ホタルの住処 颯砂希

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恋愛

絶対に勝ちたい

「おぉ、きれいだな……いったい何匹いるんだろ。」

「ほんと、すごい数だね。」

「でもさ、どんなにたくさんいたって、オレは勝ちたいんだ。」

「うん、颯砂くんなら、絶対に勝てるよ。」

「……ん? 何の話?」

「えぇと……陸上の話、だよね?」

「きみの話だよ、◯◯。」

「?」

「出場者が何人いるのか知らないけど、きみ争奪戦は、このままオレが勝つ!……ってこと。選手宣誓って感じ。どんなライバルが来たって、オレはきみの隣を渡さないよ。」

(? わたしの争奪戦?? 颯砂くん、どうしちゃったの……?)

 

心の声でお話し

「いつもと違う世界にいるみたいだな。なんかさ、噂通りに心の声、聞こえてきそうじゃん?」

「そうだね……颯砂くんの心の声、聞こえるかな?」

「じゃあ、心の声っていう設定で話してみよう?」

「ん?」

「◯◯、今日はありがとう……」

「えぇと……颯砂くん、わたしも楽しかったよ……」

「ははっ、いいじゃん。◯◯、オレは一番が好きだ。陸上だけの話じゃないんだ。だから、きみの一番にもなりたい。」

「え?」

「◯◯、以上です。」

(颯砂くん……)

 

みんなの個性

「ここのホタルたちって個性的だな。ほら、色も光り方もさ。」

「うん。」

「オレたちも、全然ちがうもんな…… あ、オレと玲太とイノリのこと。前に、一緒に出掛けたことあったよな。」

「うん、そうだったね。」

「玲太はさ、何でもできるスーパーマンだろ…… で、イノリは……オレにはよくわかんないくらい、面白いヤツ。」

「ふふっ。」

「それに比べて、オレなんかただの真面目じゃん?」

「颯砂くんは面白いスーパーマンだよ。」

「それ、褒めてんだよな?」

「うん。」

「ま、いいよ。でもオレ自身は、超真面目の堅物って思ってんの。だから、あの二人に負けないように、オレも自分を磨かないとさ。きみに飽きられないためにも!」

「そんなことないと思うけど……」

「ああ、ごめんごめん。」

(颯砂くんも、じゅうぶん個性的で魅力あるんだけどな)

 

もしも声が聞こえたら

「前にさ、玲太とイノリと4人で出かけたじゃん?」

「うん。楽しかったね。」

「もしさ、ここに4人で来たら大変そうだなって。」

「え、どうして?」

「だって全員の心の声が聞こえてきたら うるさくて、やばい。それにさ、イノリの心の声とか、想像しただけで面白いよ。」

「氷室くんの心の声……」

「うん。言いたいことズケズケ言ってさ、毒舌で―― ……ん? いつも通りか……」

「ふふっ、氷室くんが聞いたら怒るよ?」

「すげぇ文句言いそう。まあ、それもいつものことだけどさ。玲太の心の声は……って、いつも顔に出てるか?」

「じゃあ、颯砂くんは?」

「オレは……無口かも。」

「ええ?」

「ほら、オレ 普段から何も考えてないから?」

(颯砂くんが一番色々考えてそう……)

 

いい雰囲気って?

「……こういう景色見るとさ、いい雰囲気になるんだろ?」

「え?」

「ほら、一般論だよ。キレイな夜景とかさ?そういうの定番じゃん。」

「キレイだとは思うよ。でもいい雰囲気って……」

「そういえば、いい雰囲気ってどういう感じなんだろうな?自分で言っといてなんだけど。」

「うん、難しいね。」

「まいったなぁ……今日はここでさ、きみといい雰囲気になる予定だったんだけどなぁ。」

「ふふっ、予定?」

「そう。昨日から結構考えてたんだぜ。ま、でも、きみが笑ってたから何でもいっか。じゃ、いい雰囲気は、おあずけってことで。」

(いい雰囲気かわからないけど……颯砂くんといると、いつも楽しい気持ちにさせてもらってるけどな)

 

光ってアピール!

