文化祭会話 氷室一紀

 

出歩きイベント「サボり?」

「…………」

「氷室くん?どうかしたの?」

「 !? なんだ、君か。いや……なんか、やたらと注目されてる感じ、する。……クラスの出し物、サボってるから?」

「それはダメだよ。みんな困ってるんじゃない?」

「ハァ……めんどくさいけど、罪悪感を感じるのもナンセンスかな。わかった。自分の役目はちゃんと果たす。」

「うん、それがいいと思う!」

「アドバイスどうも。それじゃ。」

(わたしも後で、氷室くんのクラスに行ってみようかな)

 

「…………」

「氷室くん?」

「 !? ああ、君か。」

「まさか、今年もサボり?」

「いや、ちゃんとやってるし。でも、視線を感じるんだよな……」

「何か忘れてる役目があるとか?」

「そうかも。ちょっと聞きに行ってくる。」

「うん。」

女子生徒A「あー、氷室くん。行っちゃったぁ……」

女子生徒B「やっぱ、勇気を出して声かければよかったかもー。」

女子生徒A「まだ間に合うかも。追いかけてみよう!」

(もしかして……氷室くんが感じてた視線ってあの子たちの?人気者なんだなぁ)

 

クラス展示

2年目:ダンボール迷路

(御影先生プロデュースの効果か、お客さんがどんどん集まってくるな……)

「なかなか盛況。そんなに面白いわけ?」

「あっ、いらっしゃいませ!迷える子羊ちゃん。」

「なにそれ?迷ってるつもり、ないんだけど。」

「でも、せっかく来たんだから楽しんでいって?」

「……まあ、君が言うなら考えても――

「はい、1名様ごあんなーい!」

「えっ、ちょっと!まだ入るって言ってないから!」

 

「…………」

「あっ、氷室くん。どうだった?」

「驚いた。」

「え?」

「もっと、子どもだましだと思ってた。」

「がんばって研究したんだよ。」

「理不尽。本気で出られないんじゃないかってちょっと焦った…… なんなのアレ。本当に成功者いるの?」

「何人も脱出成功してるよ?」

「 …………
 ま、よくできてたよ。僕には合わなかったけど。」

「あ、どこ行くの?」

「もう一回やる。」

(相当悔しかったのかな?よし、大成功!)

 

吹奏楽

1年目:楽曲演奏「クラシック」

(もう少しで始まっちゃう。どうしよう、緊張してきた……)

「やっぱりね。」

「え、氷室くん? どうしてここに。」

「顔、真っ青。ま、そうだと思った。」

「う……」

「必要以上にあがりすぎ。君ひとりの発表じゃないんだし、もっと気楽にやったら?それに、そんな顔で演奏されたら、こっちも気が気じゃない。」

「うん、そうだよね。ありがとう。」

「べつに。」

「あ、時間……」

「うん。ここで聴いてるから。……がんばれ。」

(氷室くん…… よし、がんばろう!)

 

(良かった!初舞台、大成功みたい!)

「お疲れ様。」

「あ、氷室くん!聴いてくれた?」

「聴いた。プロでも通用するだろ、今の。」

「そうかな?」

「それくらいすごかった、ってこと。いい演奏、どうも。」

(やった!日頃の練習の成果だね!)

 

2年目:楽曲演奏「ゲームミュージック

(去年よりは少し落ち着いてるかな。でも、やっぱり緊張する……)

「いた。」

「あ、氷室くん!来てくれたんだ?」

「まあね。緊張してるの見るの、面白いし。」

「…………」

(開演ブザー)

「えっ、もう?」

「うん、開演だよ。」

「なんだ……もっと早く来ればよかった。」

「え?」

「いや、なんでもない。演奏、楽しみにしてる。」

「ありがとう!」

(よーし、がんばるぞ!)

 

(うん、去年よりいい演奏ができたかも!)

「お疲れ様。」

「あっ、氷室くん!どうだった?」

「感想言わなくても、わかってるでしょ?」

「たしかに手ごたえはあったけど……」

「うん、すごかった。演奏もよかったけど、アレンジもよくてわくわくした。」

「よかった!ありがとう!」

「こっちこそ、どうも。いい時間もらった。」

(やった!氷室くんに褒められちゃった!)

 

3年目:楽曲演奏「フォース・ハート」

(今年は落ち着いていけそう。三年間、がんばってきたおかげかな?)

「◯◯先輩。」

「あ、氷室くん。」

「……なんだ。」

「え?」

「いい顔してるじゃん。緊張和らげるつもりで来たのに、僕の出番、なさそう。」

「そんなことないよ。応援しに来てくれてうれしい。」

「あ、そ。君の演奏を聴けるのも、今年で最後か。」

「集大成を聴いてもらわないとね。」

「楽しみにしてる。」

「あ、開演だ。行ってくるね。」

「あ―― ◯◯先輩。」

「うん?」

「……いや、楽しんできて。いってらっしゃい。」

「ありがとう!」

(最後の演奏会……よし、おもいっきり楽しむぞ!)

 

(三年間で一番いい演奏ができた。よかった……!)

「◯◯先輩、お疲れさま。」

「あ、氷室くん!」

「その、すごかった……言葉が出てこないくらい。感動して泣いてる人もいた。レーイチさんも、誇らしげだったし。」

「よかった……」

「ちょっと、君まで泣かないでくれる?」

「ごめん、胸がいっぱいで……」

「……………
 じゃあ、こっち。」

「え?」

「たとえ嬉し泣きでも、その顔、誰かに見られたくない。」

「氷室くん……」

「……三年間、本当にお疲れ様。」

「うん、ありがとう。」

(三年間がんばってきて、本当によかった……)

 

園芸部

1年目:ハーブティー

(がんばって準備したけれど、みんな来てくれるかな……?)

