ときめき会話 森林公園 風真玲太
森林公園
並木道(花見)
「桜を見てるとさ、なんか色々思い出す。」
「小学校の入学式の日?」
「それさ、どういう気持ちで言ってんの?」
「え?」
「おまえがそんな昔のこと覚えてるわけないじゃん。
ふぅ。わりぃ。まあ、そんなところもおまえだしな。」
「ごめんなさい。わたしなにも考えずに……」
「いいって。でもな、俺は覚えてんだぜ。小さいおまえは、おどおどしてて、同じクラスになったその日から、毎日一緒に帰ってさ。」
「うん。風真くんにいつも元気をもらってた。」
「へー、ちょっとは覚えてんだな?ゼロかと思った。」
「もう。でも、ありがとう。」
「お、おう。素直でよろしい。ちゃんと感謝してねー。これから一日一回、俺に感謝すること。」
(風真くん、昔からわたしを気にしてくれてたんだ……うれしいな)
ホタルの住処(春)
「ここの噂聞いたことあるだろ?」
「全部吐き出して、楽になっちゃえば?」
「楽ってなんだよ。……たく、どっかのお気楽さんとは違うんだ。いいか、俺はおまえとの会話は結構、大切にしてんだよ。その場の勢いとか『ぶっちゃけ』みたいなのはしたくねぇの。」
「ごめんなさい……わたし、いい加減なこと言っちゃって。」
「ふぅ。まぁ、おまえにはわかんないだろうな?でも……そうだな、ちょっと嬉しくもある。」
「え?」
「小さい頃のおまえはもっと縮こまってたから、俺のいない間に少し、変わったんだなって。」
「風真くん?」
「いいんだ。おまえがいつも元気でいてくれることは、俺の願いでもある。でも、あれだ、ほら、そんなちょっとした変化でもさ、俺は近くで見てたかった。」
「風真くん……」
「これからもお互い少しずつ変わってくんだろうけどさ。ずっと一緒にいて、気が付かないのがベストかもな?」
(風真くん、わたしのこといつも気にかけてくれてるんだ……うれしいな)
ホタルの住処(夏)
「…………
ちょっと静かにしててみようぜ。」
「ワタシハココロノコエデス。」
「やば、聞こえてきた、おまえの心の声。」
「ふふっ、なんて言ってた?」
「なんか、自己紹介してたぞ。マジメっていうか、マヌケだな?」
「えぇ……」
「いいじゃん、心の声もおまえらしくて。なあ、続き頼むよ。」
「もう、言いません。」
「わりぃ。でも、きっと本当におまえの心の声が聞こえてきても、普通に会話できそうだよ、俺。」
「風真くんの心の声は?」
「ちょっと待て。急に変なフリすんなよ……
……オレハココロノコエデス。」
「ふふっ、風真くんも自己紹介からだね?」
「初対面の設定だしさ。俺たち、くそ真面目なとこもいっしょだな?」
(風真くんの心の声か……聞いてみたいような、みたくないような)
ホタルの住処(秋)
「風が少し冷たくなってきたな?」
「人肌恋しい季節っていうもんね?」
「おまえさ、言ってる意味わかってんの?」
「えっと……」
「『えっと……』じゃねぇんだよ。いいか、そんなこと、絶対人前で言うなよ。わかったか?」
「う、うん。」
「なら……ほら。」
「ほら?」
「おまえが言ったんだろ?人肌恋しいって。だから、ほら、手。」
「ふふっ、うん、ありがとう。」
「ふぅ、やっぱり、この季節いいな……」
「へー、風真くん、秋が好きなんだね?」
「なんで!? おい、まさか聞こえてきたのか?心の声ってやつ。」
(えっと……完全にしゃべってたよ)
ホタルの住処(冬)
「ここ、なんか定期的に来たくなる。」
「何かに導かれているのかも。」
「ちょっと待て、まさかとは思うけどさ、おまえ聞こえてんのか?」
「え? 何が?」
「何って、ほら、俺の声?」
「うん、聞こえてるけど。」
「また、ズレてきてる。普通の声が聞こえんのは当たり前。聴力の確認じゃねぇの。ほら、相手の心の声が聞こえるんだろ?ここ。」
「……ううん。…………聞こえないよ?」
「ならいいけど。おまえにだけ聞こえてたら、フェアじゃない。
……これからも俺たちはずっと一緒な。」
「えっ! 風真くん、今聞こえたかも。」
「ハハッ、悪い。おまえが嘘ついてないことは確認できた。」
「え? さっきのは?」
「腹話術。イギリスでは腹話術人形のコレクションが盛んでさ、少し習ったんだ。」
「もう、びっくりしたよ。」
「ごめん、でも満点リアクションだった。」
(さっき、風真くん、ずっと一緒って言ってたよね?)