「すごい数だけどさ、昼間はどこに隠れてんのかな?」

「泉のどこかにいるんだろうね。」

「だよな。やっぱりさ、しっかり光ってアピールしないと気付かれないんだな……オレも反省した。もっと、きみにアピールしないとな。」

「え?」

「二人で出かけるだけで楽しいけどさ、毎回勝負するくらいで、行かないと。きみに気づいてもらえないだろ。」

「颯砂くんに気が付かないわけないよ?」

「そうじゃなくて、オレがきみに好意を持ってるってこ―― ……っ!」

「颯砂くん、今、なんて?」

「やば……心の声、出たかも……」

(なんだかわたし、ドキドキしてる……)

 

ちょっと暴走

「可哀想だけどさ、こんだけキレイだと捕まえたくなる。昆虫採集って、男の本能かも。」

「ふふ。本当にしちゃダメだよ?」

「わかってるよ。そのくらいの分別はつく。……あ、暴走するときもあるけど……」

「ん?」

「忘れてるならいいよ。こないだ、勢いあまって変なこと言ったろ。ごめん。まあ、気持ちは今も変わんないけど、タイミングってあるもんな。もうちょっとスマートにやるよ。」

「あ……恋愛イコール、わたし?の―― 思い出した……」

「なんだよ。きみがそんな風に照れたら、オレ、また―― ……はぁ。ここのホタルと一緒。可愛くてキレイで、捕まえたくなっちゃうけど、今は捕まえない。」

(ホタルと一緒……?颯砂くんの気持ちはうれしいけど……)

 

家族からの質問攻め

「ホタルの家にお邪魔します。」

「ふふ、うん。お邪魔します。」

「そういえばさ、この間、きみが家に来てくれたろ?あの後、大変だったんだぜ。」

「え?何か、失礼なことしちゃったかな……?」

「ううん、違う。質問攻めしてきたんだ、母さん。それに父さんまで。名前から始まって、趣味とか好きな食べ物までさ、知ってどうすんだよって感じ。」

「なんだか恥ずかしいな……颯砂くん、大変だったね?」

「うーん……まあね。でも、本当に大変だったのはその後かな。」

「え?」

「さっきまで、きみがいたって思うとさ、自分の部屋なのにそわそわしちゃって眠れなかった。」

「ふふっ、どうして?颯砂くんて面白い。」

「全然面白くないって。最後にはきみの匂いまでしてきてさ……まだ、どっかに隠れてるのか?って探したよ。おかげで朝のトレーニング、眠たかったー。」

(えぇと……迷惑をかけたわけじゃない、のかな?)

 

さながらワンチーム

「ホタルたちは同じ色、オレたちは同じ服。」

「ふふっ、偶然だったね?」

「うん、周りの人も見てたし、なんかテンション上がった。ワンチームって感じかな。あのさ、しばらくは会うとき、これでいいんじゃね?」

「えっ、同じ服ばっかり?」

「ダメか~。女子は服とか好きだもんな。じゃあ、偶然を待つよ。」

「うん、そうしよう。」

「あ……はば学の制服も、ペアルックみたいなもんじゃん。なんか、学校楽しみになってきた。」

「学校はペアじゃなくて、みんな一緒だよ?」

「そっか……」

(颯砂くん、そんなにうれしかったのかな、ペアルック。なんか、可愛いかも?)

 

きみのことが心

「あのさ、今日みたいなこと、結構あるの?ほら、妙なやつに声かけられてたろ?」

「そんなにはないと思うけど……」

「……ってことは、あるんだよな……オレがいるときなら、追っ払うけど いない時って考えると嫌だな。」

「もう。わたし、子どもじゃないんだから。」

「子どもでも大人でも関係ないよ。きみだから心配なんだ。やっぱりキレイだし可愛いし、目立つからああいうの、来ちゃうよな~。」

「えっ?そんなことないよ……」

「あるある。こればっかりはどうにもできない。きみの魅力は隠せないし、隠すのはもったいないし。いっそのこと、もっと魅力全開しちゃう?その方が変なやつが怖じ気づくかも。」

「魅力全開?」

「そう、もう本気出しちゃっていいよ。オレも見たいし。はい。」

(はいって言われても。颯砂くん、なんだかヘンだよ……もしかして、この場所のせい?)

