授業中の主人公
風真玲太
1
(ふぅ……午後の授業は、眠くなっちゃうな……)
︙
「◯◯。さっきの授業、眠そうだったな?」
「えっ!風真くん、見てたの?」
「ガクってなってた。3回も。」
「……数えてたの?」
「実は俺も眠くてさ、眠気覚ましに、おまえ見てた。」
「なんでわたし?」
「おまえの真剣な顔見たら気合い入るかなって思ったらさ、眠そうな顔してた。」
「う……」
「でも、おかしくて目は覚めたよ。次、睡魔が来たら、またよろしく。」
(……眠気には注意しなきゃ!)
2
(この授業が終わったらお昼だ。もうお腹空いちゃったな……)
(グゥ~)
(お、お腹鳴っちゃった! ……けど、誰にも聞こえてなさそう?)
「◯◯、どうした。具合悪いのか?」
「あ、風真くん。どうして?」
「授業中、顔赤くして下向いてたから。」
「ええっ? 見てたの?」
「そりゃ、具合悪そうだったら、気になるだろ?」
「あ、ありがとう。平気なんだけど、ちょっと……」
「ちょっと?」
「お腹が……」
「痛いのか?」
「ううん、えーと……」
「ん? ……ああそっか、じゃあ急いで学食行くぞ。」
「え……」
「早く来いよ。」
(風真くん、察してくれた? お腹鳴っちゃったことは、黙ってようっと……)
3
「次の授業は危ない。」
「あ、風真くん。なにが危ないの?」
「学食で満足して、午後の授業だろ?絶対、睡魔がくる。」
「そうかな?今のところ大丈夫そうだけど……」
「もしもの時はこれを見ること。」
「……手紙?」
「いや、眠気覚ましの薬みたいなもん。」
男子生徒「着席ー。」
「もしもの時だ。じゃな。」
「???」
(……風真くんがくれたメモ、何が書いてあるんだろう?眠くはないけど、見ちゃおうっと)
(えぇと…… “俺を見ろ” ? ……って風真くん、こっち見て笑ってる!)
教師「風真、楽しそうだな。そんなに古文が好きか?」
「あ、はい。……すみません。」
生徒たち「あはは!」
「◯◯、ちょっと早いよ。」
「え?」
「もっと後かと思ったら、すぐ見ただろ?思わず笑っちゃったよ。」
「あ、あのメモのこと? 風真くんを見ろって、どういうことだったの?」
「面白い顔でもして、笑わせてやるつもりだったのにさ、まんまとこっちが笑っちゃったよ。おまえには負ける。」
(わたし、笑わせてないのに…… でも、おかげで助かっちゃったかも!)
ひとり暮らしのテクニック
風真玲太・御影小次郎
1
「それ、便利ですね。」
(ん?今の声は……)
「風真くんに御影先生。二人でなんのお話ですか?」
「男のひとり暮らし講座だ。」
「御影先生はひとり暮らし歴が長いからさ、裏技を教えてもらってる。」
「裏技?たとえばどんなの?」
「食パンは買ってきたら、すぐ冷凍。」
「それは基本だな。一斤買っちゃうと、食べ終わるまでに悪くなる。」
「なるほど……ひとり暮らしならではですね。」
「まずは基礎編からだな、きちんとメモっとけ?」
「はい、よろしくお願いします。」
(ふふっ。風真くん、真剣に聞いてる。ひとり暮らしって大変そうだもんね……)
「まず、服はなるべく洗濯しない。」
(ええっ!?)
2
「なるほど、画期的ですね。」
(ん?今の声は……)
「風真くん、御影先生! 男のひとり暮らし講座ですか?」
「◯◯、おまえも受講するか?今日はいかに掃除をサボるかだ。」
「えーと……大丈夫そうです。」
「御影先生、それお願いします。俺の家広すぎて、掃除が大変なんですよ。」
「まずはいかに汚さないかだ。そうすれば掃除も必要ない。掃除機かければすぐにわかるだろ?家の汚れのほとんどが、ホコリだ。」
「確かにそうですね。」
「だろ?ホコリは掃除機をかけると舞い上がる。つまり、一番の掃除は――掃除をしないことだ。」
「目からうろこですね……」
(ううーん……)
3
「なるほど、究極のおしゃれですね。」
(ん?今の声は……)
「風真くん、御影先生。今日も、男のひとり暮らし講座ですか?」
「ああ、今日で最終回。風真も卒業だ。おまえは新規受講希望か?」
「やめとけ。おまえには刺激が強すぎる。」
「刺激って……」
「ま、女子には無理だな。」
「……いったい、何を教えてもらったの?」
「寝る時は素っ裸がいいってさ。」
「ええっ!? ……それが、究極のおしゃれ?」
「『生身で勝負だ』とか言ってた。」
「ええ……? まさか、風真くんも?」
「俺はこれからもパジャマ派だ。」
(ふぅ、とりあえずよかった……のかな?)