「来たよ。」

「氷室くん!いらっしゃいませ。」

「で、なにやってるわけ?」

「ハーブを使ったお茶とクッキーが味わえるの。園芸部で育てたハーブなんだよ。」

「あ、そ。 ……愛情こもってそう。」

「もちろん、たっぷりこめてます♡」

「じゃ、それ、ちょうだい。」

「はい、喜んでー!」

「……なに、そのノリ。」

 

「どうかな?」

「……おいしい。」

「えっ、本当に?」

「嘘ついたって意味ないだろ。香りもいいし、味もいい。これ、かなりレベル高いよ。」

(やった!これは大成功かも!)

 

2年目:ハーブティー&野菜即売会
3年目:オーガニックカフェ

 

生徒会執行部

1年目:文化祭運営「雑用、連絡係」

「どうも。」

「あ、氷室くん!」

女子生徒「ねえ、ちょっと。お茶の準備お願い!」

「はい!ええっと、お茶は……」

「忙しそう。」

「そうだね、やっぱり当日は、ドタバタするよね。」

「……手伝う?」

「大丈夫、わたしの仕事だから。」

「あ、そ。」

「でも、気持ちはありがとう。」

「……どういたしまして。」

 

「よしっ……と。」

「手際いいね。」

「えへっ、ありがとう。 お茶、お待たせしましたー!」

「好評だったね。君の淹れたお茶。」

「うん、よかった。あ、氷室くんもどう?」

「もうもらってる。確かにおいしかった。才能あるんじゃない?」

「ありがとう。でも、他のこともがんばらなくっちゃ!」

「ヤル気満々だな。さすが。」

(やった!氷室くんに褒められちゃった!)

 

2年目:文化祭運営「資材担当」
3年目:文化祭運営「フロア担当」

 

手芸部

1年目:カジュアルウェア

(ギリギリ仕上がったけど、いよいよランウェイ…… 緊張しちゃうな……)

「モデルデビュー、おめでとう。」

「あ、氷室くん。もう、プレッシャーかけないで……」

「堂々としてればいいんじゃない?……サマになってるし。」

「え?」

「その服、なかなか上手くできてるし みんなに自慢するつもりで歩けば?」

「ふふっ、そうだね。ありがとう。」

「別に?事実を言っただけだし。」

「あ、始まっちゃう。」

「じゃ、くれぐれも足元気をつけて。見てるから。」

「うん!」

(氷室くんと話して、少し緊張がほぐれたかも。……よし、がんばろう!)

 

(よかった、なんとか成功したみたい!)

「お疲れ様。」

「あ、氷室くん!見ててくれた?」

「見てた。サマになってた。」

(やったね、大成功!)

 

2年目:パーティードレス

(初めて作ったドレス。自信はあるつもりだけど……)

「へえ……」

「あっ、氷室くん。見に来てくれたの?」

「なに?見に来ちゃ悪いわけ?」

「ううん!うれしいよ。」

「あ、そ。 …………」

「どうしたの?」

「……似合ってる。」

「え?」

「二度は言わない! ほら、始まるよ!行けば?」

「う、うん……!」

(似合ってるって言ってくれたんだよね?よし、胸を張っていこう……!)

 

よかった、なんとか成功したみたい!)

お疲れ様。きれいだった。」

「本当に?ありがとう!」

「どう?観客の視線、釘付けにした感じ。ぜひ、そっち側の感想聞かせて。」

(やったぁ! 大成功!)

 

3年目:ウエディングドレス

(今年はウエディングドレス。これで最後なんだ……ゼッタイ成功させなきゃ!)

「あ……」

「あっ、氷室くん。見に来てくれたの?」

「……うん。」

「今年はね、ウエディングドレスを作ったんだ。どうかな?」

「どうかな、って……正直、全然、面白くないよ。」

「えっ!?」

「僕は……まだ見たくなかった。」

(まだ……?)

「あ、始まる……それじゃ、いってくるね?」

「……何これ。この、花嫁送り出す感じ。」

「氷室くん……?」

「なんでもない。……ここで、待ってるから。」

(氷室くん、どうしたんだろう?でも最後の大舞台、しっかりやり遂げるぞ!)


(やったー! 大成功!!)

「おかえり。」

「あっ、氷室くん!どうだった?」

「……ま、なかなかいいステージだったんじゃない?」

「それだけ……?」

「それ以上を言っていいの?本当は、君の花嫁姿なんか、誰にも見せたくなかったとか。送り出す時、すっごくモヤモヤしたし何なら観客がゼロだったらいいのにって思ってたこととか。」

「氷室くん……」

「……ハァ。認めるよ、すごくキレイだったし、ランウェイもサマになってた。もし次があるとすれば、新郎役、立候補させてもらう。」

「ふふっ、ぜひ!」

「とにかく、お疲れ様。」

(三年間、手芸部がんばってきて本当によかった……!)

 

ローズクイーン

「どうも。」

「あ、氷室くん!」

「まさか、君がローズクイーンになるとはね。一応、おめでとうって言っとく。」

「ありがとう!」

「…………」

「どうしたの?」

「いや、ちょっと……君を遠く感じて。」

「えっ。」

「君がみんなから認められるのはいいことなんだろうけど……僕だけが知ってればいいっていう独占欲もある。我ながら身勝手。」

「氷室くん……」

「ま、何はともあれめでたいことだし、僕の感傷は気にしないで。本当におめでとう。」