喫茶店会話 柊夜ノ介

 

好きなテレビ番組について

「普段はどんなテレビを観てるの?」

「子どもの頃から。テレビはあまり。」

「そ、そうなんだ。」

「普通は学校でそういう話をするんでしょうけど、それほど学校にも居なかったからかな。」

「……そっか。」

「すみません。そんな顔させたいわけじゃないのに。」

「大変だったんだね……」

「……それなら、あなたがおすすめの番組を今度教えて?それを僕のお気に入り番組にするよ。」

(これは責任重大だ……!)

 

好きな食べ物について

「好きな食べ物ってなに?」

「食べ物ですか。ポンと浮かぶのは麩菓子。あれは大好きです。」

「麩菓子って、あの駄菓子の?」

「ええ。ただ食べ過ぎてしまうんです。いつも1本だけと決めているのに、悪魔的な魅力です。」

「ふふっ、柊くんと麩菓子、なんか面白い組み合わせかも。」

「そうですか?油断していると、一袋なくなってる。危険ですよ。」

「フワッと軽いから、どんどん食べちゃうのわかる。」

「ええ……ふわサク食感と ジュワッと溶け出す優しい甘さが幸せ過ぎて。それに緑茶とも合います。まったく、人を駄目にする。まさに悪魔的な食べ物です。」

(ふふっ! 柊くん、本当に好きなんだね)

 

好きなスポーツについて

「スポーツって、何かやってる?」

「競技としての運動は経験ないですね。基礎体力づくりのトレーニングなら……といっても稽古とセットですが。」

「役者さんは体力第一って言うもんね。」

「ええ。演目によっては、殺陣もあるから筋力もいるんですよ。」

「殺陣かぁ……」

「興味がある?」

「そんな。ただ、かっこいいなって思うよ。」

「その思いがあれば大丈夫。いつでもどうぞ。入団申込書を用意して待ってます。」

(……あれ?)

 

よく聴く音楽について

「柊くんは音楽とか聴く?何か好きなのある?」

「ええ、音楽は好きです。でもジャンルにこだわりはないかな。気に入った旋律があれば。」

「そっか、どんな曲がお気に入り?」

「歌謡曲、演歌、ロック、何でも。あ、ラップというジャンルはちょっと僕には難しいかな。劇団員に勧められて、聴いてはみたんですけどね。」

「ふふっ、確かに柊くんがラップ好きだと、意外かも?」

「あ、今 僕とラップのミスマッチ加減で、笑いましたね。」

「えぇと、ごめんなさい。」

「いいんですよ。でもね、ミスマッチから何かが生まれるかもしれませんよ?」

(柊くんは、ラップに興味あり……と)

 

趣味について

「柊くんの趣味ってなに?」

「掃除って言ったら笑いますか?」

「ううん。お掃除が趣味なんて、見習いたい!」

「いいえ、褒められたものじゃありません。正確には掃除グッズの収集。ついつい買ってしまうだけです。」

「そっか、でも面白そう。」

「ええ、楽しいし気持ちいいです。汚れがパッと落ちたり、キレイに片付いたりね。」

「柊くん、家庭的なんだね?」

「あ、最近気になっているのは、お掃除ロボットです。あれは邪道です。」

掃除ロボットと柊くんのお掃除代決……気になるかも)

 

学校について

「柊くんって中学生の頃、どんな風だった?」

「今とはある意味別人でした。劇団の中という、狭い世界だけで生きていたから。」

「劇団で全国を回っていたんだもんね。本当にすごいと思う。」

「狭い箱の中で、その箱ごと全国に運ばれていた って感じかな? あ。でもそのおけげで、各地の特産品には少し詳しいかもしれません。楽屋見舞いの差し入れや、ご贔屓さまからの頂きものでね。」

「へぇ!いろんなものがありそうだなぁ。」

「当時の僕には、難しい味が多かったかな?」

(柊くんが生きてきた世界、わたしには想像できないな……)

 

将来の夢について

「柊くんの将来の夢って、どんなの?」

「劇団のことは別にして?」

「うん、柊くん個人の夢。」

「はば学での学校生活自体が、僕が夢見たものですよ。」

「えっ、学校生活が夢?」

「同じ学校で、あなたをはじめ友だちと一緒に入学から卒業までを過ごせる。夢のようです。それとは別に、劇団はばたきを軌道に乗せて市民に長く愛される劇団にする。これもやはり僕個人としての夢でもあります。」

「うん、どっちの夢も柊くんなら叶えられるよ。」

「あなたが言うとそんな気がしてくるから困ります。険しい道なんで、簡単には辿り着けませんよ。」

(座長って、やっぱり大変なんだな……)

 

異性の好みについて

「柊くんの好きな女子のタイプってどういう感じ?」

「難しいですね。これまでは考えたことすらなかった。」

「そっか……」

「物心ついた頃には劇団の中で、大人たちに混ざってましたから。同世代の女子と話をした記憶すらない。」

「今は学校にたくさん女子がいるよ?」

「そうですね。はば学の女子生徒の皆さんは、特殊な僕という存在を認めてくれる。とても寛容で優しい。僕は、そんな皆さんが大好きです。」

「えぇと、つまり……はば学の女子全員がタイプってこと?」

「ええ。ですから、あなたもですよ。」

(喜んでいいんだよね……?)