 

欲しいプレゼントは……

「きみに誕生日プレゼント渡したろ?覚えてるかな。」

「もちろん。すごくうれしかった。」

「そっか。あれを選ぶ時さ、店の人に色々聞かれたんだ。親身になってくれんのはいいんだけどさ、オレは自分で選びたくて。」

「ふふ。颯砂くんが選んでくれたんだよね?」

「うん。でも女子には、流行ってる物の方がよかったかなって、渡してから思ってた。」

「颯砂くんが好きな物の方がいいよ。」

「そう? あ、オレが思うきみが喜ぶものってことだよ。オレが好きなもんじゃなくてさ。」

「うん。颯砂くんが好きなものは、わたしがプレゼントすればいいでしょ?」

「マジで?オレの好きなものって……」

「?」

「いやいや、ちょっと馬鹿な想像した。あ、頭冷やしてくるっ!」

(え、どうしたんだろう?颯砂くん……)

 

忘れられない体験

「記憶ってさ、ふっと蘇る時あるよね。」

「急にどうしたの?」

「うん、怒んないでよ?最近、牛乳とか牛とかからの連想でさ、きみが出てくんだよ……」

「ええ!? な、なんで?」

「多分、前に行った乳しぼり体験。あの時、牛をはさんで向かい合ってただろ?」

「う、うん。あの時の颯砂くん、見てるばっかりで全然やらなかったよね。」

「ああ。きみが楽しそうに牛の乳しぼってんのが、不思議な気分でさ……あれから朝食に牛乳が出てくると、妙な気分になってさ……朝練が絶好調なんだよ。」

(……ん?困ってるのか喜んでるのか……よくわからないよ、颯砂くん)

 

ここはまるで温泉?

「ここってさ、冷泉っていうんだろ?温泉ほどじゃなくて、ちょっと温かい水が湧いている。」

「そのおかげで、ホタルたちも長生きできるらしいよね。」

「うん、まさにホタルたちにとっては温泉だな。」

「そっか。颯砂くん、お風呂好きだもんね。」

「まあね。温泉、サウナ、大浴場……みんな気持ちいいじゃん。あ、ジャグジーもね?」

「ん?」

「ええ、忘れたのかよ?温水プールのジャグジー。」

「ああ!貸し切り温泉気分だったね。」

「そうそれ。あんときはヤバかったー。」

「何かあったっけ?」

「出たよ。まあ、オレもだいぶ耐性はついて来たけどさ。今でも水着姿で不意をつかれたら、無理だわ……」

(耐性……?)

 

新鮮な出会い

「そうだ。前に図書室できみに会ったよね?」

「あ……『運動理論』っていう難しい本を読んでたよね?」

「ん?何でタイトル知ってんだよ。 ああ!オレがいなくなった後、確認したな?」

「えーと……」

「保健体育の本じゃなかっただろ?」

「ふふっ、うん。」

「あの時、グラウンドや教室じゃなくてさ、図書室できみにあったのがなんか新鮮で楽しかったんだ。」

「うん、わかるかも。」

「だよな。他にオレたち二人があまり行かなそうな場所ってどこかな?」

「うーん……進路指導室とか?」

「ははっ、すごいとこ来たな。でも、いいかも?今度二人でこっそり、進路指導室行ってみようよ。」

「ええ?怒られるよ?」

「それが、いいんだよ。ドキドキするだろ?」

(でも、氷室先生に見つかったら……って思うと、ドキドキというより、ヒヤヒヤ……?)

 

モテるための理論

「なぁ、ホタルにもモテるヤツと、モテないやついるのかな?」

「光が強いとモテるとか?」

「そう、そういうのあるよなきっと。ほら、人間でも、なぜか小さい頃って足が速いとモテるじゃん?」

「ふふっ、そうかも。」

「だからオレ、昔、少しモテたんだ。足だけは常に速かったから。足が速いとモテる理論だと、オレは最高のモテ男ってなるじゃん?」

「うん。そうだね。」

「でも、そんなんじゃなかった。小学校の頃もオレより遅い2番目のやつの方がモテてたよ。なんか、みんなでさ、そいつがオレに勝てるように応援したりして……」

「それは、複雑な気分だね……」

「だよな。なんか、先生まで一緒になって、オレに勝つための秘策を教えたりさ。いっそ負けてやろうかと思ったけど、勝負ってなると、絶対勝ちたい。」

「うん、颯砂くんらしくていいと思うよ。」

「おう、ありがとう。結局オレは一度も負けなかった。でもさ、最終的に全校の敵みたいな扱い?……で、こうして足は速いけどモテない男が誕生したってわけ。」

(天才だから妬まれたりしたのかも。颯砂くんにしかわからない複雑な思い出もあるんだろうな……)

