日常のひとコマ 氷室一紀

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クレーンゲームの練習

「あ、氷室くん。今日もこれから海行くの?」

「いや、今日はゲームセンタ―― じゃなくて、うん、海。来るんでしょ?」

「あ、うん!」

「氷室くん、さっき『ゲームセンター』って言いかけてたけど、行く予定だったの?」

「聞こえてたんだ……まあ、そう。ちょっと練習しようか悩んでたから。」

「練習?」

「クレーンゲームの景品を、一発で取れるようになるための練習。」

「えっ……」

「前に君と行った時、悔しい思いしたから。」

(氷室くん、そんなに悔しかったんだ……)

 

サーフィンのイベント

「どうも。」

「あ、氷室くん。今、帰り?」

「うん。海寄ってくけど、君もどう?」

「うん、ぜひ!」

「氷室くん、もうサーフィンのエキシビションには参加しないの?」

「ああ……そういえば君も見に来てたね、前回の。」

「うん。すっごくカッコよかった!」

「……どうも。ま、僕が参加することで、少しでもイベントが盛り上がるなら出場するかな。会長にもお礼したいし。」

「会長って……」

「あのイベントの主催者。商店会長もやってる人なんだ。そして、僕をサーフィンに誘ってくれた人。」

「へえ……そうなんだ!」

「うん。会長のおかげで、今の僕がある。サーフィンがなかったら、全く違った自分になってる気がするし。本当、感謝してるんだ。」

(氷室くん、商店会長さんに深い恩を感じてるんだ……素敵だな)

 

気になる器用さ

「氷室くん。今、帰り?」

「うん。海寄ってくけど。」

「あ、もしかしてサーフィン?見に行ってもいいかな?」

「……お好きにどうぞ。」

(氷室くんは本当にサーフィンが上手だなぁ…)

「……? なに。」

(そういえば、前にベースも弾いてたよね。運動神経だけじゃなくて、手先も器用なのかも……?)

「何……?ジッと人の腕なんか見てさ。」

「あ、ごめんね。前に、ライブハウスに行った時のことを思い出してたの。」

「うん……それで?」

「氷室くん、バンドマンの人からベースを借りて弾いてたでしょ?」

「ああ、そんなこともあったっけ。」

「だから氷室くんって、手先も器用なのかなって。」

「手先 “も” ……ってどういう意味?」

「サーフィンもできて、ベースも弾けて勉強もできるでしょ?だから苦手なこと、何もなさそう。」

「なわけないでしょ。たまたま君が、得意なことやってる僕しか見てないだけ。」

「そうなの……?じゃあ、氷室くんの不得意なことって――

「教えないよ。」

「ええ?じゃあヒント――

「教えない。」

(うう、気になる……)

 

修学旅行が心配?

「あ、氷室くん。今帰り?」

「いや、今日は海行く。良い波来てそうだから。 ……君も来る?」

「君はもうすぐ修学旅行か。」

「あ、うん。氷室くんも来年行けるよ?」

「言われなくてもわかってるし。ていうか、そうじゃなくて――
 ……君が羽目を外さないか、心配なだけ。」

「もう。大丈夫だよ。」

「たとえ、君が平気でも、他のクラスメイトはわからない。巻き込まれて、廊下で立たされないように。」

「はーい。」

「……あと、気が向いたら、連絡して。」

「えっ? 連絡って……」

「連絡とは、メールや電話のこと。話題なんて、山ほどあるだろ。……ま、無理強いはしないけど。あくまで気が向いたらでいいから。」

「うん、わかった!」

「……マナーモード、切っておこう。」

(今から???)

 

チョコへの不器用なお礼

(……あれ?氷室くんからメッセージだ。 “話したいんだけど時間ある?” だって……)

(海から上がってきてだいぶ時間経つけど……氷室くん、ぜんぜん話してくれないな……)

「あ、うん……その、急に呼び出してごめん。……チョコ、おいしかった。」

「えっ?」

「二度も言わせないで。バレンタインにチョコ、くれただろ?あれ、おいしかったから! 以上。」

「あ! 良かった。がんばったから。……もしかして、話ってそれ?」

「……悪い?」

「ううん!」

「で……他のヤツにも、あげたの?手作りチョコ。」

「手作りは、氷室くんだけだよ?」

「あ、そ。味わって食べた甲斐、あった。」

「また作ろうか?」

「そうほいほい作られても、複雑なんだけど……あのタイミングでもらえるから嬉しいものでしょ。」

「バレンタインってこと?」

「まあ……そう。だから、来年も……」

「ん?」

「なんでもない!良い波来そう、いってくる!」

(氷室くん……?)