 

恋愛について

「柊くんは、恋愛ってどう思う?」

「僕の手には余るもの……かな。」

「手に余る?」

「ええ。でも父には面白く見えてるみたいです。芸に深みが出たとか?笑いながら酒の肴にされてます。」

「ふふっ。」

「あなたのことですよ?」

「……ん?」

「これだから、あなたって人は。手に余って仕方がない……」

(???)

 

告白未遂

「◯◯さん。」

「うん?」

「以前に『恋愛について』どう考えてるかって、言ってましたよね。あの後、僕なりに考えてます。……今も。」

「柊くん……」

「僕はそれこそ物心のつく前から、舞台で愛や恋などを語ってきました。でも、どれも僕の気持ちとは関係ないし、僕の言葉でもない。」

「うん。」

「でも、そのセリフやストーリーは、しっかり頭にしみ込んでいて邪魔します。いざ、あなたへ向けて語ろうとすると、どこかで聞いた言葉のように思えてくる。それでは、嫌なんです……」

「えぇと……」

「だから、本来の僕の言葉で伝えられているかわからない。でも、聞いてくれますか?」

「あの……わたしは、柊くんが恋愛についてどう思ってるのかなって聞いただけだよ?」

「え? ……まさか、僕の早とちり?」

「なんか、変なこと聞いちゃってごめんなさい……」

「そ、そうですか。……なるほど。あなたという人を僕はまだわかってない。
 ふぅ……危うくとんでもないことを言うとこでした。」

(柊くん……?恋愛についてちゃんと考えてくれたみたい。でも、とんでもないことって??)

 

柊・氷室・御影グループ

御影先生について

「最近、御影先生とよく話しているね。」

「ええ、丁寧に僕の話を聞いてくださいます。僕の生い立ち、そして今の立場。なかなか、説明するのが難しいシーンの連続です。でも、御影先生はスッと理解してくださる。」

「御影先生って、聞き上手そう。」

「そうだね。でも、それだけじゃないんですよ?」

「?」

「僕にはわかります。御影先生にも、僕以上の複雑なお立場があるのでしょう。もちろん、何も話してくれませんけどね? あなたには?」

「わたし?」

「僕には話さなくても、あなたになら、って思ったけど……」

「えぇと……」

「ま、詮索はやめておきましょう。御影先生にご自身の話してもらえるよう、僕が成長したいね。」

(柊くんと御影先生は、わかり合ってるんだな……素敵な関係)

 

柊くんについて

「最近、柊くんの周りがにぎやかだよね。」

「ええ。自分でも少し戸惑っています。僕はずっと劇団生活で大人に囲まれて過ごしてきました。ですので同年代との接し方がわからなかった。でもイノリ君や御影先生のおかげで僕の世界は変わりました。」

「えっ、御影先生は同年代じゃないけど……」

「失礼。御影先生も大人でしたね。」

「ふふっ、たしかに御影先生って時々、高校生みたいだもんね。」

「ええ、自然に間違えてしまうほど。逆にイノリ君は大人びている。でも、小さい頃から僕の周りにいてくれた大人とは全然違います。」

「なんか、特別な三人だね。」

「4人でしょ?」

「え?」

「あなたがいてくれなければ、イノリ君の独擅場だ。あなたがいて、僕の周りは奇跡のバランスで保たれている。だから、いつもにぎやかなんだ。」

「えぇと、そうなの?」

「ええ、このまま楽しく過ごせたら幸せですね……」

(柊くんが、このままはば学生活を楽しんでくれるとうれしいな……)

 

氷室くんについて

「最近、氷室くんと仲が良いね?」

「あなたの目にはそう見えますか。イノリ君のおかげですね。」

「氷室くんの?」

「そう。イノリ君は学年こそ1つ下ですが、僕よりずっと世間を知っている。大人です。」

「氷室くんが大人?」

「ええ。イノリ君がいるとなぜか、会話が盛り上がったりするでしょ。イノリ君が話題提供したり、わざと誰かの琴線に触れて、熱くさせたり。」

「そういえば……」

「でしょ?彼は大人です。でも、悪く言うと趣味が悪い大人だ。」

「ええ?」

「相手が熱くなってくると、嬉しそうに新たな薪をくべたりする。それをいとも簡単にやってる。面白くて怖い人だ。」

(逆に氷室くんは柊くんのこと、どう思ってるのかな?)