ふたりを見る花椿姉妹
1
「マリィ、いる~?」
「あ、ひかるさん、みちるさん。」
「……あれ?今日は風真くん、一緒じゃないの?」
「ほらね。こういう日もあるの。」
「なんだよ、それ。」
「あ、風真くん。」
「ほら、来た!ひかるの勝ちでしょ?」
「ダメ、ヒカル。最初はマリィひとりだったんだから、私の勝ち。」
「おい、何言ってんだよ?」
「うん、なんのこと?」
「休み時間にマリィに会いに行くと、風真くんが現れる確率が高いって話。」
「で、今日はいないかと思ったら……現れた!」
「人を何だと思ってんだよ。……ったく。」
「え~、なんで怒ってんの?」
「まあ、ああなるところまで想定内。」
「えーと……二人は、なにか話があったの?」
「ううん、ないよ?」
(本当に風真くんをいじりに来たんだ……)
2
「……嫌な予感がする。じゃあな。」
「え、風真くん?」
「風真くん、逃げた!」
「あ、ひかるさん。」
「別に逃げてない。用が済んだだけだ。」
「あー……前にあったコト、気にしてる?ゴメンね♪」
「ふふ。私たちは、風真くんと仲良くしているマリィを見るのが好きなの。」
「そうそう♡ 風真くんと話している時のマリィってさ、カワイさが爆増するんだよね〜♪」
「……そうなのか?」
「ええ?」
「そう。」
「…………」
「あ!でもさ、風真くんだけのマリィじゃないからね!ひかるたちといる時だって、カワイさ大爆発なんだから!」
「ふふ。そう、だからひとり占めは無し。」
「わかったよ。価値のわかる者同士ってことだな。」
(仲直りしてくれたのはうれしいけど、素直に喜べないような……?)
3
「おはよう、マリィ。」
「あっ、みちるさんにひかるさん。おはよう!」
「アハ♡ 朝から三人がそろうなんて、今日も超いいことありそう♪」
「もうひとりいるけどね?」
「ふーん……」
「風真くん?」
「わかったよ。こないだ、花椿が言ってたこと。」
「マリィのカワイさ大爆発のこと?」
「ああ、それ。」
「でしょ。風真くんといる時とはまた違うの。」
「いい事教えてもらった。」
「ふふ、さすが風真くん。マリィのことに関しては、飲み込みが早い。」
(……いったい何を理解したんだろう?)
颯砂くんとの思い出
風真玲太・颯砂希
1
「◯◯。いいとこにいた。」
「颯砂くん、風真くん。二人とも、どうしたの?」
「また、玲太が昔話をねつ造してんだよ。」
「事実だ。おまえが忘れてるだけ。」
「きみは覚えてる?幼稚園の時の、コマ回し大会のこと。」
「コマ回し大会……?」
「ほんと、おまえたち何も覚えてないのな。」
「玲太が特殊なんだよ。」
「どんな大会だったっけ?」
「自分たちで色を塗ったコマを、全員で同時に回すんだ。それで、最後まで回ってた人が優勝。」
「で、最後まで回ってた玲太のコマを オレが手で止めたんだって。」
「ああ。優勝は決まってたけど、タイムもあったからさ、止まるまで見てたかったんだ。」
「なんでそんなに覚えてんの?」
「うん、すごい記憶力。」
「……ってことは、おまえも覚えてないのな。もう、いいよ。」
「行っちゃった。今度、適当に話合わせてみるか?」
(それはさすがに……でも風真くん、本当に幼い頃のことよく覚えてるなぁ)
2
「◯◯。」
「風真くん、颯砂くん。どうしたの?二人で。」
「オレ、ちょっと思い出したことあるんだ。昔のこと。」
「え、なに?」
「幼稚園の節分の時さ、オレ、鬼の役やったんだよ。覚えてない?」
「うーん、どうだったかな……」
「玲太は?」
「よーく覚えてるよ。」
「そっか、よかった。二人の共通の思い出だね?」
「颯砂、それ続きないのかよ?」
「続き? 玲太と一緒に走り回った記憶だな。楽しかったよな。」
「なに美化してんだよ。」
「え? 違うの?」
「……ったく。鬼の面かぶって、俺ばっかり追いかけてきてさ、相当怖かったんだぜ。まだ昨日のことのように思い出せるよ。」
(ふふっ。当時の二人の鬼ごっこ、きっと可愛かったんだろうな)
3
「◯◯。颯砂の謎が解けたぞ。」
「えっ、颯砂くんの謎?」
「玲太、なんだよそれ?」
「颯砂、おまえの思い出って、俺と走って楽しかったってのばっかりだろ?」
「うん、そうかも。」
「おまえは、思い出したくないことを封印してるんだ。」
「ええ?」
「どういうこと?」
「おまえ、今も幽霊とか苦手だろ?」
「う、うん。それがどうした?」
「卒園が近づいたある日、幼稚園にあった『ヌルヌルオバケ』って絵本で、おまえ大泣きしたんだ。いつも元気で無敵な颯砂がそれ以来、急におとなしくなった。」
「全然覚えてないな…… 確かに、ヌルヌルとオバケは今も得意じゃないけど……」
「おまえは、俺を追っかけまわした楽しい記憶で、『ヌルヌルオバケ』の恐怖を包み隠したんだ。」
「うんうん、なるほどな…… そう考えるとさ、今の苦手も克服できるかもな。玲太、サンキュ!」
「颯砂くんが大泣き……そんなことあったかな?」
「おまえの方はまた別の問題な。それは今度、じっくりやろう。」
(風真くん、名探偵みたい……)