダーホンだけじゃん。」

(ピカちゃん、チルちゃん、ダーホン、マリィ……か。他の人が聞いたらどう思うのかな?)

 

「マリィ!こっちこっち!」

「ん? ひかるさん、みんなもどうしたの?」

「本多くんの妹ちゃんから、ファッションの相談♪」

「『次のシーズンの流行カラーを教えて』って。本多くんの妹さん、すごくファッションに興味があるみたいね。ふふ。」

「うん、小学生の頃から、ピアスしたいとか言ってたし。」

「アハ♡ おませさ~ん♪ 将来有望じゃん。」

「そういえば、本多くんもピアスはカワイイよね。」

「ああ、これ? 当時、妹の実験台であけたんだ。」

「実験台……?」

「うん。だって、危ないでしょ?」

「ふぅん、良いお兄ちゃんなんだ?」

「妹のためにカラダ張ったの~?エライエライ、褒めてあげる!」

「そう? でもね、オレの見て一緒になるの嫌だって、結局あけなかったんだよ?」

「アハハ!マジ!? ダーホン、超ウケる~!ドンマイ!」

「がんばって、お兄ちゃん。」

(ふふっ、なんだか三人並んでるときょうだいみたい!)

 

(今日は学食で食べようかな……)

「◯◯ちゃん、今日は学食?」

「あ、本多くんも?」

「うん、チルちゃんとピカちゃんと待ち合わせ。」

「え?」

「本多くん!マリィ!
 ねえねえ、マリィも一緒するの?」

「えぇと、今ここで会ったんだ。三人で約束してたの?」

「そう。本多くんが相談があるって。何?」

「妹がさ、ダイエットにハマっちゃって、朝ごはんを食べないって言うんだ。」

「それはあまりおすすめできないかな……」

「オレが言っても全然聞かないんだ。でもチルちゃん、ピカちゃんの話なら聞くと思うからさ。」

「ひかるたちに任せて!正しいアドバイスするからさ、動画撮って妹ちゃんに見せてあげて。」

「うんうん、ありがとう。動画メッセージなんて、喜ぶよ!」

「どうせなら、ランチを食べながらなんてどう?」

「それ、いい!おいしく食べてできるダイエット方法伝授だね♪ じゃあほら、マリィも一緒に行こっ。」

「えっ、わたしも!?」

(巻き込まれちゃった……でも、本多くんの妹さんにちゃんと届くといいな)

 

 

七ツ森くんのこと

本多行七ツ森実

(今日はいい天気。屋上で休憩しよう……)

「◯◯ちゃん。」

「あ、本多くん、七ツ森くん。」

「そだ、君の意見も聞かせて。」

「大げさ。意見とかじゃなくて、ただの好き嫌いだし。」

「え、なんの話?」

「俺とダーホンの好みが色々食い違うって話。」

「そうなんだよ。ミーくんとオレって、相性悪いのかな?」

「ミーくん、か……ふふっ。改めて聞くと面白いね。」

「……笑うな。ダーホン、その呼び方なんとかしろ。」

「ミーくんはミーくんでしょ。」

「ハァ…… で、あんたの意見は?」

「『ミーくん』って可愛いと思うよ?」

「だよね。うん、君とオレは意見が合いそう。」

「あ、そ。分が悪いから俺は退散するわ。じゃ。」

「あれ、ミーくん!……行っちゃったね。」

「うん。何の話だったの?」

「ミーくんとオレの好みが真逆なんだよ。オレ、辛い物はあんまりだけどミーくんは好きでしょ?オレは昆虫大好きなのに、ミーくんは苦手。なんかさ、気が合うって思ってたからちょっと意外。」

「きっと、お互いの苦手を助ける、いいコンビなんじゃないかな。」

「うんうん、良いねそれ。今度ミーくんに言っとくよ。」

(七ツ森くん、なんて答えるかな?)

 

「◯◯ちゃん。ミーくん、見なかった?どこにもいないんだよね。休み時間、終わっちゃうのにさ。」

「うーん、見てないよ?」

「あ、そういう時こそ、オレがミーくんのことどれだけわかってるかが試されるね。」

「ふふっ、そうかも。どこだと思う?」

「そうだね……屋上、理科室…… やっぱ校舎裏だ。」

「見つけた!!」

「ほんとだ!すごい、本多くん。」

「ハァ……騒々しい。何?二人して。」

「本多くんが七ツ森くんの居場所を当てたんだよ。どうしてわかったの?」

「うんうん、オレの中でミーくんは猫。猫が好きそうな、静かでひんやりしてて……って考えたらここかなって。」

「ふふっ、猫かぁ……たしかに、七ツ森くんは猫っぽいかも?」

「そそ、そんなかんじでしょ。」

「で、用は?」

「えぇと……」

「休み時間だから、話をしようと――

(チャイム)

「終わったな。じゃ。」

「なんか、迷子のネコ探しみたいで楽しかったね。またやろう?」

(本多くん、かくれんぼみたいに楽しんでる……?)

 

「ミーくーん。」

(あれ? この声は……)

「ミーくーん、出ておいでよ。」

「本多くん!また七ツ森くん探してるの?本当の迷い猫みたいだね。」

「うん、どこかに隠れてるみたい。ヒントは君らしいからさ、探すの手伝って?」

「わたしがヒント?」

「そそ、メッセージが届いてね。君と一緒に探して、だってさ。どこだと思う?」

「そんなこと言われても…… どこかな?」

「あ、そうだ。作戦、思いついた……!」

「……負けました。」

「はい、ミーくん見つけた。」

「ふふっ、ほんとだ!本多くんの作戦通り。」

「……作戦?」

「ミーくんは猫だから、追いかけたらダメ。寂しくなれば向こうから来るってこと。」

「人をにゃんこみたいに言うな。」

「ふふっ。でも七ツ森くん、どこにいたの?」

「オレたちのこと見てたんでしょ?」

「えっ!? そうなの?」

「だって、君と会う前にメッセージが来たしさ。見てなかったら、わかんないよ。」

「何のことだか。ハイハイ、もう帰りましょ。」

「うん、三人で帰ろ!」

「ふふ、うん!」