 

ビリになってごめん

(氷室くん、いなかったな。二人三脚のこと、謝りたかったのに……
 あ、もしかしたら……)

「……で、何? わざわざここまで来て。」

「あ……体育祭のこと謝りたくて。ごめんなさい。二人三脚、ビリになっちゃって。」

「なんだ、そんなことか。 ま、いいよ。君と組むって決めたの、僕だし。」

「怒ってない?」

「そこまで子どもじゃない。……ただ。ちょっと、自分の身体能力疑った。実は運動できないんじゃないか……って。 だから今日、普通にサーフィンできて安心した。」

「やっぱりわたしのせいだよね。」

「そこは否定しない。」

「次があったら、がんばるね!」

「次って……まあ、好きにしたら?」

「うん!」

 

泳ぎ方のレッスン

「あ、氷室くん。今帰り?」

「ああ、君か。今日はこれから海に行くつもり。……よかったら、来る?」

「うん……!」

「あのさ、少しは泳ぎの練習、したら?」

「え……」

「前にプール行った時、泳ぎ、得意じゃなさそうだったから。海、気持ち良いのにもったいない。なんなら教えるけど?」

「本当?」

「君にヤル気があれば、ね。僕の指導、厳しいから。」

「……お手柔らかにお願いします。」

「は? 泳げるようになりたくないの?」

「そうじゃないけど……」

「なら、お手柔らかになんて甘えたこと、言ってる場合じゃないだろ。だいたい、海って危険だってわかってる?波にさらわれることだってあるし。中途半端に泳げたら、油断する。だから、しっかり泳げるようになったほうがいい。」

「わ、わかった……がんばります。」

「よろしい。有言実行、期待してるから。」

 

好きなタイプを聞いた理由

(あ、氷室くんだ!)

(……あ、行っちゃった。よし、追いかけてみよっと!)

「……それで本当にここまで来たの?君って暇だね。」

「う……」

「でも、ちょうど良かったかも。僕も聞きたいことあったし。」

「え、なに?」

「……この前、好きなタイプについて聞いたでしょ?あれは、なんで?」

「ええっと……あの時も言ったけど、単なる興味だよ?」

「それ以外、まったく意図はなし?」

「う、うん……」

「……あ、そ。なら、いい。」

「氷室くん?」

「べつに。ちょっと気になっただけ。」

「どうして?」

「理由、必要なわけ?君だって、理由なく好きなタイプについて聞いただろ?」

「そうだけど……」

「いろいろ思い悩んだ自分が馬鹿みたいだ。」

(氷室くん……あの質問で、悩ませちゃってたんだ……)

 

寂しくなるバイト先

「◯◯先輩。」

「あ、氷室くん。どうかした?」

「あのさ、このあと時間……あるよね。バイト、辞めたんだし。」

「あ……う、うん。」

「ちょっと付き合ってくれない?」

「仕事、嫌になった?」

「あ……ううん、そうじゃないけど。」

「じゃあ、なんで―― ……や、なんでもない。責めたいわけじゃないから。人それぞれ、色んな事情、あるだろうし。」

「うん……ごめんね。」

「べつに。 少し……寂しくなるなとは思ったけど。」

「えっ。」

「ま、だからといって、どうってわけじゃないけど……君を止める権利ないし。……バイト先で顔見れなくても、学校で会えるし。」

「うん。」

「ま、それなりに楽しかったよ。今までどうも。」

(氷室くん……)

 

体調管理も仕事のひとつ

「あ、氷室くん。お疲れ様。もう帰る?」

「うん、海寄ってくけど。」

「じゃあ見に行っていい?」

「え……いいけど……」

「やった!」

「次のシフト、出勤やめといたら?」

「えっ。どうして?」

「やっぱ自覚ないんだ。顔に疲れ、出てる。」

「う……」

「体調管理も、仕事のうち。そんな顔した人と一緒に働きたくないし、急に倒れられたりしたら、それこそ迷惑。」

「そうだよね……ごめんね。」

「べつに。今倒れたわけじゃないんだから、謝る必要ないでしょ。勉強に運動に遊びに……色々優先させたいことがあるのはわかるけど。それと同じくらい……いや、それ以上に休むことが大事ってことは君もわかってるでしょ。」

「うん。」

「となれば、こうしていられないね。もう、帰ろう。」

「え、でも……」

「またすぐ来られるでしょ。君の体が一番だってこと、肝に銘じて。」

「あ……うん。ありがとう、氷室くん。」

 

楽しいアルバイト

「あ、氷室くん、お疲れ様。もうあがり?」

「うん、今日は海寄って帰る。良い波来てそうだし。」

「わあ、いいね!」

「君ももうあがりだろ?来たきゃ、来れば?」

「やったあ!」

「けっこう、がんばってるじゃん。」

「え?」

「バイト。正直、すぐに辞めると思ってた。」

「やめないよ?だって、楽しいし!」

「……あ、そ。」

「もっと、いろんなことできるようになりたいなぁ。」

「君の努力次第でしょ。……ま、今の調子なら、心配ないと思うけど。やれることが増えれば、やり甲斐も出るし、もっと面白くなると思う。」

「うん、そうだね。」

「ま、どこまでがんばれるのか、見せてもらうとするよ。」

(よーし、がんばるぞ!)