 

期間限定は大事

「この景色って、今だけの期間限定だろ。それをきみと見られるって嬉しいな。」

「うん。」

「ここのホタルに、桜だろ……あと何かあったかな?期間限定のスポットって。」

「うーん、花火、それに海水浴とかスキーも?」

「あれ、結構あるな?ていうかさ、映画やイベントの内容も変わるもんな。」

「ふふっ、そうかも。」

「期間限定のスポット優先っ とか思ってたけど、どこでもガンガン行こ!長い目で見ればさ、きみと一緒にいられる今が、特別期間なのかもな。」

(そっか……はば学の三年間が特別期間なのかも)

 

恋愛の悩み

一番になりたい

「ちょっと質問いい?」

「うん、どうしたの。」

「あのさ、きみの一番近くにいるのがオレじゃないってのはさ、わかってる。」

「えっ……」

「それはいいんだよ。たださ、今日ここに来てくれたってことは、オレも可能性あるかな?」

「颯砂くん……」

「可能性あるならオレ、追いかける。まぁ、本来は先行逃げ切り型だけど?」

「え?」

「そこ、笑うとこ。でもさ、すぐ追い抜くよ、オレ。」

「ふふっ、追い抜いたら誰もいないよ?」

「だよな。じゃあ、手加減して追いかける。その手加減が難しいんだよな……」

(今日の颯砂くん、少しいつもと違うかも……?)

 

遠い笑顔

「なんか、いい雰囲気だよな……」

「そうだね。ホタルの光であふれてる。」

「ホタルもそうなんだけど……きみとあいつのこと。」

「え?」

「この前見かけて、なぜか声かけられなかったよ。きみがあんな顔で笑ってるの、初めて見た。でもさ、そう感じるってことは、悔しいけど、オレはきみをあんな笑顔にできてないってこと。完敗だよ。」

「颯砂くん……」

「でもさ、今日ここにきてくれたってことは、まだ、追いつける距離だろ?オレ、前を走られるの慣れてないからさ。」

(颯砂くん、どうしたんだろう……?)

 

追い抜かれた気持ち

「すごい数のホタルだな……」

「うん。キレイだね。」

「そうかな……キレイとかじゃなくて、みんな必死に見えるよ。オレの感情がそうさせるのかもしれないけどさ。」

「颯砂くんの感情?」

「うん。きみの隣でトップ走ってたと思ったら、抜かれた……今は背中見てるって感じかな。」

「あの……」

「ごめん、ごめん。そんな顔すんなって。これ以上かっこ悪くなりたくないよ。ゴールはまだ先だって思ってる。勝負はこれからだよ。」

(颯砂くん……)

 

もっと大切に

「こうやって二人でゆっくり話すの久しぶりかもね。」

「そうかな?」

「覚えてないのかよ?」

「颯砂くんは覚えてるの?」

「……覚えてないな。」

「ふふっ、もう。」

「ははっ、これがいけないのかな?もっとさ、きみと会う一回一回のデートを大切にしろってこと。」

「え?」

「反省するよ。今、きみの一番近くにいるのがオレじゃないってのはわかる。だから、今日のホタルからは、きみとの時間を大切に、ってことで行きます。」

「ふふっ。なんか変だよ、颯砂くん。」

「変でもいいんだ。次、ここ来るときに、オレがきみの一番近くにいられればさ。」

(颯砂くん……)

 