 

男友だちだけで話す話題って?

「氷室くんや御影先生といつもどんな話をしてるの?」

「ん? うーん……」

「……あれ?」

「あなたがいない時ってことですよね?……変わらないな。」

「そっか。」

「ガッカリしてます?」

「うーん、いつもと違うのかなって思ってちょっと期待はしちゃったかも?」

「変わらないけど、きっとあなたならこう言うだろう、みたいな話で盛り上がったりはしますよ。例えば……バーベキューについて、御影先生が、あなたは肉より野菜が好きそうだと言うと――イノリ君は、マシュマロ焼きに決まってる、とかね。」

「ふふっ、そうなんだ。柊くんは?」

「僕は、あなたなら焼きそばだと思うって答えました。そしたら、それは自分のことだろって、すごい勢いで返されましたが……」

(ふふっ、楽しそう。三人の会話聞いてみたいかも……)

 

わたしの存在について

「わたしって、柊くんや氷室くん、御影先生にとってどんな存在かな?」

「ん?どうかしましたか?」

「ううん。ちょっと、気になって……女子ひとりだし。」

「……そうですか、ごめんね。」

「えっ、どうして柊くんが謝るの?」

「あなたにそんな質問をさせてしまったこと。誰かに何か言われたのか、あなたが何か感じたのか……どちらにしても、良い思いじゃない。」

「ううん、なんとなく聞いただけだから。」

「そうですか?じゃあ、僕も何となく思ってる事です。僕たちは、あなたがいることで、教師に集められた難しい生徒から、好きで集まった仲間になれる。」

「そんなこと……」

「僕の何となく思ってることです。……でも、出来が良い分析だと思ってますよ?」

(わたしがいて初めて仲間になれる?そんな事考えたことなかったよ……)

 

グループの絆について

「わたしと柊くん、氷室くんと御影先生って、これからもずっと一緒かな?」

「どういうことです?」

「えぇと、柊くんは一緒にいたいって思う?」

「ええ、もちろん。あなたに丸投げする気はないですけど、でもあなた次第ですね。」

「わたし次第なの……?」

「そう……でもね、意外と僕たちの絆は強いとも思ってますから、そこは安心してください。」

「う、うん。」

「あなたが乱暴に『解散!』って言っても、意外としぶといかもしれない。」

「えっ?そんな事、言わないよ!」

「冗談です。でもね、僕たちは年齢も性別も部活も趣味も全く違うのに、自然と集まった。不思議ですよね。理由は僕にもわかりません。わからないものは壊すのも難しい。」

「うん。確かに不思議なメンバーだよね。」

「あなたを筆頭にね。ですので、僕たちの絆はしぶといかもしれない。覚悟できてますか?」

(柊くんは、氷室くんと御影先生 それからわたしと一緒にいること、気に入ってくれてるみたい。うれしいな……)

 

ちょっとドキドキしてる……

(あれ?どうしたんだろう、わたし。すごくドキドキして……)

「顔が赤いですよ。具合が悪い?ちょっと休もう。」

「ううん、たぶんそういうのじゃないと思う。」

「ん? そういう、とは?」

「柊くんと……二人きりなんだなって思ったら、急に。」

「えっ。 ああ、そうですか……ありがとう。」

「え?」

「一緒にいてドキドキしてもらえるなんて、役者冥利に尽きますよ。それに、僕も同じですから。」

「柊くんも?」

「ええ、あなたといると気が抜けません。ドキドキとは少し違うかもしれないけど。」

「……そうなの?」

「そんな目で見られては……あ。
 ふぅ……いえ、ドキドキで合っていたようです。」

「えっ?」

「二人でドキドキしていれば、どちらかが心配する必要もありませんね。」

(柊くんも、わたしと一緒にいるとドキドキするの……?)

 

柊くんを見つめる

「…………」

「何か?」

「柊くんの顔、ちゃんと見てみようって思って。」

「どうぞ、かまいませんよ。僕の目の中に映るあなたは楽しそう?」

「え?」

「僕が見ているあなたはいつも楽しそうで可愛らしい。だから、あなたにも見せてあげたいんだ。ほら、よく覗いてみてください。」

「えぇと……なんだか恥ずかしくなってきた……」

「はい、僕の勝ち。」

(ま、負けた……)