 

花に笑いかける姿

「お疲れ様。」

「あ、氷室くん。もう帰るよね?」

「そう、これから海。君も、来る……?」

「いいの?お邪魔します!」

「……花、好きなんだ?」

「好きかな。バイトしてると愛着でてくるし。」

「いつも仕事しながら、花に笑いかけてるくらいだしね。」

「えっ、そうだった?」

「無自覚? なら、筋金入り。」

「ちょっと恥ずかしいかも……」

「いいんじゃない?……わりといい顔してるし。」

「えっ……」

「照れないで。……つられる。」

(ふふ、氷室くんに褒めてもらえちゃった……!)

 

日常に入り込む存在

「お疲れ。君ももうあがりでしょ?」

「うん、どうかしたの?」

「海、寄ろうと思うんだけど、君も来る?」

「えっ、サーフィンするの?ぜひ!」

「なんでそんな必死?じゃ、着替えたら行くよ。」

「うん!」

「なんか、バイト先に君がいるのが、当たり前になってきた。」

「本当?」

「うん。君、いつの間にか僕の日常に入り込みすぎ。ま、いいけど。」

「……ふふっ。」

「なに?」

「なんとなく、くすぐったいなって……」

「何それ。」

(……あれ、氷室くんの顔、赤い……?)

「え……別に、赤くない。夕日のせい。」

「ふーん?」

「なに?言いたいことあるなら、言えば?人の顔見てニヤニヤするなんて失礼。」

「えっ、にやにやしてた?」

「わりといつも。」

「ええっ!?」

 

練習で作ったブーケ

「◯◯先輩。もうあがりでしょ?」

「あ、お疲れ様。うん、氷室くんと一緒だよ。」

「じゃあ行くよ。良い波来てるから。」

「あ……ふふ、はい!」

「……あのさ、君自身花が欲しいって思うことある?」

「うーん、もらえたらうれしいかな?……もしかして、くれるの?」

「練習で作ったブーケぐらいなら。」

「本当? うれしい。」

「失敗作でも?」

「うん!」

「ふーん?じゃ、しばらく待ってて。とっておきの失敗作、作るから。」

「失敗作がとっておき?」

「そ。上手くいったブーケは商品にしないといけない。けど、生半可なの渡すのは癪だし。」

「それって、どのへんが失敗になるの?」

「いいだろ。僕が失敗と思えば失敗。それだけ。ま、失敗を期待されても困るから、今日聞いたことは忘れといて。」

「ふふ、わかった!」

(楽しみだな……!)

 

将来はふたりでお店を?

「あ、氷室くん。もうあがりだったよね?」

「そうだけど。」

「じゃあ、今日はサーフィンかな?」

「じゃあ、君はその見学?」

「ふふっ、うん!お邪魔します。」

「バイト、いつまで続けるつもり?」

「やれるところまでかな。氷室くんは?」

「僕も同じく。」

「じゃ、一緒に極めてみようか?」

「なに。将来、アンネリーに就職?」

「どうだろう。でも、すごくやり甲斐はあるよね?」

「まあ、ね。もし、この先やりたいことが見つからなかったら、それもいいかも。そしていつか二人で店を持つ。」

「えっ?」

「花を極めるんだろ?なら、君はこれ以上ない人材。ライバル店に行かれても困るし、今のうちにヘッドハンティングしとく。」

「あ、そういう意味ね。」

「? なんだと思ったわけ?」

「ううん、なんでもない!」

(はあ、ドキドキした……!)

 

氷室くんの応援

「あ、氷室くん。今日もこれから海?」

「ああ、うん。……そうだ、君も来なよ。」

「え?う、うん。」

「……おめでとう。」

「え?」

「期末テスト、まさか連続で1位になるとは思わなかった。」

「ふふっ、やったよ!」

「調子に乗らないこと。気を抜いて、つまづいてもしらないから。今回のことで、君に勝とうと奮い立ったヤツ、たくさんいると思うし。」

「そうだね。がんばらないと。」

「……じゃあ、次、また1位を取ったら、ご褒美あげる。」

「えっ、ご褒美?」

「うん。僕のできる範囲内であればなんでもいいよ。」

「本当に?じゃあ……褒めてもらおうかな?」

「え……そんなことでいいわけ?」

「うん!」

「ふーん、わかった。」

「よし、がんばろうっと!」

「……君のやる気って、ずいぶん安上がり。でもま、がんばって。応援してる。」

 

思わずやきもき

「氷室くん、お疲れ様。途中まで一緒に帰らない?」

「今日は海寄ってく。」

「じゃあ、わたしも行こうかな。いい?」

「いいけど……リョータ先輩は―― や、なんでもない。」

(風真くん?)

リョータ先輩って、やけに君のこと、気にかけてる。」

「え、そうかな?」

「……報われないな。」

「えっ、どうして?」

「さあ。僕の知ったことじゃないし。」

「?」

「ま、しっかり仕事したら?そうすれば、リョータ先輩も安心するでしょ。わざわざ君のこと、見に来なくてもよくなるだろうし。」

「たまたま立ち寄ってくれただけだよ?」

「ホントにそう思ってる?」

「違うの?」

「さあね。でも、リョータ先輩がそう言うなら、そうなんじゃない?
 ……ったく、なんで、僕がやきもきしなきゃいけないわけ?」

「氷室くん?」

「なんでもない。」

(???)