いないところでも負けた

「玲太って、不思議だよな……」

「え、風真くん?」

「うん、あんなやつ見たことないよ。勉強も運動も何でもできるのに、なにもしない。」

「風真くんはひとり暮らしだし、おじいさんの店やシモンのバイトもあるから大変なんだと思うよ。」

「はぁ……あいつがいないとこでも負けた。」

「?」

「オレの目標はわかりやすいし、納得できるまでやるだけだから簡単。でも、玲太のは違うんだろうな。オレなんかには全然わかんないよ。あいつが何に向かって、何を悩んでるかなんてさ。」

「颯砂くんの目標だってものすごく大変なことだと思うよ。わたしには何もできないし……」

「きみが近くで、気にしてくれるだけで、実現度が増す。」

「そう?」

「うん、そうだよ。玲太のも、きっと同じだろうな。よっし、競技じゃないけどさ、玲太とも勝負してる気がしてきた。」

「颯砂くんと風真くんが勝負?」

「そう、きみの隣争奪戦?ま、ちょっと分が悪そうだけどさ。」

(わたしの……争奪戦?)

 

後輩はすごいヤツ

「イノリって何者だ?」

「えっ、急にどうしたの?」

「だってさ、陸上部の後輩でもあんなズケズケくるやついないって。生まれもった特徴なのか知らないけどさ、大したもんだよ。」

「ふふっ、颯砂くんは氷室くんが気に入ってるんだね?」

「ふーん……ずいぶん他人事みたいに言うんだな?」

「え?」

「『え?』じゃないっての。はぁ……オレがきみの一番近くにいるって思ってたけど、いつの間にかイノリにするするっと抜かれた。」

「えっ……」

「自覚なしか……イノリってやっぱすげぇな。……勝ち目あんのかオレ?」

(颯砂くん、わたしと氷室くんのこと気にしてるみたい……)

 

速いほうが好き?

「こうやって飛ぶスピード見てると、結構、まちまちなんだな。」

「うん、ゆっくりなのもいるし、速いのも。」

「きみがホタルだったら、どっちが好き?」

「ええ、ホタルだったら?」

「そう、メスのホタル。」

「うーん……じゃあゆっくりフワフワしてるのかな?」

「ええ?それって……きみボタルの話じゃん?」

「あ、そうかも。」

「ははっ、オレボタルだったら、どんな飛び方でもできるよ。」

「今度は颯砂くんボタルの話?」

「そう。オレボタルは、きみが好きになる飛び方で、ぐるぐる飛び回る。」

「ふふっ、目が回りそう。」

「ま、それも作戦の1つかな。 はぁ、ホタルだったらきみとペアになるの、もっと楽なんだろうな……」

(颯砂くん、なんの話してるのかな……)

 

ファッションは難しい

「オレさ、ファッションに興味はあるんだよ。たださ、難しいんだよな。」

「急にどうしたの?」

「店の人に言われたんだ。いつも同じじゃなくて、冒険してみたら楽しいってさ。そう言われると、同じものの色違いとか買っちゃってたなって。」

「颯砂くんがファッションで悩んでるって、ちょっと面白いかも……」

「なんだよ。きみはいつも色々なファッションだからさ、聞いてみたのに。」

「ごめんね。でも颯砂くんはスタイルいいし、どんなファッションも似合いそうだけど。」

「テキトーだな。きみ、そういうとこあるよな?まったく、逆。オレ、手足の長さとか筋肉量とか普通じゃないからさ。既製品だとピッチピチか、ダッブダブ。」

「ふふっ、そうなの?」

「そうなんだよ。よく見てみろって。はぁ……何着ても似合うやつはいいよな。」

「いつもの颯砂くんのファッション、似合ってるし、すごくかっこいいよ?」

「ほんとに?ほんと? なら、いい。よし、このまま、色替えパターンでいいや。」

(うん?ちょっと誤解を与えてしまったような……)

 

友人

きっと大騒ぎに

「今日、オレたちがここに来たって知ったら、あいつら大騒ぎするよ。」

「あいつらって……」

「玲太とイノリ。玲太は『ふぅーん』とか言いながら、超不機嫌モードだろ。イノリは『意外、そういうとこ行くんだ』とか言っても、最後は『次は連れてってよ』って可愛いこと言いそう。」