植物園
「イギリスもガーデニングは盛んだったな。」
「風真くん、お庭造りもできるの?」
「なんでも屋みたいに言うな。」
「え?」
「あのな、アンティークとか骨董って、扱う品の幅を広くするためには、それだけ知識も必要ってだけなんだ。」
「うん、風真くんなら、今でも立派にアンティークのお仕事ができそう。」
「やればできるかもな。やりたいかは別。」
「風真くん?」
「俺はイギリス式庭園も日本庭園も両方好きで、どっちの良さも俺なりにわかってるつもり。でもさ、それって薄っぺらくないか?」
「え?」
「古今東西、洋の東西を問わず……父さんの口癖。けど、一つのことに没頭するのも大切だろ?俺、こっち来てさ、そんなことばかり考えてる。」
「風真くんが薄っぺらいなんてことないよ。なんでも知ってて何でもできる、本当にすごいと思う。」
「そっか……サンキュ。おまえが、すごいって思ってくれれば、何でもいい気がしてくるから不思議だな。」
(風真くん悩んでいるみたい……)
博物館:常設展
「はばたき市の長い歴史の中で、俺たちの先祖もこんな感じで会ってたりしてな?」
「一緒にはばたき城で暮らしていたかも?」
「そうだよな。今こうやって話しているけど、何百年前にも先祖同士がこんなくだらない会話してたりな?」
「ふふっ、面白い。」
「ああ、きっとその先祖ってのも、絶妙にズレてるやつで、俺の先祖を困らせてたとか?」
「え? わたし風真くんを困らせてる?」
「いや、困るっていうか……それがいいっていうか、ほら、あれだ。」
「何か困ってる?」
「……ご先祖様たちもきっとこんな感じだったんだろうって言ってんの。はぁ、このスパイラル、俺も断ち切れる気がしないな……」
(えぇと……どういうことかな?)
温水プール
「ウォータースライダーの楽しさはわかった。」
「最後のドボンがいいよね。」
「色々と運命的な俺たちでもさ、見解の相違ってあんのな。」
「え? 風真くんだめ?ドボン。」
「怖いんじゃないぞ。なんか雑に放り出される感じがいやだ。」
「ふふっ、風真くんは丁寧に扱われてきたからね?」
「なにぃ?言ってくれるね。まあ、おまえが何と言っても、いやなもんは嫌だけどな。」
「そっか……二人乗り浮き輪で滑るの楽しそうなのにな?」
「おい!それをもっと早く言えよ。 今までなんで気が付かなかった!」
「え?」
「次ソレ、行くぞ! いいか?二人乗りは不安定な可能性、大だ。しっかり俺につかまってろよ!」
(…………)
スケート場
ミニスカート追加コメント
「今日はいつも以上に気を付けろよ。ただでさえ、見えそうなんだ。」
「えっ、見えてる!?」
「いや、見えてないよ!ただガードするにも限界があんだ。」
「ウィンタースポーツはなぜかテンション上がるな。」
「いいな、風真くんは上手で。」
「そうか、ごめん、なんか悪かったな。」
「どうしたの?」
「いや、俺、ちゃんと教えてなかったかも。」
「えっ?」
「ベタだけど、おまえがグラグラしてくれると、手つなぎやすいっていうかさ。おまえがそんなに上手くなりたいんなら、これからはちゃんと教えるよ。」
「上手になっても手をつないでシャーって滑ればいいと思うけど。」
「まあそうなんだけど、違うんだよな…… 頼られ感がなぁ……」
「風真くん?」
「OK!覚悟決めた。ほら、手かせよ。」
(あれ?なんか、いつもと変わらないな……)
フリーマーケット
「よし、たまにはこういう場でおまえのセンスをチェックだな。」
「わかった、本気出す。」
「マジか?お手柔らかに頼む。」
「絶対、風真くんに喜んでもらうんだ!」
「なんか俺、確実に変なスイッチ押したな……」
︙
「ごめんなさい、なかなか決められない。風真くんの欲しいもの、難しいよ。」
「ありがとな。」
「え?」
「俺のこと一所懸命考えてるおまえ見てるだけで、なんか、もう十分。」
「え? でも、まだ決められてないよ。」
「普段色んな品物見ているからさ、俺が欲しいものって、自分でもわかんないくらいだよ。」
「そっか……」
「そんな顔すんなって。でもさ、おかげでちょっとわかった。おまえが選んでくれれば、なんでもいいって。」
(風真くん……)