「ふふっ、うん、声が再生されるくらい自然だった。」

「そうだろ?オレ、結構あいつらのことは観察してんだ。もちろん、きみのこともね。」

「え?」

「あいつらの前できみは……『えぇと……』で、済ます感じだろ?」

「えぇと……」

「ほら、でた。」

「もう!」

「ごめん、ごめん でも、あいつらには内緒にしとこう?本当にさっきと同じ事言ったら笑っちゃうだろ?」

「ふふっ、うん!」

(颯砂くんは風真くんと氷室くんのこと、よくわかってるんだな……
 ……わたしのことも)

 

いっしょに来たから、勝ち

「きみとホタルを見てるのはオレ。」

「う、うん。いきなりどうしたの?」

「玲太とイノリと話してたんだ。ここできみの心の声を聞き出したいってさ。」

「それで……何か聞こえた?」

「ううん、全然。でも、ここにきみと来るってことが重要。だからオレの勝ち。ここに来たこと、さっそく二人に報告だ。」

「ええ? 教えるの?」

「うん。イノリはオレが言っても信じなそうだから、きみに裏トリに行くな。……玲太もだな。もし来たらさ、オレが予想した通りって言っといて。ふふん。」

(颯砂くん、楽しんでる……?)

 

ここがホタルの学校なら

「すごい数のホタルだな。」

「うん。」

「よくわかんないけど、何百匹くらいだよな。ちょうどはば学の全校生徒って感じ?」

「ふふっ、ホタルの学校?」

「そう、ホタルのオレもきみもどっかにいる。うーん……ほら、あの速いのがオレでしょ。」

「ふふっ、どれ?」

「あー、きみがいた……あそこ、ひと際にぎわってるとこ。ホタルのきみも、モテモテだよ。」

「え?」

「だってさ、最近きみの周り、人がすごいじゃん。話しかけるのも一苦労。知らない男子もいるしさ。ま、オレは競争相手が多い方が燃えるけどね。」

(そういえば、お話しする人が増えたかも……でも、モテモテとは違うと思うけど)

 

みんなに伝わる魅力

「なんか最近、きみの周りにぎやかになってるよね。」

「え、急にどうしたの?」

「ホタルみて思い出した。光が集まってるとこあるじゃん。まさにそんな感じ。」

「そうかな……」

「オレは嬉しいよ。きみの魅力がちゃんとみんなに伝わってるってことだろ?なんか気持ちいいじゃん、きみの正しい情報が広がってるんだぜ。」

「でも、あそこのホタルみたいに大勢に囲まれたら困るかも……」

「確かに、きみの周りに人が増え続けても困るか。そんなきみを今、独り占めしてるって思えば、ありがたみが増すけどさ。よっし、きみとの時間、もっと有意義にしないとな。」

(たしかに、いつの間にか友だちが増えていたかも……)

 

学食はお気に入りの時間

「ホタルって何食べてんのかな?草とか?みんなで食べてんなら、オレたちと一緒だな。」

「一緒?」

「うん。学食でワイワイ食べてる感じと同じかなって。オレ、あの時間気に入ってんだ。きみは、学食好き?」

「うん、おいしいし、楽しいよね。」

「美味いんだよね、どのメニューもさ。オレが気に入ってるのは、うどん。結構柔らかいところがいいんだ。コシが強ければいいってもんじゃない。」

「ふふ!」

「次、学食行くときはさ、うどん食べようぜ。きみとメニューかぶると、テンションあがるし。逆に、オレじゃないヤツときみが一緒だと何か微妙。」

「?」

「あ、待てよ、バンバンジーもいいんだよな~。どうすっかな……」

「えぇと、食べるときにゆっくり考えれば?」

「ダメだよ。今、決めておかないと同じにならないだろ?」

(颯砂くんて、やっぱり計算して行動するのが好きなのかな?)

 

いいこと言ったはず

「ホタルの光ってこんなにキレイだったんだな。」

「うん……」

「『何を見るかじゃなくて誰と見るか?』ってことかな。」

「え?」

「『え?』って何だよ、せっかくいいこと言ったのにさ。きみと見てるから、キレイに見えるって言ってんだよ。」

「う、うん。でもここのホタルは、いつもキレイだよ?」

「へー。他に誰と見に来てるんだか知らねぇけどさ。 はぁ……オレは自分が思ってたより、キレイに見えた。本気できみのおかげだと思うよ。それじゃだめ?」

「ううん、そう言ってもらえてうれしい。」

「よっし、これで予定通り。」

「予定?」

「実はさ、昨日からここできみと何しゃべるかシミュレーション済み。」

「ふふっ。なんか、陸上のトレーニングみたいだね?」

「そう。何でも計画的に、がモットーです。」

(いつも色々考えてくれてるんだな……ありがとう、颯砂くん)

 

お楽しみ

ふたりで見るホタルは格別

「小さい頃、家族でキャンプに行ってさ、こんな感じでホタル見たことあったんだ。」

「いい思い出だね。」

「うん、強烈な印象だったよ。ホタルといえば、その時の思い出が濃くて、ずっと残ってる。きみとここに来るまでは。」

「え?」

「きみとこの景色見て、思い出がすっ飛んだ。圧倒的にキレイだ。ほら、こんないろんな色に見えたかな?」

「ここはふしぎな噂もあるしね。特別なホタルかも?」

「そうだな。特別な場所で、きみと二人。歴代ホタル記録、更新しても不思議じゃない。」

「歴代ホタル記録?」

「そう、きみと見てる今が一番だってこと。来るたびに更新できるといいよな。ホタル記録。」

(ふふ、颯砂くんの素敵な思い出がひとつ増えればうれしいな)

 

犬たちに大人気

「オレ、知り合いに犬の散歩頼まれてるんだけどさ、自分のトレーニングとかでできない時期もあるんだ。」

「そうなんだ。ちょっとさみしいね?」

「まあね。みんな、可愛いとこあるしさ。でさ、こないだ偶然会ったんだよ。飼い主のおじいさんが散歩してるの。」

「喜んだでしょ?ワンちゃんたち。」

「すごかった。ほとんど襲われてたよ、オレ。普段はみんな大人しいから、飼い主も驚いてた。」

「颯砂くんに会って、我慢できなくなっちゃったんだね。」

「らしい。普段大人しくしてる分、爆発力が半端なかった。その流れで、海岸ダッシュ何本したかわかんないよ……」

「ふふっ、楽しそう。」

「他人事だよな……飼い主のおじいさんも同じ。オレにみんな預けて、後で家に連れてきてだってさ。トレーニング後に更に追い込んだ感じになっちゃったよ……」

(颯砂くんと一緒に走るワンちゃんたち、すごく楽しかっただろうな!)

 

ひとだまだったら……

「キレイだけどさ……」

「うん、どうしたの?」

「なんか、ホタルの光は『ひとだま』に似ているとか……そういうの聞いてさ?全然似てないよな?」

「ふふっ、もしかして……」

「まさか!恐いんじゃないよ。だってさ、これ全部『ひとだま』だったら何人分だよ。」

「たしかに大混雑だね。」

「だろう?超人気スポットじゃん。そう思うと、怖くはない。……いや。やっぱり、たくさんいるってのも……」

(颯砂くんがお化け苦手って、なんか可愛いかも……?)

 

食事メニューの管理

「うちは母さんも陸上選手だからさ、食事とか色々気を使ってくれるんだ。朝と夜のメニューは、しっかり管理されてる。」

「そうなんだ。お昼は、学食が多いよね?」

「うん、昼は自由に好きなもの食べてろってさ。大盛りもメガ盛りもなんでもあり。」

「へぇ、すこし意外かも。」

「3食全部ガチガチだと、オレ、飽きっぽいから。」

「すごいな、お母さん。颯砂くんのこと何でもわかってるんだね。」

「まぁ、母親だからな。」

「ちゃんと管理されてる颯砂くんも偉いよ。」

「うーん……その言い方、なんかトゲがあるな……まあ、でも 学食で好きなの沢山食べるのが、楽しみっていうのは本当。」

「ふふっ、トレーニングと食事が颯砂くんの基本だね?」

「あとは、きみ。」

「え?」

「きみと二人でこうして遊べれば、心身ともに絶好調、インハイ優勝間違いなしっ。……かな?」

「そうなの?」

「ああ。これがないと、やる気が出ない。だから、これからもよろしくな。」

(少しでも颯砂くんの力になれればうれしいな……)